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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第四話 紅蓮の記憶と鬼師匠
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4-1


 周囲の木々から響く蝉時雨の中を、通学鞄を下げたたくみが、トボトボと歩いていく。


「暑っ……」


 朝だというのに気温は高く、巧は顎に滑り落ちる汗を手の甲で拭う。今日は通っている中学の終業式だ。明日から夏休みだと自身に言い聞かせながら、暑さに鈍る脚を動かしていた。


たくみにいっ!!」


 背後からの声に、巧が立ち止まり振り返る。その視線の先には、長い黒髪を揺らし、右手を高く上げて振りながら、こちらへと駆けてくる少女が居た。


「はぁ……はぁ……置いてくなんて酷いよぉ……」


 荒く呼吸しながら、少女に上目遣いで睨まれ、巧は気まずそうに頭を掻いた。


「あー……悪かったよ、八葉。けど、別に一緒に登校しなくたって良いんじゃないか?」


 巧がそう言うと、八葉はプクッと可愛らしく頬を膨らませた。


「む〜……巧兄はそうかもしれないけれど、私は一緒に行きたいのっ! ね、良いでしょう?」


「はいはい、そんじゃあ一緒に行くかぁ」


 頭を掻いたまま、巧が歩きだすと、八葉も笑顔を見せ横を歩く。

 そうして二人、しばらく歩くと林が終わり視界が開ける。道は緩やかな下り坂になり、その先にはあちこちで重機が動き出す時間を待っていた。


「工事……進んでるね」


 八葉が声を落とし呟く。中原総合科学という一大企業を頂点とするグループ企業が、この何も無い手名芽村へと移転する事を決定して一年。かつての田畑が広がる田舎の風景は、急速に消えつつある。

 故郷の田舎っぷりに普段から辟易していた巧は、この状況を内心喜んでいたが、元々都会のような雑然とした場所を好まない八葉にとっては、どうやら愉快な光景では無いようだった。


「まぁ……仕方ないさ。俺達がどうこう出来る事じゃない」


 八葉の頭に手を置き、巧が応える。寂しそうだった八葉も、心地好さそうにその手に頭を擦り付けた。

 その八葉の仕草にドキリとした巧は、腕を降ろし、熱くなる頬を誤魔化すようにそっぽを向く。すると即座に八葉から、不満気な声があがった。


「え〜、もう終わり? もっと撫でてよ、巧兄!」


「や、八葉、お前ももう子供じゃないんだし、それにほら! 早く行かないと遅れるぞ」


 ドギマギしながら巧が再び歩きだす。八葉もまた、巧について行った。

 最近、こういう事が増えてきた。隣を歩く八葉をチラと見ながら巧は思う。

 二つ歳下の八葉は、巧の妹ではない。

 幼くして両親を亡くし、母の兄である巧の父親を頼って一緒に暮らすようになった、つまりは巧の従姉妹だ。

 それでも長い事一つ屋根の下で暮らし、巧にとっては既に妹同然の存在と言える。だが、成長と共に段々と女性らしさをのぞかせ始めた八葉を、巧はどうしても意識してしまっていた。


「どうかしたの?」


「な、何でもないっ」


 そんな巧の気持ちを知ってか知らずか、八葉が小首を傾げて巧の顔を見上げてくる。巧は、自身に芽生え始めた想いを上手く扱えず、ぶっきらぼうにそう返事するだけだった。



「やあ、巧。例の件はどうなったかな?」


 終業式を終え、教室で机に突っ伏してHRの開始を待っている巧に、 一人の男子生徒が話しかける。

 少年の名は中原哲也。この村に大企業を移転させた男の息子という事は、巧を含め一部の人間しか知らない事実だった。


「んあ? なんだ、哲也。例の件って?」


「何だ、忘れてしまったのかい? 巧の家、あの神社の御神体を、こっそり見せてくれるって約束だったろう?」


 その内容からか、声を落として哲也が巧へ囁く。巧もまた、小声でそれに応えた。


「ああ、それか。お前も家があんな科学万歳な会社なのに、どうしてそうオカルト関係好きかね」


「家業とこれとは関係無いよ。僕は純粋にそういった物が好きなのさ」


「まあ、別にいいけどな。こっちはいつでもいいぜ、哲也。ただし、やるなら俺の家に泊まって深夜決行、だな。何せ、御神体いじくるのを親父に見つかると結構マズイからな」


「何がマズイの?」


 顔を寄せて話す二人の間に、八葉がひょっこりと顔を出す。生徒数の少ないこの学校では、中学の教室は一つに統合されていた。


「お、おぅっ!? 八葉、いつから聞いてたんだ?」


「ん〜、伯父さんに見つかるとマズイーって所からかな? 巧兄、哲也さんと何か企んでるの?」


「いや……企むなんて、別に……」


「え〜、本当かな〜、怪しいなぁ〜?」


 慌てて首を振る巧を、腕組みした八葉が疑わし気にジロジロと見る。すると、哲也が笑い出した。


「ははは、誤魔化すのが下手だね、巧。仕方ない……八葉ちゃん、八葉ちゃんが内緒にしてくれるなら、僕達の仲間として歓迎するけれど、どうかな?」


「うんっ! わかった! 内緒内緒の秘密、だね!」


 哲也の言葉に、八葉が嬉しそうに笑い、人差し指を唇に当てた。

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