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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第四話 紅蓮の記憶と鬼師匠
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4-4


「これって、この木が光っ……てるのか?」


「ああ、間違いなく光っているね、巧。これは一体……大昔にあった蛍光塗料のような物なのか……」


「あっ、巧兄! 木がっ!」


 その時、三人が見つめる中で、御神体に変化が現れる。淡かった光が強まり、まるで見えない誰かが持ち上げたように、その鉢ごとフワリと、三人の目線の高さ辺りまで空中に浮かんだのだ。


「お、おいっ! 哲也っ!」


「ああ、流石にこれは普通じゃないっ!」


 突然の超常現象に焦る二人。一方、八葉はその輝く光に魅せられたように、手を伸ばした。


「凄いね……綺麗……」


「っ! 待て、八葉!」


 巧が八葉の腕を掴む制止しようとする。しかし、ほんの少しの差で、八葉の指先が木の枝へと触れた。


「あっ……」


 八葉の指が触れた途端、御神体の放つ光が目も開けていられない程眩しくなる。瞼を通してなお激しい光の中で、巧は何かがドサリと落ちる音を聞いた。


「巧っ、八葉ちゃんがっ!」


「八葉っ!」


 ようやく弱まった光。それでも御神体の光は完全には消えず、周囲は蛍光灯を点灯したように明るい。目を開けた巧と哲也の目に飛び込んできたのは、力無く倒れた八葉の姿だ。

 一見すると眠っているような表情だが、ピクリとも上下しない胸が、呼吸が止まっている事を教えていた。


「ど、どうすればっ」


「落ち着くんだ、巧! ひとまず八葉ちゃんを連れて、ここを離れようっ! おじさん達に伝えるんだ!」


「そ、そうだな……よし、俺の背中に八葉を乗せてくれ、哲也」


「ああ、わかった!」


 背中を向けしゃがむ巧。哲也はその背中に、グッタリとした八葉を抱えてもたれさせた。

 八葉をおぶった巧が立ち上がる。その時、巧の背後から不思議な声が響いた。


『やれやれ……とうとう破られてしまったか』


「えっ?」


 巧が振り返り、辺りをキョロキョロと見回す。しかし、声の主はどこにも見当たらない。


「どうしたんだ、巧?」


「いや……今、誰かの声が……」


「僕には聞こえなかったよ。おそらく空耳だろう。そんな事より早くここから離れようっ!」


「お、おうっ!」


 巧が頷き、八葉を背負ったまま、開けっ放しだった扉から外へと飛び出す。そのまま二人は一目散に巧達の家へと走り帰った。


「父さんっ! 母さんっ! 八葉が大変なんだっ!!」


 勢い良く玄関の引き戸を開け、巧が力一杯叫ぶと、すぐに寝間着姿の両親が出てきた。


「どうしたんだ、巧。こんな時間に……」


「あなた達、一体何を……」


 二人の喋りかけた言葉は急に途切れた。今二人は哲也も巧も、その背の八葉も見ていない。視線は三人を飛び越え、その向こうへと注がれていた。

 ザワザワと嫌な予感が巧の首筋を這い回る。それでも勇気を出して振り向くと、自分のすぐ後ろ、まるでそれが当然だと言わんばかりに、あの御神体がフワフワと浮かんでいた。


「そんなっ……」


「巧、それはなんだ! いや、まず三人とも、こっちに来なさいっ! 早くっ!」


 父親の必死な声を聞いても巧と哲也は動けない。その頭上を飛び越え、御神体が父親の胸へと猛スピードで飛び込んだ。


「なっ、なんだっ! が、がぁっ……!!」


「父さんっ!」


 御神体はまるで溶け込むように、父親の中へと消えていく。父親の顔には、いくつもの青筋が浮かび上がり、口からは唾液が白い泡となって溢れた。


「あ、あなたっ! どうしちゃったのっ!?」


 母親が父親にすがりつく。その母親の首を、白目を向いた父親が、力任せに掴み吊るし上げた。もがく母親の手足がぶつかるが、微動だにせず、そのまま家の奥へと進みだした。


「ぐぅっ……」


「父さんっ! くっ…………悪い、哲也。今すぐ近所の大人達を集めて来てくれ」


「わかった。けど、巧はどうするんだ?」


「俺は残る。父さんと母さんを、あのまま放っては行けないっ! 頼む、急いでくれっ!」


 涙を流し叫ぶ巧に頷くと、哲也は懐中電灯を握りしめ再び外へと駆け出していった。

 それを見届ける前に、巧は八葉の体を背負ったまま、父親を追って家の中へと上がる。

 そう広く無い家だ。すぐに両親へと追いついた。襖で仕切られた小さな居間の奥、相変わらず母親の首を掴み持ち上げた父親が、入ってきた巧と八葉にゆっくりと視線を向けた。


「父さんっ! 母さんを離してくれっ!」


 叫ぶ巧。しかし、父親は何の反応も示さない。

 ……否、反応は巧の予想もしない形で現れた。母親を掴む腕の皮を内側から突き破って、一本の触手が母親へと伸びる。触手はそのまま、母親の額から何の抵抗もなく内部へと滑るように入っていった。


「あっ、あああああっ!」


 触手が蠢くたびに母親の体がビクリと震える。触手を引き抜いた父親が、母親を離すと、四つん這いに起き上がった母親の身体がみるみる膨れ上がった。

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