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「ぎゃぁぁっ!!」
顔を歪めた蜘蛛女の絶叫が響く。ブランクは蜘蛛女の身体を蹴り跳躍すると、八葉の隣へと降り立った。
「悪い、八葉。待たせちまった」
「ふふん、私ならばこの程度、何も問題無い」
「そうか? その割には、両手が糸だらけだな……」
「くっ……わかっているのなら、さっさとせんかっ! 憑依合身!」
半ば投げやりに叫ぶ八葉に応えるように、ブランクも八葉の肩に手を乗せ叫ぶ。
「エクシード・コネクト!」
青い光に包まれ、八葉の姿が消える。支えを失った糸の塊がパサリと落ちた。
「さて、と。ランクはBの蜘蛛女……アラクネだな。 なかなかの力だ」
青い装甲へと変わったブランクは、首をグルリと回し呟く。
『ふむ、単純な強さそのものよりも、あの糸と再生力が厄介だな……見てみろ』
八葉の言うように、ブランクの攻撃で、アラクネの胴半ばまで裂かれた肩が、ミシミシと音を立てて再生していく。それは生物的な治癒というよりも、ビデオの逆再生に近い動きだった。
「ぐぅぅ……こんなに痛いのは久しぶりよぅ……よくも、よくもやってくれたわねぇっ!!」
ブランクの攻撃が余程効果あったのか、歯を剥き出し唸るアラクネ。
その怒りからか、八つの目は肥大化し、口が裂け口内から蜘蛛のような牙が二本伸びた。
だがブランクは、そんなアラクネに対し、静かに構える。
「八葉、あの痛がりよう……どうやら人間体の部分を狙った方が、ダメージは通るようだぞ」
『ああ、そのようだ。だが気をつけろ、新。張り詰めた奴の糸ならば私の牙で断ち切れるが、一度捕まり動きを封じられると、逃れるのは難しいぞ』
ブランクがチラリと傍の地面に落ちている、先程まで八葉の腕に巻き付いていた糸の塊を見る。
確かに、あの糸で体中を拘束されれば、いくらブランクとは言えど、身動きは出来なくなるだろう。
「わかった。要は捕まらなきゃいいんだろう? だったら……チャージ!」
ブランクの両脚が青く輝く。そのまま、青い光のラインとなって、アラクネへと迫った。
「くぅっ!」
アラクネが両腕から、放射状に広がる蜘蛛糸をブランクへ向けて飛ばす。
しかし、高速移動を維持しながら、細かく軌道を変えるブランクの動きに翻弄され、その糸は全て明後日の方向へと飛んでいった。
「はっ!」
接近し飛び上がったブランクの右回し蹴りが、アラクネの胴を勢いよく薙ぐ。
高速移動を可能にするブランクの強靭な脚力が、咄嗟に防ごうとしたアラクネの両腕ごと、ボギボギと体の骨を砕いていく。その衝撃にアラクネの巨体までもが一瞬浮き上がり、ゴロゴロと転がった。
「手ごたえあり、だな」
『……いや、まだだ』
八葉の言葉通り、倒れたアラクネがグラつきながらも立ち上がる。
その折れてダラリと垂れた両腕が、皮膚から突き出た助骨が、裂けて鮮血を撒き散らす内側の肉が、みるみる再生していく。
「確かに凄まじい再生力だな……だが、無尽蔵って訳でもなさそうだ」
ブランクの指摘通り、アラクネの顔色は悪く、呼吸は荒い。その顔へ向けて、ブランクは右腕を上げ、人差し指で指差した。
「お前相手じゃあ、手加減出来るかわからないから先に聞いておく。間口耕三……いや、虹枝の会を知っているか?」
ブランクの言葉に、アラクネの表情が強張る。その顔が、質問への答えを如実に物語っていた。
「ど、どうして……貴方達がその名前を……」
「そうか、知っているのか。知っているんだな、アラクネッ!」
ブランクがその脚を一歩踏み出し、吼えるように叫ぶ。
「吐いてもらうぞ、アラクネッ! 虹色の会について、お前が知る全てをっ!」
「い、嫌よぉ……教えられないわぁ……」
アラクネが、ブランクの気迫に押され数歩後ずさる。まるで幼子がイヤイヤをするように首を振った。
「そんな事ベラベラ話したのがバレたら、私があの方達に間違いなく殺されるものぉ……」
「言わなければ、俺がお前を殺すだけだ」
更に一歩、ブランクがアラクネに迫る。しかし、アラクネはなおも首を振る。
「あの方達に殺されるのも、今貴方に殺されるのもごめんよぉ。……そうね、一つだけ私の助かる道はあるわぁ……。私が今ここで、貴方を殺せばいいのよっ!」
アラクネが、その両腕で自身を抱き抱えるように上体を倒した。その瞬間、アラクネの下半身を構成する巨大蜘蛛がブクブクと膨れ始める。
『むっ、マズイ! 新、離れよっ!』
「お、おう!」
上部の人間体を飲み込み、どんどん巨大化していく蜘蛛から逃げるため、ブランクが後退する。
しかし、屋上いっぱいに広がろうとする蜘蛛に、ブランクの後退は終わらない。ついには屋上の端まで追い詰められてしまった。




