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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第二話 怪奇! 極楽町の消える首吊りホスト
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2-終


「ふぅ……」


 アラクネだった灰の山に、ブランクが降り立つ。役目を終えたグリフォンの翼は、光の粒子となって闇夜に散っていった。

 極楽町を見下ろすと、幸い巨大化したアラクネで特に騒ぎにはなっていないようだ。更に周囲を見回し、動くモノの居ない事を確かめると、ブランクは白色の閃光を放った。


「お、あったあった」


 元の姿に戻った新が、屈みこんで灰の中から黄色の結晶を摘み上げる。その低くなった頭を、隣に立った八葉がスパンッとはたいた。その腕は、既に狼の頭ではなく、普段通り包帯に覆われた人の手の形をしている。


「あったあったではないわ、この阿呆がっ!」


「痛っ、何するんだよ、八葉……」


「新よ、お前を助ける為、私はアラクネと戦った。だが、もしあの時に奴が、私ではなく倒れたお前を攻撃していたら、どうするつもりだったのだ?」


「う……それは……」


「私も私に出来る事はしよう。だがな、新。戦うのであれば、常に完全勝利を目指せ。そして、その為には何を為さねばならぬかを、常に思考し続けろ。何故なら……」


 ジッと八葉が新を見つめた。心の奥底まで覗き込むような少女の大きな瞳には、一瞬寂しさのような色が見える……だが、それは新が気付く前にスウッと消えていった。


「何故なら、お前の命はそれ一つだけ、しかも有限だからだ。たった一つの自分の命を使うのだ、つまらん終わり方はするなよ」


 トンと八葉の拳が、新の胸にそっと触れる。その拳に手を重ね、新が頷いた。


「ああ……そうだな。俺はまだまだ倒れるわけにはいかない。悪かった……心配かけたな、八葉」


「心配? 私は新の事なぞ別に心配しておらんぞ」


 八葉がニヤリと笑う。その笑い方はあの夜と同じだったが、今は口元を隠す団扇も無く、口の端がピクピクと動いているのが丸見えだ。それが、八葉の照れた時の癖だと知っている新は、敢えてそこには触れずに黄色い結晶を八葉に差し出した。


「ほら、八葉」


「う、うむ……はむっ……ひかし、ほれで……んぐ……これでようやく家に帰れるな」


「なんだ、八葉は帰りたかったのか? あんなにホテルの肉料理を満喫していたじゃないか」


「ふふん、確かに肉を食べる、その一点で言えば満たされていたさ。しかし、自分の家以外の場所で寝起きするというのは、どうにもやはり落ち着かないものだ。それに、律の料理は肉がどうこうとは、また別の次元だからな」


「そうだなぁ、律の料理美味いもんな。よし、多聞に解決の連絡入れて、帰るとするか」



 新達が去った屋上を朝日が照らし、夕日に変わり、再び月明かりが包み込んだ。

 その時、どこから現れたのか……既に殆どが風に散ったアラクネの灰を、摘み上げた者がいる。


「……これは……そうか、アラクネの嬢ちゃんがやられちまったんですかい」


 指先の灰を眺める男……全身をボロ布で包み、頭にすっぽりと布袋を被った男は立ち上がると、そのままフラフラと屋上の端へと向かう。


「やれやれ、一応お耳に入れておくとしますかね。まあ、せっせとご注進したところで、一体何を言われるか、わかったもんじゃありませんが……あぁ、面倒くさい」


 フラリ、男の体が傾いた。まるで投身自殺のようにビルの屋上から離れ地上へ向かって落下していく。


「ふぅ……」


 その体が大地へと激突する寸前、短い溜息を発した男は、まるで糸が解かれるように空気中に溶けて消える。

 男が次に現れたのは、そこから大分離れた、ある建物の一室だった。


「誰かと思えばお前か。何かあったのか?」


 重厚な革張りのアンティークチェア、そこに座り外の景色を眺めていたこの部屋の主人が、闖入者をチラリと見ると、再び視線を外に戻して呟く。


「いえ、実はですね……少々問題が起きていまして……」


 慎重に言葉を選んで話す男の報告に、しかし主人は眉一つ動かさなかった。


「そうか、例の蜘蛛が何者かに討たれた。つまりここ手名芽の地に、神魔を狩る者が居ると…………ふん、別に構わんな」


「はい、既に他にも討たれた者が何名か居るようで……今、なんと?」


「構わん、そう言ったのだ。神魔にも格というものがある。私が求めるのは、虹の枝を彩るに相応しい、そんな極上の選び抜かれた強き者だ。他者に狩られる? くだらん。超越者たる神魔として生まれてなお、我等の庇護無くして生存出来ぬ屑の生死なぞ、私は知らんよ」


「そ、それでは、この件については……」


「捨て置け。むしろ、屑を振り落とす良い試練になるではないか。お前は引き続き、新たな神魔を産み出す事に専念せよ。良いな、ブギーマン」


 ボロ布の男は、その言葉に深く頭を垂れると、再び解けるように姿を消した。

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