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「これって、この木が光っ……てるのか?」
「ああ、間違いなく光っているね、巧。これは一体……大昔にあった蛍光塗料のような物なのか……」
「あっ、巧兄! 木がっ!」
その時、三人が見つめる中で、御神体に変化が現れる。淡かった光が強まり、まるで見えない誰かが持ち上げたように、その鉢ごとフワリと、三人の目線の高さ辺りまで空中に浮かんだのだ。
「お、おいっ! 哲也っ!」
「ああ、流石にこれは普通じゃないっ!」
突然の超常現象に焦る二人。一方、八葉はその輝く光に魅せられたように、手を伸ばした。
「凄いね……綺麗……」
「っ! 待て、八葉!」
巧が八葉の腕を掴む制止しようとする。しかし、ほんの少しの差で、八葉の指先が木の枝へと触れた。
「あっ……」
八葉の指が触れた途端、御神体の放つ光が目も開けていられない程眩しくなる。瞼を通してなお激しい光の中で、巧は何かがドサリと落ちる音を聞いた。
「巧っ、八葉ちゃんがっ!」
「八葉っ!」
ようやく弱まった光。それでも御神体の光は完全には消えず、周囲は蛍光灯を点灯したように明るい。目を開けた巧と哲也の目に飛び込んできたのは、力無く倒れた八葉の姿だ。
一見すると眠っているような表情だが、ピクリとも上下しない胸が、呼吸が止まっている事を教えていた。
「ど、どうすればっ」
「落ち着くんだ、巧! ひとまず八葉ちゃんを連れて、ここを離れようっ! おじさん達に伝えるんだ!」
「そ、そうだな……よし、俺の背中に八葉を乗せてくれ、哲也」
「ああ、わかった!」
背中を向けしゃがむ巧。哲也はその背中に、グッタリとした八葉を抱えてもたれさせた。
八葉をおぶった巧が立ち上がる。その時、巧の背後から不思議な声が響いた。
『やれやれ……とうとう破られてしまったか』
「えっ?」
巧が振り返り、辺りをキョロキョロと見回す。しかし、声の主はどこにも見当たらない。
「どうしたんだ、巧?」
「いや……今、誰かの声が……」
「僕には聞こえなかったよ。おそらく空耳だろう。そんな事より早くここから離れようっ!」
「お、おうっ!」
巧が頷き、八葉を背負ったまま、開けっ放しだった扉から外へと飛び出す。そのまま二人は一目散に巧達の家へと走り帰った。
「父さんっ! 母さんっ! 八葉が大変なんだっ!!」
勢い良く玄関の引き戸を開け、巧が力一杯叫ぶと、すぐに寝間着姿の両親が出てきた。
「どうしたんだ、巧。こんな時間に……」
「あなた達、一体何を……」
二人の喋りかけた言葉は急に途切れた。今二人は哲也も巧も、その背の八葉も見ていない。視線は三人を飛び越え、その向こうへと注がれていた。
ザワザワと嫌な予感が巧の首筋を這い回る。それでも勇気を出して振り向くと、自分のすぐ後ろ、まるでそれが当然だと言わんばかりに、あの御神体がフワフワと浮かんでいた。
「そんなっ……」
「巧、それはなんだ! いや、まず三人とも、こっちに来なさいっ! 早くっ!」
父親の必死な声を聞いても巧と哲也は動けない。その頭上を飛び越え、御神体が父親の胸へと猛スピードで飛び込んだ。
「なっ、なんだっ! が、がぁっ……!!」
「父さんっ!」
御神体はまるで溶け込むように、父親の中へと消えていく。父親の顔には、いくつもの青筋が浮かび上がり、口からは唾液が白い泡となって溢れた。
「あ、あなたっ! どうしちゃったのっ!?」
母親が父親にすがりつく。その母親の首を、白目を向いた父親が、力任せに掴み吊るし上げた。もがく母親の手足がぶつかるが、微動だにせず、そのまま家の奥へと進みだした。
「ぐぅっ……」
「父さんっ! くっ…………悪い、哲也。今すぐ近所の大人達を集めて来てくれ」
「わかった。けど、巧はどうするんだ?」
「俺は残る。父さんと母さんを、あのまま放っては行けないっ! 頼む、急いでくれっ!」
涙を流し叫ぶ巧に頷くと、哲也は懐中電灯を握りしめ再び外へと駆け出していった。
それを見届ける前に、巧は八葉の体を背負ったまま、父親を追って家の中へと上がる。
そう広く無い家だ。すぐに両親へと追いついた。襖で仕切られた小さな居間の奥、相変わらず母親の首を掴み持ち上げた父親が、入ってきた巧と八葉にゆっくりと視線を向けた。
「父さんっ! 母さんを離してくれっ!」
叫ぶ巧。しかし、父親は何の反応も示さない。
……否、反応は巧の予想もしない形で現れた。母親を掴む腕の皮を内側から突き破って、一本の触手が母親へと伸びる。触手はそのまま、母親の額から何の抵抗もなく内部へと滑るように入っていった。
「あっ、あああああっ!」
触手が蠢くたびに母親の体がビクリと震える。触手を引き抜いた父親が、母親を離すと、四つん這いに起き上がった母親の身体がみるみる膨れ上がった。




