表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/57

横浜カジノリゾートの冒険 壱

 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」・・・通称・統合型リゾート整備推進法が2016年に施行され、さらにIR実施法案が2019年に可決されてからおよそ15年、日本には4カ所のカジノリゾートが建設されていた。それは東京の「お台場」、大阪の「夢洲」、横浜の「山下埠頭」、そして沖縄の「海洋博公園」、これら4カ所に建設されている。

 横浜・山下埠頭の「ヨコハマ・ベイ・エンターテインメント・シティー」もそんな統合型リゾートの1つである。日本で最初に開業したカジノであり、当初は世界各地から観光客が訪れていた。日本国の転移によって休業を余儀なくされていたが、転移から7年後の今、日本のカジノは再び隆盛を見せているのである。

 カジノリゾートの存在はテラルスの国々でも評判になっている。海の向こう、東の果てに位置する「日本国」には、まるでこの世の享楽を全て封じ込めたかの様な夢の街が存在し、そこでは一攫千金のチャンスを掴むことが出来る・・・そんな噂が世界各地で囁かれていた。そして噂を聞きつけた者たちは、余暇を持て余した王族や貴族は勿論のこと、金の匂いに釣られた者たちが、一攫千金を夢見てこの街にやってくる。これはそんな夢を追って日本を訪れた若者たちの物語である。




2032年5月5日 ノーザロイア島 サファント王国 港街ラーガシュ


 テラルスに転移した日本国にとって最隣国である、イラマニア王国と同じ島内に位置する「サファント王国」は、アルティーア戦役以前に日本と国交を結んだ数少ない国家の1つである。ノーザロイア島5王国の例に漏れず、国土のほぼ全域が豊かな穀倉地帯に覆われ、その輸出によって食糧自給体制が確立する前の日本を支えていた、日本国にとっても深い関わりのある国だ。


「・・・2枚チェンジ」

「・・・レイズ」

「・・・コール」


 その国の西海岸に位置する港街ラーガシュにある酒場で、6人の男たちがギャンブルをしている。手元に5枚のカードを持ち、ポーカーに似たゲームをしていた。


「俺もコール・・・さあ、どうする? お前はもう何も無いだろ?」


「・・・」


 1人の男が有り金を叩いてしまった男にゲームから降りる様に迫る。文無しの男は連れの方をちらっと見ると、不敵な笑みを浮かべて言い返した。


「こいつの有り金を全部賭けるさ、レイズだ!」


「おい、ラルヴァン! 何もかも賭けるのか!?」


「・・・ミケーラ、取られて何を損する?」


 勝手に有り金全てをベットされてしまった男は、ラルヴァンという名前のその男に詰め寄る。だが彼は悪びれる様子もなかった。


「ハハッ! じゃあ俺もそれ相応のものを賭けよう」


 ラルヴァンの心意気に感心した男は、懐から2枚の小さな紙を取り出してそれをテーブルの上に置いた。それは今日の午後にこのラーガシュを出航する貨客船の乗船チケットであった。それには日本語でラーガシュの街の名と“横浜”の街の名が書かれている。


「それは・・・! ニホン行きの船のチケットまで賭けるのか?」

「これで誰かの運命が変わるぞ・・・!」


 日本国への渡航チケット・・・それは彼らの様な一般市民にとっては、数ヶ月分の労働賃金を注ぎ込んでやっと買える程の代物である。あらゆる享楽と富が集う国、その未知の国はテラルスの民にとって種族を問わず憧れの的となっていた。


「・・・9のワンペア」

「11のワンペアだ」

「3と8のツーペア、やりい・・・!」

「残念だな・・・ストレート!」


 賭けに参加している男たちが次々と手札を明らかにしていく。この時点で最大の役はチケットを賭けた男が出した“ストレート”であった。


「・・・ブタだ」


 ラルヴァンの連れであるミケーラという男は、荒いため息をはき出しながら手札を捨てた。その様子を見ていたラルヴァンは頭を抱えながら項垂れる。


「すまない、ミケーラ・・・」


「おい、お前の所為で俺は無一文だぜ! どう責任取って・・・」


「許してくれ、俺たちはこの国とお別れだ! “フラッシュ”でニホン行きだ!」


 ラルヴァンはそう言って手札をテーブルの上に叩き付ける。その役は5枚とも同じスートのカードが揃うことで成り立つ“フラッシュ”であった。


「ああっ!?」


 その場の勢いでチケットを賭けてしまった男は驚嘆と後悔の叫び声を上げる。ラルヴァンはその男の気が変わらないうちにと言わんばかりに、椅子から立ち上がると同時にそのチケットをかすめ取り、相棒であるミケーラと共に酒場から一目散に出て行った。 




港街ラーガシュ 港


 サファント王国の主要貿易港であるラーガシュ港には、隣国であるヨクサン王国やミスタニア王国の貿易帆船の他に、セーレン王国やアルティーア帝国の船が並んでいる。そんな穏やかな港の一画におおよそ相応しく無いガントリークレーンの姿があった。その区画は日本政府のODAによって護岸工事が成されており、海岸はコンクリートで覆われている。そして岸壁には日本国籍のコンテナ貨客船が停泊していた。


「・・・良し、通ってください」


 船へ伸びるタラップの前では、コンテナ船に乗り込む現地民の乗客に対して入国審査と荷物検査が行われていた。日本から派遣されている入国審査官とコンテナ船の船員が乗客の査証(ビザ)と渡航目的、乗船チケットを1枚1枚確認している。

 かつて、日本のコンテナ船は海外のそれとは異なり、一般の乗客を乗せることはしなかったのだが、テラルスへ転移して以降、日本の船会社は所有する貨物船に寝台や客室を設け、主に日本へ入国しようとするテラルス人へ向けた貨客船事業を展開していたのだ。


「ちょっと待ってくれ! お、俺たちもこの船に乗るぜ!」


 入国審査官が並んでいた全ての乗客の審査を終えた直後、2人の小汚い男が審査ゲートに向かって走って来た。ラルヴァンはギャンブルでゲットした2枚の乗船チケットを審査官に見せる。


「・・・査証(ビザ)は?」


 入国審査官は査証(ビザ)の提示を求める。


「あ、ああ! 大使館で買ったやつだろ! 持ってるさ!」


 ラルヴァンはあたふたしながら査証(ビザ)をポケットから取り出す。ミケーラも彼と同様にちゃんと査証(ビザ)を持っていた。

 日本国がこの世界に転移して以降、日本人が日本国の領域から外へ出る場合には出入国審査でパスポートと“出国許可証”の提示を行わなければならないと定められている。その一方で、テラルスに暮らす人々が日本国内に入国する場合はパスポートは必要無いが、“査証(ビザ)”の取得は地球と同様に義務として課されている。査証(ビザ)は地球と同じく、各国に置かれた在外公館で取得出来ることになっていた。

 2025年の転移以降、日本国内において外国より来港する船が着港することを許されている港は、長崎、福岡、熊本、鹿児島、新潟、横須賀、横浜、そして幕照・・・“本土7港・外地1港”と総称される8つの港街のみである。日本政府は検疫と税関の強化を目的にテラルスの民が利用出来る貿易港を限定しており、また一般にテラルス人が飛行機を利用することを拒否していた。


「・・・良し、荷物検査を受けたら船に乗れ」


 無知な貧困層がチケットだけ持って来たのかと疑っていた審査官は、彼らがちゃんと査証(ビザ)を持っていたことを意外に思っていた。その後、船員による荷物検査を受けたラルヴァンとミケーラの2人は、コンテナ貨客船「さつま丸」に乗り込んだのである。


・・・


コンテナ貨客船「さつま丸」 展望デッキ


 午後2時、出航時刻を迎えた「さつま丸」のスクリューが回り出す。巨大な船体がラーガシュの港からゆっくりと離れて行く。ラルヴァンとミケーラの2人は展望デッキに昇り、そこから見えるラーガシュの街に向かって大きく手を振った。


「じゃあな! ニホンで夢を掴んで来るぜ!」


 世界の辺境の田舎国でしかなかった故郷は何の因果か、今となっては“世界の中心”に最も近い場所に位置している。辺境の田舎国から飛び出し、まだ見ぬ夢の国へ向かうこの好機を逃す手は無い。2人の若人は大いなる夢を胸に抱き、東の果ての国へと向かう。


〜〜〜〜〜


2032年5月8日 日本国神奈川県 横浜市鶴見区 大黒埠頭 C3バース


 それから3日後の朝、コンテナ貨客船「さつま丸」は横浜港・大黒埠頭のC3バースに停泊していた。サファント王国からの輸入品である小麦粉が積載されたコンテナが、ガントリークレーンによって次々と降ろされている。

 その傍らでは、船から降ろされたタラップを伝って乗客たちが上陸していた。入国審査官が各々の査証(ビザ)に上陸許可と在留資格を示す印鑑を押していく。そして目出度く日本国への上陸を果たしたラルヴァンとミケーラの2人は、コンテナが所狭しと積み上げられた大黒埠頭をきょろきょろと見渡していた。


「此処がニホン国か!」


 憧れの国に足を付けた事で、ラルヴァンは感激の声を上げる。地面を見れば一面がコンクリートとアスファルトに覆われ、上を見れば巨大なクレーンが建ち並んでいる。母国のそれとは比べものにならない巨大な港がそこには広がっていた。


「で・・・俺たちは何処へ向かうんだ?」


 彼の相棒であるミケーラは冷静な口調でこの後の予定を尋ねる。


「決まってる・・・“ギャンブル”で一山当てるのさ!」


「・・・ギャンブル?」


「ああ! この国には“カジノリゾート”と呼ばれるキャンブルの街があるんだ。まるで黄金の都に煌びやかで、この世の享楽を封じ込めた様な場所だと聞いている。上手く行けばノーザロイアの賭場なんかでチマチマ稼ぐよりも比べものにならない大当たりを得られるんだ!」


 日本国内に4カ所存在するカジノリゾートは、テラルスにおいても人気の観光地になっている。東京の「ダイバー・カジノタウン」、大阪の「ドリーム・サンズ・アイランド」、横浜の「ヨコハマ・ベイ・エンターテインメント・シティー」、沖縄の「グラン・ウチナー」、これら4つの統合型リゾートは、テラルスの富裕層にとって恰好の遊技場になっていた。


「でも・・・ニホンのギャンブルがお前に分かるのか?」


 ミケーラは異世界からやって来たと語る国のギャンブルが、自分たちに御せるのかどうかを不安視していた。


「勿論、そこの所はちゃんと調べて来たよ。カードゲームは良く知らないものが多いが、“ポーカー”というものは私たちがよく知るゲームに近い様だ。また“ルーレット”は大体見知ったルールだった。あと、“スロット”と呼ばれる機械を使ったギャンブルもあるらしい」


 ラルヴァンは日本から輸出される書籍などから、日本旅行のイロハや日本国内のカジノに関する情報を予め集めていた。


「サファントの両替屋で替えて貰った・・・俺たちの手元にあるニホン通貨は合わせて153,200エン。これが二人の全財産だ。これを増やせるだけ増やす!」


 元が貧困層の出身で、実家を飛び出してからはギャンブルで日銭を稼ぐ暮らしをしていたラルヴァンとミケーラは、纏まった金など持ち合わせてはいない。査証(ビザ)発行の手数料だけは何とか工面出来たものの、カジノで使う軍資金と滞在費をやっと工面出来る程の金しか無かった。


「取り敢えず・・・宿を探そう。まずはヨコハマ駅って場所に行く」


 ラルヴァンはサファント王国で入手した“日本観光のイロハ(ノーザロイア語版)”という書籍を開き、この後の予定を説明する。そして彼は船の側に居た作業員に近づいて声を掛けた。


「ねえ、そこの人。ヨコハマ駅ってところに行きたいんだけど、どう行けば良い?」


 ラルヴァンは宿探しの起点として横浜駅に目星を付けていた。


「ああ、外国人観光客か。そこの“C3バース”ってバス停から『横浜市営バス』が出ているからそれを使いな。終点が“横浜駅前”だ。12時ちょうどだからあと20分後か・・・確か運賃は230円くらいだった筈。まあ、ボチボチ待つこった」


「・・・“ばす”?」


 サファント王国人である彼らにとっては、日本人にとってごくありふれた公共交通機関である路線バスも非日常的な存在である。ミケーラは聞き慣れない単語を耳にして首を傾げていた。


「確か乗客を乗せて都市内の決まった路線を走る交通手段のことだな。我々の国で言う“駅馬車”みたいなものだ。まあ・・・馬が引いている訳では無い様だが」


 ラルヴァンは路線バスについてミケーラに説明する。その後、彼らはバスの時間を教えてくれた作業員にお礼を言うとC3バースバス停に向かった。およそ20分後、109系統の横浜市営バスが時刻通りに現れる。2人は馬に牽引されることなく自走し、自動で扉を開いた巨大な箱におっかなびっくりになりながらも、バスの中へ乗り込んで行った。




横浜市内


 彼らを乗せたバスは複雑に入り込んだ立体道路に入り、「横浜ベイブリッジ」の下を走る国道357号線を抜けていく。高く大きく頑健な道路と橋、そしてどこまでも広がっている様に見える巨大な港、バスの車窓から見えるそれら全てがラルヴァンとミケーラにとっては新鮮かつ衝撃的なものであり、2人は車窓からの景色に釘付けになっていた。

 バスはベイブリッジを抜けると横浜市中区に入って行く。市街地に入ると車窓から見える景色は一変した。天を貫かんばかりの建築物が建ち並び、数多の人と車が道を行き交っている。ラルヴァンとミケーラの故郷であるサファント王国の首都ポートレイの姿も、この街に比べればただの片田舎に過ぎなかった。

 「桜木町駅前」を過ぎると、バスは「横浜みなとみらい21」に近づく。そこで彼らは信じられないものを目にした。


「おい・・・みてみろよ! あの建物!」


 窓際に座っていたラルヴァンは人目も憚らず大きな声を出す。通路側に座っていたミケーラは相棒が指差す先を見上げた。そこには今まで見てきた建築物など比べものにならない程の高層建築物が建ち並んでおり、中でも一際高い建物は視界に収まりきらない規格外の高さを誇っていた。

 それは地上70階建て、高さ296.33m、超高層ビルとしては「大阪・あべのハルカス」に次いで日本で4番目に高い「横浜ランドマークタワー」であった。その荘厳とも言うべき姿は、日本人が暮らす世界と自分たちが知る世界は文字通り違うのだということを、まざまざと知らしめていたのである。


「これは・・・まさに別世界だ! 違う世界から来た国か・・・!」


 ラルヴァンは初めて目の当たりにする日本国の姿に興奮を隠し切れない。目に見える何もかもが彼らの中の常識を覆していた。そしてみなとみらいを通り過ぎた市営バスは、その後間もなくして終点の横浜駅へ到着する。




横浜市西区 横浜駅


 「横浜駅」・・・そこは日本第2位の人口を有する横浜市における、交通の要衝とも言うべき日本有数の大ターミナルだ。1日平均の乗降客数は約230万人、年間乗降客数は8億3千万を越え、これは新宿駅、渋谷駅、池袋駅、梅田駅に次いで世界第5位の記録である。

 周りを見れば祭りの様に人波がごったがえしており、耳を澄ませば工事の音が聞こえてくる。日本のサグラダ・ファミリアは2030年を過ぎても工事が終わることは無い様だ。


「おいおい、これは城か何かか? 首都の王城なんて目じゃないデカさじゃないか!」


 ミケーラは横浜駅の巨大さに圧倒される。彼らが知る“駅”と言えば、駅馬車や隊商が乗降の起点とする施設のことであり、この様な巨大な施設を連想し得る言葉ではない。


「この中の“観光案内所”というところに行くと、宿泊施設の案内をしてくれるそうだ。行こう」


 ラルヴァンはそう言うと横浜駅の中へと向かう。ミケーラも彼に遅れて建物の中に入っていった。東口から横浜駅の中に入った2人は駅構内の中央通路を真っ直ぐ歩く。否、真っ直ぐ歩こうとしていた。


(これは・・・何処にどう行ったら良いのか全く分からねェ!)


 だが、見た事も無い人混みに気圧されてしまった2人は、立ち往生と右往左往を重ねるばかりでちっとも前に進むことが出来ない。そうこうしている内に2人は東口の入り口まで押し返されてしまった。スクランブル交差点は初見では望む方向に行けないというが、人は想像もし得ないものを目にすると、思う様に行動できないものだ。

 幸運にも、そんな2人の異国人を見かねた清掃員が彼らに声を掛け、2人をコーヒーショップの隣にある観光案内所まで案内してくれた。ようやく目的地に到達したラルヴァンとミケーラは、清掃員にお礼を告げた後、自動ドアに戸惑いながら案内所の中へ入る。


「やあ、いらっしゃい・・・その恰好、外の世界から来た観光客だね。日本国へ・・・そして横浜へようこそ」


 案内所のカウンターにはカッターシャツを着た中年くらいの男が座っていた。彼は読んでいた新聞を閉じると、2人の来客に歓迎の言葉を贈る。


「あ、ああ・・・ありがとう。俺たちは今日、ニホンの貨客船に乗ってサファント王国から来たんだ。そこで出来るだけ安い宿を探しているんだけど・・・」


 ラルヴァンは自分たちの素性と此処を訪れた訳を説明する。


「・・・宿探し? どこかの旅行代理店が取っているんじゃないのかい?」


「・・・リョコウダイリテン?」


 ラルヴァンとミケーラは案内所の職員が発した聞き慣れない単語を耳にして首を傾げる。その後、ラルヴァンはサファント王国から日本まで来た経緯について詳しく説明した。


「へぇ〜! ツアー会社の手も借りず、2人だけで『ノーザロイア島』から此処へ来たのか! そりゃあ大したもんだよお前ら!」


 案内所の職員は2人の行動力に感心していた。通常、テラルスの民が日本へ旅行する際には、世界各地に支店を置く日本の旅行代理店を介すことがほとんどであるからだ。そして旅行代理店が提供する商品を買える顧客は大概の場合は貴族か王族、もしくは成金に限られる。故に、この2人の様な根無し草の貧民が日本旅行をするなど、かなりのレアケースだったのだ。

 日本への入国を希望するテラルス人は、各国の日本大使館で日本旅行の注意点に関する説明会と検疫を受けた後、日本国内への査証(ビザ)が発行される。彼ら2人もそうして査証(ビザ)を手に入れていた。因みにその際、奴隷の持ち込み禁止と採血が厄介事の火種になることが多く、大使館職員を悩ませていた。


「まあ〜、観光客に勧める出来るだけ安い宿と言ったら“カプセルホテル”になるかな」


「なんだそりゃ?」


「カプセル・・・箱型のベッドを提供する簡易宿所のことだ。個人的スペースはベッドのみでトイレ、風呂、リラクゼーションスペースは共用になる。ほら此処・・・この駅から徒歩2〜3分というところか、1泊当たり2000円台、普通のビジネスホテルよりは安いね。因みに今回の旅行の目的は?」


「・・・ギャンブルだ」


 職員の問いかけにラルヴァンが答える。


「成る程、一発当てようとここへ来た訳か。じゃあ、一応カジノの場所も説明しておく」


 職員の男はそう言うとカウンターの下から1冊の観光パンフレットを取り出した。彼はその中で横浜市街の地図が描かれている頁を開く。


「『ヨコハマ・ベイ・エンターテインメント・シティー(旧山下埠頭)』・・・此処が君たちの目指す場所だ。この横浜駅から直通バスが出ているからそれを使うと良い。商業施設なんかは朝からやっているが、カジノが開くのは午後4時からだから、あと2時間半くらい後だな」


 職員はカジノの場所と営業時間について説明する。通常、カジノと言えば本場ラスベガスやマカオなどでは、一部の例外を除いて24時間営業が一般的なのだが、横浜のカジノは様々な事情から24時間営業を実現することが出来なかったのだ。


「あと、これは渡しておこう。ノーザロイアの言葉で書かれた横浜の観光案内パンフレットだ。この街にはカジノ以外にも見所は沢山あるから、是非回って欲しいな」


 職員はラルヴァンとミケーラにパンフレットを手渡す。それには横浜市のランドマークとその所在地が事細かに書かれていた。


「ああ、分かった。色々と説明してくれてありがとう」


 パンフレットを受け取ったラルヴァンは職員にお礼の言葉を告げる。


「どういたしまして、では・・・良い旅を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ