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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第三話 ココロの形、歪んだセイギ
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3-2


 アラクネとの一戦から三日、自宅へと帰った新達は普段通りの生活に戻っていた。

 そんな三人を訪ねて、あのグリフォン事件で知り合った水沢楓がやって来たのは、昼も過ぎ暑さがピークの頃だ。


「お邪魔します、虚木さん」


 居間に入ってきた楓がペコリと頭を下げる。新は自身を団扇で仰ぎながら、座布団に座るよう楓を手招いた。


「いらっしゃい、楓ちゃん。今日は私服みたいだけど、学校はもう夏休みなのかい?」


「あ、いえ、夏休みはもう少し先です」


「ふふ、今日は日曜日ですよ、新さん。はい、どうぞ」


 新と八葉、楓の前に氷の浮いた冷茶を置きながら、律がクスリと笑う。


「あっ、そうなんだ。いや〜、ははは。こういう仕事だと曜日感覚が無くなってしまって困るね」


「ふふん、それは新が、毎日暑い暑いとダラダラ過ごしているからだろう?」


 新の隣で、冷茶を飲み干した八葉も笑う。暑さ寒さに無縁な彼女も、純粋に冷えたお茶の、口中に広がる澄んだ風味と、爽やかな喉越しが心地良いようで、律に早速お代わりを頼んだ。


「それは心外だな、八葉。俺はこう見えても日夜、愛と平和のために戦ってるっていうのに……っとそんな冗談はともかく。今日は一体どうしたんだい、楓ちゃん。家に遊びに来た……って訳じゃあ無いんだろう?」


「はい、えっと……本当に関係はあるかはわからないんですが……」


 自信無く言いにくそうに話す楓を、再び運ばれた冷茶のグラスに口を付けたまま薄目で見て、八葉が口を開いた。


「……ふむ、察するところ、楓の身近で神魔の仕業と思わせる何かがあった……といったところか」


 八葉の言葉に、楓がコクンと頷く。それだけで、新は顔を引き締め、律が手帳を取り出しメモを始めた。


「詳しく聞かせてくれるかな、楓ちゃん」


「はい。私とは学年が違うので直接面識は無いんですが、私の通う中学校で、大人しかった男子が、ある日を境に急に活発な、まるで別人になったように変わったんです」


「ん〜……楓ちゃん、それっていわゆる夏休みデビュー、いや夏休み前デビューか? そういう感じの話じゃないのかな」


「そうですね。勿論それだけなら、ちょっとイメージチェンジをした、なんてよくある話かもしれません。でも、それだけじゃないんです……」


 そうして楓が話す内容に、新と八葉が頷く。


「なるほど、頭の中にもう一人の自分が居る……ね」


「新、調べてみよう。今回の件が神魔の仕業ならば、依り代となった者の言動……どうも気になる」


「わかった。楓ちゃん、そういうことだから、俺達は早速動こうと思う……情報、ありがとうな」


「いえ……あの、もし本当に兄さんみたいな状況なら、どうかその人の事も助けてあげてくださいっ!」


「おう、任せとけっ!」


 楓の言葉に新は笑顔で親指を立てる。八葉はそんな新を、何も言わずに横目で見た。



「よお、智秋君っ! 相変わらず辛気くせえ顔してんな!」


 朝、教室に入ろうとした智秋を、廊下で五人の男子クラスメートが呼び止めた。五人は全員、小さな智秋を見下ろすような大きさだ。


「お、おはよう、皆……」


 小さな声で応える智秋を囲むと、五人はヘラヘラと下卑た笑いを浮かべる。


「いやぁ、昨日は先に帰って悪かったなぁ。智秋君のおかげで結構楽しめたわ! で、悪いんだけどさぁ、今日もいつもの場所で……いいよな?」


 微塵も悪いなどとは感じていない笑い顔で、一人の生徒が拝むように両手を合わせる。当然、智秋に選択の余地は無かった。


「……う、うん……わかったよ」


 ぎこちなく頷くと五人は智秋を解放し笑いながら、教室に入って行く。

 一足遅れて入室した智秋の全身に、クラスメート達の視線が刺さった。中には声を抑えて笑いあう者さえ居る。

 クラスの皆は智秋の現状を十二分に知っているのだ。知っていてなお、誰一人智秋に声をかけようとする者は居ない。誰もが当事者になるのは御免だとばかりに、智秋から距離を置いていた。

 そんな見慣れた風景に反応する事もなく、俯いた智秋が自分の席に座ると、あの暖かい声が聞こえてきた。


『なるほど、これはだいぶ酷い状況ですね』


(うん、いつもこうなんだ……アキト)


 昨夜の不思議な出来事以来、頭の中、自分にだけ聞こえる声に智秋もイメージで応える。アキトというのは、名前が無いと不便だろうと智秋が自身の名前から昨夜考えた名だ。


『まあひとまず、あの五人を何とかするとしましょう。いつもの場所……というのは昨日のあそこですか。では、そこへ言われたように向かってください』


(えっ、結局あそこに行くの?)


『ええ、あの場所の方が都合が良いでしょう。私に良い考えがあります、お任せください』


(ほ、本当に大丈夫かな?)


 あの五人をどうにかする。そんな魔法みたいな方法、今の智秋には想像すら出来ない。しかし、そんな智秋の思いに、アキトはやはり自信に溢れた様子で話す。


『ええ、私を信じ安心してください。何故なら私だけが貴方の唯一の味方なのですから』



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