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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第九話 虹枝の最期 灰塵と化す希望
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9-4


 ブランクと士郎の拳が空を切る。瞬時に移動したアガルテが二人の背後に降り立つ。


「ふん、そう慌てるな。ほら、これを見るといい」


 アガルテがスーツの上着をビリビリと破りながら脱ぎ捨てた。露わになったアガルテの上半身。その両腕には、三つずつ計六つのブラックギアが巻かれていた。


「あれは……ブラックギアが六つ?」


「伊達や酔狂でやっている訳じゃ無いだろう。気をつけろよ、ブランク」


「ああ、そうだな……」


 頷きあうブランクと士郎。アガルテは邪悪な笑みを浮かべると、両腕を高く掲げた。


「業魔……転変っ!」


 アガルテが掲げた六つのブラックギア、その一つ一つから黒い光が伸びる。光は左右それぞれ一対づつ、六枚の黒い翼に形を変え、アガルテの全身を覆い隠した。


「私の強靭無比な溢れ出る程の魂……それによって六つのブラックギアを多重起動したこの力……その身に受けて己が愚かさを懺悔すると良い」


 翼が消える。その中に黒い装甲姿の戦鬼体アガルテが立っていた。全身を鱗状の装甲が覆い、頭部は巨大な蛇の頭になっている。その蛇が大きく開く口の中、怪しく光る紅い目がブランクと士郎を睨みつけた。

 次の瞬間、アガルテがブランク目掛けてゆっくりと歩き出す。その自然な動作に、反応が遅れた二人だったが、すぐにアガルテへと向かい走り出した。


「ハァッ!」


 かつてブランクへと打ち込んだ、士郎の大地を踏みしめ放つ掌底がアガルテを襲う。


「ぐっ……!」


 アガルテの胸部に掌底が直撃し、上体が大きく後方へと揺らぐ。


「ハイチャージッ!! ラァッ!!」


 その上半身に、ブランクが水平に薙ぐような蹴りを放つ。蹴りは完全にアガルテの顔面を直撃し、アガルテはグルグルと空中を縦に回転しながら吹き飛んだ。


「ぬぅ……ぐぐぐ……」


 倒れたアガルテがゆっくりと立ち上がる。その顔は大きくひしゃげ、胸には士郎の掌状に凹みが出来ている。更に両脚はフラフラと頼りない。


「これは……俺の思い過ごしだったか? 爺がこの程度なら、わざわざブランクを待たなくても、簡単にぶち殺せたんじゃないか?」


 予期せぬアガルテのダメージに士郎が首を振る。しかし、ブランクはアガルテから目を逸らさずに、隣に立つ士郎の胸をトンと拳で叩いた。


「いや、油断するな、士郎。仮にも奴は虹枝の支配者……ましてやブラックギアを六つも使っている化け物だ。こんな程度で勝てる相手じゃない!」


「ふっ……ククク……」


 突然、アガルテが笑い出す。歪み凹んだ装甲はみるみる修復された。


「少しだけ……ほんの少しだけ、お前達に夢を見させてやろうと思ったが……案外つまらない男だな、ブランク」


「くっ……やっぱりか」


「ふふん、遊びはここまでだ。……ハァッ!」


 アガルテの全身を黒い光が覆う。光の粒子は、アガルテの背面へと集まると固まり三対六枚の黒い翼へと変わった。業魔転変時にブラックギアから現れた翼を背中から伸ばし、アガルテが構える。


「では、行くぞ」


 短く宣言すると、アガルテが飛び出す。瞬時にブランクの前へ現れると、黒い光を纏った右手刀を振り下ろす。


「くっ! ハイチャージッ!」


 ブランクがアガルテの手刀に右拳を打ち込む。金属の鋭い音を立て、アガルテの攻撃を弾いた。

 その時、動きの止まったアガルテの背後に、士郎が回り込む。


「相手はブランクだけじゃないんだぜ、爺っ!!」


 アガルテの装甲、その五つの狼が口を開く。その中にチラリと赤い光を見たブランクは、咄嗟に飛びすさり両者から大きく距離を取った。


「喰らえっ!!」


 ケルベロスとオルトロスの口から、溢れ出るように地獄の焔が吐き出される。科学的に有り得ない、超高温の黒い焔は、今まさにアガルテを吞み込もうとした。

 しかし━━。


「こんな物、私は喰わないぞ、士郎」


 アガルテが、背に生えた翼、その一つを焔に向けると翼がグニャリと変形する。

 瞬く間に、黒翼は赤い鱗を持った龍の首へと変わった。その喉が赤々と大きく膨らむと、士郎の焔に向かって轟々と赤く燃える焔を吐き出しぶつけた。

 二色の焔は、ぶつかり押し合い、互いに吞み込もうと渦を巻く。だが、それも長くは続かない。やがて衰え双方共に掻き消えた。


「なっ!?」


「フハハ、この程度で驚いているのか? ほら、こんなのもあるぞ?」


 別の黒翼が形を変える。今度は黄色い二本角の龍だ。牛の様な二本角の間が、バチバチとスパークしたかと思うと、士郎に向かって電撃が飛んだ。


「っ! グゥッ!?」


 電撃を受け士郎の身体が跳ねる。流石に致命傷にはならなかったようだが、身体のアチコチから白煙が上がっていた。周囲に肉の焦げる嫌な臭いが立ち込めた。


『マズイぞ、新っ! 奴の力、長引けば長引く程不利だっ!』


「応っ! ハイチャージッ!」


 ブランクが腰部装甲から金属筒を取り外し、光のブレードを展開する。同時に脚へ纏った光の力で、超高速へと加速しアガルテへ肉迫する。


「むっ!」


「セヤッ!!」


 短い気迫の声と共に、ブレードを振るう。ブランクの刃が到達する前に、アガルテは身を躱し直撃こそしなかったが、背から生える赤龍と黄龍の首を斬り落とした。


「よしっ!」


『まだだ、新! 追撃するぞっ!』


 八葉の声に無言で頷き、更にブレードを振るうブランク。しかしアガルテは二つの翼を変形させると、その一方をブランクへとぶつけた。


━━ガンッ!━━


 重い手応えが、ブランクの手に伝わる。振り下ろした刃は、ゴツゴツとした岩のような茶色の鱗を持った龍の首に、しっかりと受け止められていた。


「ちっ!」


 止められたブランクを、茶龍と共に変形し現れた青い龍が睨みつける。青龍はガバリと口を開けると、ブランクへ向け大量の水を高圧で吐き出した。


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