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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第一話 虚木超常現象研究所の人々
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1-1


 年の頃は十四、五だろうか。セーラー服姿の少女は、かれこれ十分はそこで立ちつくしていた。

 梅雨も明けた七月半ば、日々強くなっていく暑さがジリジリと身を焦がす。

 いくら夏服とはいえ、さすがに汗が頬を伝う……それでも少女は動かない。

 ここ十数年で開発が進み、急速に都市化した手名芽てなめ市だが、ビルとビルの間に隠れるようにひっそりと、まるでここだけ忘れ去られたようにポツンと建つ、昔ながらの二階建て日本家屋。少女はその玄関口に居た。

 玄関脇には『虚木うつろぎ超常現象研究所』『超常現象無料相談受けます』と書かれた二つの木札が下げられ、すぐそばには呼び鈴ボタンがある。

 少女はそこに腕を伸ばすも、躊躇い止める……そんな事をずっと繰り返していた。


「ぴゃっ!?」


「あ、あれ? お客様……ですか?」


 何度目だろうか? 少女が呼び鈴に手を伸ばした瞬間、突然玄関の引き戸が開く。

 酷く驚く少女の前に現れたのは、時代に取り残されたような家とは不釣り合いな、セミロングの黒髪の下にクリクリとした丸い目を輝かせた、可愛らしいメイド服の少女だった。


「あ、あの、私は、その……」


 思わぬメイドの出現に、バタバタと慌てる少女。

 メイドは少女を落ち着かせると、居間へ通しちゃぶ台の前へ座らせる。

 少女の前にアイスコーヒーと冷えたおしぼりを差し出すと、ペコリと頭を下げながら謝った。


「その、申し訳ありませんでした。何だか驚かせてしまったようで……」


「いえ……どうしても勇気が出なかったので……むしろ、助かりました」


「え?」


「あ、何でもありません。あの……ここですよね? ネットで噂の……不思議な事件の相談にのってくれる場所って」


「あ、はい! 超常現象相談希望の方だったんですね」


 メイドは嬉しそうにニコニコと笑いながら、顔の横で手を合わせる。


「玄関脇に書いてある通り、どんな内容でも相談は無料ですし、ケースにもよりますが、格安料金でちゃんと解決までサポートさせていただきます! あ、でも……今ちょっと他の皆が……その、席を外してまして……」


 言いにくそうにゴニョゴニョと口ごもりながら、メイドの視線が天井の辺りを泳ぐ。

 そちらに何かあるのかと少女も上を向いた時、トントントンと二階からこちらへ、誰かが階段を降りてくる音が聞こえた。


りつよ、今日の昼食はなんだ? 私は肉がいいぞ、肉が」


 ガラリと居間の引き戸が開き、白髪の少女、八葉が現れる。

 白髪だが艶やかな長髪と同じように、その肌は陶磁器のように白く、少女ながら美しい顔立ちには色気すらあった。おそらく、街を歩けばすれ違う人は老若男女問わず、皆振り返る事だろう。

 ただし、今の格好はピンク色をしたウサギの着ぐるみパジャマだ。更に両腕に隙間無く巻いた包帯が、強い存在感を放っていた。


「や、八葉さん! お客様ですよっ!」


「むっ?」


「あ、あの……お邪魔してます」


 八葉が、律と呼んだメイド少女と、ちゃぶ台の前で頭を下げるセーラー服少女を交互に見た後、うんうんと頷く。


「なるほどなるほど、来客中だったか。これは失礼し……」


「ん、そんな部屋の入り口でどうしたんだ、八葉。今日はやけに騒がしいな」


 八葉が口を開いたその時、彼女の後ろからひょっこりと新が顔を出す。


「ああ、新。どうやら来客らしいぞ」


「おおっ、まさか依頼か! 虚木超常現象研究所へようこそ、お嬢さん」


「っ!? ……あっ、あのっ、それっ……」


 新が八葉と顔を見合わせ笑い合い、居間へと入ってくる。その様子を何気なく見ていた少女が、ボンッと赤面し顔を覆った。


「ちょっ、ちょっと、新さんっ!」


 律が慌てた声を出す。それもそのはず、新はTシャツにトランクス一枚という、非常にラフな格好だったからだ。


「……おっ、おお。ははは、悪い悪い。起きたまんまだったわ」


「やれやれ、まったく駄目じゃないか、新。お客様の前だぞ」


「ちょっと油断してただけだ。そういう八葉だって、パジャマのままじゃないか」


「ふふん、私は新のように肌を露出したりしていないからな」


「それは違うだろう。あくまで寝間着っていう服装の種類の問題なんだから……しかし、その格好で寝てよく暑くないな、八葉」


「ああ、私はそもそもお前達とは違う。暑さ寒さなんて、元よりこの私には関係無いのさ」


「この時期には羨ましいな、それ……」


「も、もぉー! 何でもいいですから、二人とも早く着替えてきてくださいっ!!」


 いつまでも居間を出る様子の無い二人に、律の可愛らしい怒声が響きわたった。

 その声に押されるように部屋を出た二人が、新はYシャツにジーンズ、八葉は白地の清楚なワンピースと、それぞれ着替えを済ませ戻ると、少女と向かい合うようにちゃぶ台を囲んで座る。


「さて……待たせたね。それで、超常現象の相談ということらしいけれど……」


 人数分のアイスコーヒーを入れ直した律が脇に座ると、新がコホンと咳払いをして話し始めた。


「ほう、初対面の女性の前で、あんな下着姿という醜態を晒してなお、ああやって平然としていられるのは一種の才能だな。そう思わんか、律よ」


 ニヤニヤと笑いながら、八葉が律に話しかける。


「あはは……まあ、それも新さんの良い所ですよ」


「二人とも五月蝿いぞ。えっと、それじゃあ軽く自己紹介から始めさせてもらおうかな。俺は虚木うつろぎ新。一応ここの所長って事になってる」


「八葉だ。苗字は無い」


 新に続いて八葉が胸を張って話す。


大城おおき律です。こちらでは、主に家事全般をしています」


 笑顔で話す律に促され、少女も話しだす。


「よ、よろしくお願いします。水沢みずさわかえでです。あの……相談というのは、私の兄の事なんです」

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