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長根智秋は、根っからのイジメられっ子体質だった。
生まれつき体が小さく気も小さい智秋は、周囲の悪意に対して、ただただ唇を噛んで耐える事を選んだ。
しかし、そんな反応にイジメが止むことは無く、むしろ年を重ねる毎に酷くなっていく。
その日も、中学の帰りにいつもの路地裏で、同級生の男子学生達に少なくはない金を奪われ、気まぐれに腹部を殴られた智秋は、クラスメートが去った後でも自分を見ている視線に気付き、蹲ったまま顔を上げた。
「やあ、ボク。随分酷くやられていたなぁ」
「ひっ……!」
話しかけてきた異形の男に、智秋は声を詰まらせ、座ったまま後退りする。ブギーマンは、そんな智秋の恐怖する姿を見て、頭の布袋を揺らしながら低く笑った。
「ククク、まあまあ……俺が今日ここに来たのは、別にお前さんをとって喰うためじゃないんだ。だから、そう驚くなよ」
「……あ、貴方は一体……?」
絞り出すように尋ねる智秋の目線に合わせるようにしゃがむと、ブギーマンは懐から一つの石を取り出す。
「なあ、ボク。もっと強くなりたくはないかい?」
鈍く輝く小さなその石を掌で転がしながら、ブギーマンは優しく囁くように尋ねた。
「強く強く……君をイジメた悪い奴等をやっつけられるくらいに。そんな悪い奴等から、君のような弱い子達を護れるくらいに」
「そんな……僕がそんな強くなんて……」
智秋は弱々しく首を振る。もちろん智秋だって、このままではダメだ、そう決意し強くなろうと彼なりに努力した事もあった。
しかし、何をやっても、一度固定化された事態は何も改善されず、今の智秋には、ダメなものは結局ダメなのだという諦めの気持ちのみが残っている。
だがブギーマンは、そんな智秋の想いすらお見通しだと言わんばかりに指を振った。
「チッチッチ、わかってないなぁ。重要なのは、君が出来るかどうかじゃない。君がそうしたいかどうかなのさ。君の意思を、魂の声を聞かせてくれ」
石を真上に飛ばし、パンッと智秋の目の前で、ブギーマンが両手を打ち鳴らす。その音に面食いながらも、智秋は顔を上げブギーマンに向かって深く頷いた。
「…………ぼ、僕は、もっと強くなりたいです」
何故、こんなにも素直に言葉にできたのだろう。相手はあんなに怪しい男なのに……そんな、智秋の疑問をブギーマンの声が遮る。
「いいだろう!!」
叫び、やや芝居がかった仕草で、ブギーマンは空を仰ぐ。落ちてきた石をキャッチし、グインとねじ込むように顔を智秋に向けると、再び低く笑った。
「ククク、君のその想い叶えてあげよう! 君の魂ならより強い神魔を……いや、君をより強く変えてくれることだろう。強くなった君を、俺達虹枝の会は待っているよ。さあ目を瞑って……」
言われるままに智秋が目を閉じると、ブギーマンはその額に、手にした石をトンと軽く押し込んだ。石はまるで泥に沈むように、抵抗もなくスルリと智秋の中へと入り込んでいく。
「……くっ! あああああっ!!」
頭を抱え絶叫し倒れた智秋を見下ろし、ブギーマンは肩を揺すらせて笑う。そして、そのまま倒れた智秋に構う事なく虚空へと姿を消した。
ブギーマンが消え、しばらくすると、一人残された智秋がムクリと起き上がる。額をさすってみるが痛みは特になく、大きな傷も無いようだ。
智秋は、あれは一体何だったのだろうと不思議に思いながら立ち上がった。
『目が覚めましたか?』
「えっ?」
突然聞こえた声に驚き、智秋は後ろを振り返る。しかし、見慣れた路地裏には智秋一人しかいない。キョロキョロと見回す智秋に、謎の声は再び語りかける。
『驚かせてしまいましたか? 私はたった今生まれたもう一人の貴方です。今はこうして、貴方の中から直接語りかけています』
「もう一人の……僕?」
『ええ、ですので安心してください』
「わ、わかりました。……あ、あの! さっきの人は、僕の意思一つで、もっともっと強くなれるって言ってましたけど……」
『はい、その通りです。貴方は私を内包する事で、心身共に強くなりました。もはや苦しむ必要はありませんよ』
その声は、智秋が知るどんな人よりも、優しく暖かさと自信に満ちていた。
しばらく会話するだけで、智秋はすぐにその声に心を許し、まるで長い付き合いがある相手かのように錯覚した。
そして、この日この時を境に、智秋の生活は一変する。




