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「巧兄、起きてっ!」
「巧、そろそろ行こうか」
「んあっ?」
夢の中に居た巧は、両隣から揺り動かす手と、囁くような声に目を覚ました。
哲也や八葉と、川の字に並んで布団の中で、夜が更けるのを待っていたが、いつの間にか眠ってしまったらしい。大きく伸びをすると、首をグルリと回した。
「悪い、二人共。すっかり寝ちゃってたよ」
「えへへ、実は私も。ついさっき哲也さんに起こされたの」
両手の指を合わせ、照れくさそうに笑う八葉。哲也がそんな二人に微笑むと、自分の荷物を漁り出した。
「何探してるんだ、哲也」
「ふふん、計画を遂行する為の道具さ。先ずは暗闇を照らす懐中電灯。それに僕と君達、三人分の履物さ」
哲也は荷物から三足のビーチサンダルを取り出すと、一足ずつ巧と八葉に手渡した。
「この家から神社まで、遠くは無いけれど、流石に地べたを裸足で歩く訳にはいかないからね」
「え、でも私達の靴なら玄関に……」
「なるほど、そういう事か」
首を傾げる八葉とは対照的に、巧が大きく頷いた。
「どういう事なの?」
「いいか、八葉。確かに俺達の靴は玄関にある。けれど、靴を履いて玄関の引き戸をガラガラと開けたら、どうなると思う?」
「あ……伯父さんと伯母さんに気付かれちゃうね」
「だろう? だから俺達はこの部屋の窓から出るんだ。そして、その為に玄関からこっそりと靴を持ってくるのもダメだな。もし父さんか母さんが、何かの拍子に起きて玄関を見れば、一発で俺達が外に出たとバレるだろう」
「そっか……うん、そうだね」
「解説ありがとう、巧。もちろん布団にも細工をしよう。ちょっと見たくらいなら、僕達が寝ているように見えないとね」
哲也の言葉に二人が頷く。三人はなるべく静かに手早く、細工を済ませると部屋の窓から外へと抜け出した。
哲也の言葉通り、そこから社は歩いてすぐの場所にある。しかし、街灯なんて気の利いた物は無く、自宅の灯りが消えている今、夜空の星明かりと、哲也が点けた懐中電灯のみが唯一の明かりだ。
昼間あんなに五月蝿かったセミ達も、今は静かだ。唯一聞こえる音と言えば、遠くの田で鳴くカエル達の小さな合唱だけだった。
「何だか……肝試しみたいだね」
巧の服の裾をそっと掴み呟く八葉に巧が笑う。
「ははは、大丈夫だよ、八葉。仮にお化けが出るって言うなら、ここに住んでる俺達が今まで見てないのはおかしいだろう? それとも部屋で俺達の帰りを待つかい?」
巧の言葉に八葉は慌てて首を振った。
「ううん、私も行きたい。大丈夫、巧兄も哲也さんも居るもん」
「そっか。じゃあ行くとするか」
既に外だが、それでもなるべく足音を潜めて社へと向かう三人。辿り着いた本殿は大きな物では無かったが、それでも闇の中で存在感を放っていた。
「よっと、よしっ」
巧が本殿の扉に手をかけると、鍵など元より無い扉は簡単に開く。中には祭壇が設けられ、その中央にはちょうどサッカーボールが丸々入る程の大きさがある、古めかしい木箱が置かれていた。
「巧、御神体って、これ……かな? 結構大きいなぁ」
「そうだな。なあ、何が入っていると思う?」
「さて、何だろう。手無女所縁の御神体だからなぁ、彼女の遺髪とかかもしれないけれど……まあ、それは開けてみてのお楽しみだね」
哲也が拝むように両手を合わせ、箱の蓋に手をかける。巧と八葉も、それに倣い両手を合わせるが、哲也のあげた声に顔を上げた。
「あれ……これ、開かないな」
巧が見る限り、木箱には曰くありげなお札や紐どころか、鍵一つついてはいない。それなのに、目の前の哲也は開かない木箱に悪戦苦闘していた。
「見たところ、釘も何も無いのに……う〜ん、何かで接着されているのかな?」
「哲也、ちょっと貸してみてくれ」
巧が哲也の肩を叩き場所を変わる。間近で見ても、やはりただの木箱だ。首を傾げながら蓋に手をかけると……呆気ないほど簡単に蓋が持ちあがった。
「何だ、全然くっついて無いじゃないか」
「おかしいなぁ……まあ、結果オーライか。で中には何があるのかな?」
哲也が箱の中へ懐中電灯の光を当てる。中に入っていたのは、一鉢の盆栽だった。
いや、鉢に植えられた木という点では盆栽だったが、その木には葉が一切無く、まるで枯れ木という印象を受ける。
「これが、御神体? 御神木というのならわかるけれど、鉢植えというのは……」
木を照らしながら、哲也が独り言のように呟く。
一方、巧は御神体が植木鉢に生えた、ただの木と知り興が削がれ、大きく欠伸をした。
「ふわぁ……さて、御神体の正体がわかった所で戻るとしようぜ」
「そうだね。木だったのは予想外だったけど、目的は果たせたし……えっ?」
巧に同意し、懐中電灯の光を御神体から外した哲也が驚く。
光に照らされていた時には気付かなかったが、箱の中の木が淡く光を放っていたのだ。




