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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第一話 虚木超常現象研究所の人々
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1-2


「なるほど、楓さんですね。それでお兄さんがどうされたんですか?」


 律がメイド服から取り出した手帳にメモを取りながら尋ねる。


「はい、私の兄……あきら兄さんは、私の五つ上で家族想いの優しい兄さんでした。けれど、何故か最近自室に籠るようになって……昨夜とうとう家を飛び出して居なくなってしまったんです」


 そこまで話し俯く楓。その様子を見ながら、新はためらいがちに手を挙げた。


「あ〜、ちょっといいかい? 楓ちゃんには悪いけれど、それは警察や探偵さんなんかの領分な話じゃないのかな? ましてやお兄さんは成人前後の男だろう? 一晩くらい……」


 新の言葉に楓もまた俯いたまま頷く。


「はい、両親もそう言っていました。もう少し様子を見て、警察へ捜索願いを出すか考えようって。……でも、私見たんですっ!」


 顔を上げた楓の目は、真っ直ぐに新を見つめた。新もまた、その視線を正面から受け止める。


「見た? 一体何を見たのかな?」


「昨夜……私が、家を飛び出した兄さんを追って外に出ると、すぐに道端に立っている兄さんを見つけました。声をかけようと近づくと、突然兄さんの……兄さんの背中から鳥のような翼が飛び出して、そのまま飛んで行ってしまったんです。信じて……もらえないかもしれません。両親も信じてはくれませんでした。この目で見た私自身、未だに信じられません。ですが、本当に見たんですっ!」


「……八葉」


 新が横に座る八葉を見る。八葉もまた新を見て頷いた。そこには、先程までの緩い空気は微塵も無い。


「ああ、おそらくそうだろうな。楓よ、今なにか兄の私物や写真を持ってはいないか?」


「あ、はい! 兄さんの写真を持ってきました」


 楓は一枚の写真を取り出し、こちらへと差し出す。楓と、おそらく兄である明だろう、一人の男性が仲よさそうに、笑いあって写っていた。


「ふむ……」


 八葉がその写真に、包帯で覆われた右手を置く。一瞬、置いたその手が包帯の中で、バタバタと暴れるように本来ありえない向きに動いた。


「……なるほど」


「あの……兄さんは一体どうしたんでしょうか?」


 恐る恐る八葉に楓が尋ねる。手の異常な動きには気付いていないようだ。しかし、八葉は質問に答えない。


「八葉、やっぱりか……」


「……ああ、残念ながら当たり、だな。だが、本格的に覚醒したのが昨夜なら……まだ間に合うやもしれんぞ」


 八葉の言葉に頷くと、新が楓に向き直る。


「いいかい、楓ちゃん。信じられないかもしれないけれど、よく聞くんだ。どうやら、君のお兄さんは今、ある怪異に取り憑かれ、非常に危険な状態になっているようだ」


「怪異……?」


 おうむ返しに尋ねる楓に、八葉も頷き肯定する。


「うむ、人間に憑依し、その者の精神と肉体を喰らい、やがてはその者に成り代る怪異、神魔しんまだ。楓が見たと言う翼は、そいつが表面化した一端に過ぎん」


「そんな! ……そんなものが兄さんに?」


「そうなんだ。だけど安心してくれ。俺達が必ず、君のお兄さんを救いだす。だから、それまではここで律と待っていてくれないか?」


「ここで……ですか?」


「そうだ。日没までには、必ずお兄さんを連れ帰る」


「……わかりました。どうか、兄さんを……明兄さんを助けてください!」


 頭を下げた楓の言葉に三人は大きく頷く。


「よし。この依頼、確かに俺達、虚木超常現象研究所が承った。律、後は任せる。行くぞっ、八葉!」


「はい! 二人とも気をつけてください!」


「うむっ!」


 新は立ち上がると、八葉と共に家を出る。


「新、こっちだ!」


 包帯に覆われた右腕を、まるで空間を探るように、前に伸ばしたまま八葉が走り出す。新も短く「応っ」と応えると、そんな八葉に続く。

 八葉の誘導で市内を走り抜け、辿り着いたのは町外れの廃ビルだった。


「ここ……か」


「ああ、『臭い』はこの中が一番強いな……間に合えばいいが」


「間に合うさ……いや、俺とお前で間に合わせてみせる」


 そう言うと、躊躇なく二人は廃ビル内へと進んだ。

 しばらく誰も立ち入ってはいないのだろう。廃ビルの中には、埃っぽい空気が充満し、外の世界と隔絶されたような雰囲気のあるここではまるで、外の暑さすら遮られたようだ。


「下だ、新」


 八葉が下へと降る階段を指差す。


「地下か……よしっ!」


 新は、ポケットから小型のライトを取りだし点灯すると、八葉が指し示した地下を目指す。やがてライトの光は、階段を降り切った所にある、一つの扉を照らし出した。

 新が八葉と目線を交わし頷きあう。そっと押すと、多少軋んだ音を立てながらも、扉は抵抗なくゆっくりと開いていく。内部の篭った空気がブワリと舞った。


「だ、誰だっ!?」


 その時、闇の中から慌てたような男の声が響き渡る。新は臆する事なく、その声のする方へと、ライトの明かりを向けた。

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