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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
新婚旅行編

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ロデウス視点 ⑨ カジノ

 グウィネス四日目。


 僕は早起きした。レティは寝ている。おそくまで土産整理をしていたからだ。元侍女だけに、仕事はできる時にできるだけ片づけておき、次に残さないようにする。とても真面目だ。そんなところも、凄く好きなところだ。勿論、レティの全部が好きだけど。


 僕はレティの美しい寝顔を堪能することにした。本当に綺麗だ。それに、可愛い。幸せと安らぎを感じる。一時期は、この姿があまりにも魅力的過ぎて、僕は逃げていた。でも、今は穏やかな気分だった。本当の夫婦になれるようやり直すことをレティが受け入れてくれたから、僕は今、こうして幸せを感じることができる。


 あっという間に時間が過ぎた。僕もうとうとしていたため、二度寝しそうだった。


 朝食後、少し話があるとして、リンリーヌ子爵に声をかけられた。


 僕は部屋に戻ると、レティには寝室に移動して貰った。二人だけで話をしたいと言われたからだ。


「何か問題?」


 基本的に僕は視察団のことについては、何もする気はない。


「問題というほどではないのですが、話し合いの雰囲気があまりよくありません」


 リンリーヌ子爵は小声でそう言った。


「鉄道に関する話し合いということはご存知だと思います。担当ではないことも存じていますが、何かあれば、王太子の側近として意見を挟めます」

「あえて意見を挟んで欲しいわけ?」

「簡単に状況を説明しますと、本国とヴェルートを結ぶ鉄道を建設すること自体には合意しています。ですが、費用をどうするかで揉めています。本国はできるだけヴェルートに負担させたいため、本国の鉄道建設にも、ヴェルートにとっての益が増えることから、相応に負担するよう求めています。しかし、ヴェルートは互いの国境までの建設費用は各自で負担するとし、本国における鉄道建設には資金を提供しないと言っているのです」


 ヴェルートの言い分はよくわかる。自分のところは自分で、ということだ。しかし、本国は元々その気がない。ヴェルートのために作るも同然のため、ヴェルートも出せという感じなのだ。


「更に、鉄道のルートでも揉めています。本国は人や物資を早く輸送することを重視したルート、最短距離になるよう建設するつもりなのですが、ヴェルートは様々な人や物資を国内に行き渡らせるためにも、いくつか経由地を設けたいらしいのです。そうなると、いくら本国が最短距離で国境まで運んでも、ヴェルート国内で大回りをさせられ、結局、現在とさほど変わらない日数で王都と首都を移動することになります。莫大な費用をかけるのに、それは微妙だとなっているのです」

「なるほど」


 現在、すでに互いに鉄道がある。途中までではあるが、それでも日数は多くない。本国は最短距離でルートを伸ばすことにより、二日かかる移動を一日にしようとしている。一日分短縮できるとなる。しかし、ヴェルートも同じようにするのではなく、国境から別の都市に向けて鉄道を建設し、そこを経由するような形で、首都に向かうルートにしたい。経由地が増えれば、一日分縮まるところが増える。結局、移動日数は四日間で変わりないとなってしまうということだ。


「この場で即決するわけではなく、検討し合い、本国に持ち帰って判断を仰ぐことになりますが、よくないとなるのは必至です。なんとかもう少し改善したい状況なのですが、ヴェルートも交渉が始まったばかりのため、簡単には譲歩しないでしょう。ヴェルートとしては、資金を出す代わりに、ヴェルートの希望通りにするという方向で合意したいと思われます。ですが、こちらとしても、最短距離は譲れません。相容れません」

「互いに国境までの建設費用を負担することで、最短距離にという条件にはできないの?」

「ヴェルートとしては、結局国境まで何かを運んでも、越境に関わる手続き、審査に関する施設も作る必要があり、そちらにも費用がかかります。そして、そういった場所が整うほど、大量の物資が国境で足止めを喰らいます。結局、物資のやり取りに関しては、現状の日数とさほど変わらないということも主張しています。その懸念は確かにありますが、こちらはいざという時、軍を送る手段とも考えています。しかし、それを言ってしまうと、侵略する気ではないかと誤解されかねないので、困るのです。どちらかといえば、ヴェルートが他国と戦争になった際の増援目的です。それをヴェルートが納得するかどうかでも違うため、言えないのです」


 僕はため息をついた。難しい案件だ。僕だけでなんとかできそうな問題ではない。


 確かに僕は王太子の側近だが、なったばかりの新人だ。大きな権限はない。この件に関しては担当でさえないのだ。


「難しいね」

「そうなのです。簡単にまとまるとも思っていませんでしたので、とりあえずは休憩となり、別の話題などをして、やや悪くなった雰囲気を良くすることになったのですが、その際、クライスター卿の話が出ました」

「僕の?」


 嫌な予感がした。


「はい。ヴェルートには三人の王女がいます。第一王女は、王太子殿下の側妃です。未婚の王女が二人います」


 僕は凄く嫌な予感がした。


「クライスター卿は王太子の側近で公爵家の出自です。非常に優秀なだけでなく、容姿端麗、性格もよく、莫大な財産を持っています。爵位がないこと以外は、非常に優良物件です」

「待って。それ以上言わないで」

「王女がクライスター卿を気に入ったそうです。王女と結婚するとなれば、配慮がされ、爵位が与えられます。本国では無理でも、ヴェルートの爵位を授与すればいいだけです。ヴェルートに広大な土地を所有しているため、それを領地扱いにするという手もあります」

「僕はもう結婚している。無理だよ」

「妾にすればいいのです。身分の低い方を。それが普通です」


 僕はできるだけ凄むような表情を作った。


「それ、ヴェルート王が言ったの? それとも、リンリーネ子爵の意見?」

「ヴェルート王の側近です。ヴェルート王も初耳だったらしく、爵位の件は気にかかるが、王女を誰に嫁がせるかは検討中だったと言いました。クライスター卿は新婚です。さすがにこの話は無理だと思う者が多数でしたが、王女の持参金は莫大です。それを鉄道建設の費用にまわすようにしてはという案も出ています」

「なにそれ、横暴!」


 僕は声を荒げた。


「絶対無理に決まっている! 大体、僕は愛妻家で有名だよ? 結婚式を挙げたばかりでもある。それで王女と結婚なんかありえないに決まっているじゃないか!」

「国の思惑がかかった政略結婚となれば、話は別です。むしろ、王女との結婚にかこつけて、クライスター卿に一代限りでも爵位を与える理由になるため、王太子も考慮するのではないかという見方もあります」

「ふざけるな! 僕はそんなものはどうでもいい!」


 僕は激怒した。


「僕はレティと幸せに暮らしたいだけだ。もし、そんな話になったら、辞職して、田舎に引きこもる!」

「勅命が出ると厄介です」


 僕は言葉を失った。国王の勅命で結婚しろと言われれば、逆らえない。もし、逆らえば、処刑されても文句は言えない。軍事国家なだけに、命令違反は重罪だ。


「クライスター卿も他人事ではないということを、少しお耳に入れておいた方がいいと思いました。私の個人的判断です」

「そうか。ありがとう」


 リンリーヌ子爵は視察団の者として、僕に話をしたわけではなく、個人的に僕のことを心配し、教えてくれたのだ。いずれ何かあれば、僕の耳にも入るであろうことから、事前に知っておいた方が手を打てるのではないかと、配慮してくれたのだ。


「確かに他人事ではないけれど、これもすぐには難しい」

「わかっています。あまりいい話ではなく、申し訳ないのですが、何もご存知ないよりはいいかと思いました」

「その通りだよ。教えてくれて感謝する。少し考えてみる」

「はい。もう一つあります。今夜、視察団はヴェルートとの親睦を兼ねて、あくまでもプライベートにとしていますが、共にカジノを楽しむことになりました。クライスター卿も視察団のメンバーに入っていますので、ご一緒頂きたいのですが」

「カジノか。僕だけ?」

「いいえ。夫婦で参加です。他の方々も夫婦で参加します。私も妻を連れていきます。妻には奥方に関し、できるだけ側にいて配慮するよう伝えています。女性だけになったとしても、大丈夫ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?」

「僕としてはあまり行きたくないけど、視察団の者として行かないと不味いなら、レティに相談するしかないな」

「ぜひ、ご相談下さい。クライスター卿はできるだけご参加いただきたいのですが、奥方に関しては、理由をつければ欠席しても、問題ありません」

「わかった」


 僕はレティに今夜の予定について相談した。レティはカジノと聞いて、あまりいい顔はしなかったが、視察団の者として行かないと不味いということを考えれば、欠席するのは微妙だとし、一緒に行くことになった。




 カジノへは馬車で出かけることになったのだが、見覚えがあるカジノだった。アルウィン王子の母親の実家が経営するカジノだったのだ。


「よく来た」


 アルウィンが出迎えてくれた。僕とレティだけを。他の者達は無視している。


「ロディとレティには特別にチップを用意しよう。あまり多くはないが、今夜来たのはしぶしぶだろう? 無料で遊べるよう、チップを貸してやる。使い切った場合は問題ないが、儲けた場合は、最初に貸した分は返せ」


 アルウィンは僕とレティを愛称で呼び、特別な配慮をしてくれると言った。周囲はそのことに驚いていた。当たり前だ。僕達がアルウィンに会い、知り合いになったのは昨日だ。それまで一切、面識はない。


「好意は嬉しいけど、大丈夫だよ。今夜は雰囲気を楽しむつもり」

「ケチ臭いことを言うな。豪遊しろと言いたいところだが、愛妻がいると、羽目をはずすのは無理だ。大人しく無料チップで遊んでいろ」

「わかった」


 何度も断るのは、アルウィンの体裁にかかわるため、僕は好意を受けることにした。


 アルウィンは僕とレティにそれぞれ一千万ベインを用意してくれた。驚きだ。


「こんなにいいの?」

「言っておくが、これだけの間違いだ。上のフロアでは、すぐになくなりかねない」

「そういうことか」


 僕とレティが昨日来た際は、一階で遊んでいた。今夜は二階になるため、相場が上がる。そのことを考え、用意してくれたのだ。


「まあ、ケチケチしながら遊べば、それなりに時間を潰せる」

「聞きたいことがある。いい?」

「なんだ?」

「僕しか優遇してくれないの?」

「当然だ。お前は友人だからこそ、配慮したまでだ。どちらかといえば、お前の妻への配慮だ。夫の財産をすり減らして遊べる性格ではあるまい」

「……そうか、美人には優しいね」

「当然だ。俺は美人が好きだからな」

「一応。僕は視察団の一人として来ている。できれば、他の者達にも、少しだけサービスしてよ。僕だけなのは微妙だ」


 アルは視察団の者達を見た。


「一人百万貸してやる。儲けた場合は返せ」

「ありがとう」

「お前ではなく、お前の妻に言われたいところだ」


 アルの冗談に、僕は笑うことができた。内心は、ややムカついたが、王子なだけに我慢する。今夜は友好がテーマだ。僕が雰囲気を悪くするわけにはいかない。アルもそれをわかっているからこそ、視察団にもチップを貸したのだ。


 僕とレティはいくつかのゲームに参加したが、順調にチップを減らしていた。やはり、ツキがないらしい。リンリーネ子爵夫人は賭けに強いらしく、順調にチップを増やしていた。


「妻は賭け事に強いのです」


 リンリーネ子爵が苦笑した。


 妻がチップを稼いでくれるため、自分はチップを減らしても、妻に小遣いを与えたと思うことにしているらしい。そうすると、負けた分を取り返そうと必死になることもないとか。なかなか面白い考えだ。


 リンリーネ子爵夫人は上機嫌のせいか、独身時代の話をした。


 元々賭け事が好きだったのだが、大負けしてしまったことがあった。小切手をきるにはあまりに大金で、手が震えたらしい。両親に激しく叱責されるのは間違いない金額だった。


 その際、小切手をきる相手の友人だったリンリーネ子爵が、自分が立て替えるといって、代わりに小切手をきってくれたのだ。それがきっかけで知り合い、夫人は分割払いでリンリーネ子爵にお金を返した。


 リンリーネ子爵に全てのお金を返し終えた時、夫人はリンリーネ子爵に好きだと伝えようと思っていた。ところが、告白しようとしたその時、逆にリンリーネ子爵から好きだと告白されたらしい。互いにお金のことが片付いてから、想いを伝えた方がいいと思っていたのだ。その後、トントン拍子に話が進んで結婚した。


 今では、夫が一緒の時しか、夫人は賭け事をしない。夫がいないと、また大負けしそうな気がして、ゲームに集中できず、不安になってしまうというのだ。リンリーネ子爵夫人にとっては、夫こそが勝利の女神らしい。リンリーネ子爵は男なので、正確には神だ。


「夫は凄く勘が鋭いのよ」


 リンリーネ子爵夫人が言った。


「でも、賭け事はあまり強くないの。不思議でしょう?」

「君が強すぎるだけだ。私は普通なだけだよ」


 リンリーネ子爵が返す。その余裕気な態度が凄くスマートだ。僕もあんな風にかっこよくふるまえたらいいなと思うのだが、なかなか難しい。


 僕がカードゲームに参加していると、レティは化粧室に行くといって場を離れた。リンリーネ子爵夫人が一緒なので、問題はないはずだ。まださほど経っていないのに、レティの付き添いで席を外すのは不味かった。


 僕はレティのことが気になり、全然勝負に集中できず、大負けした。リンリーネ子爵夫人の気持ちがわかった気がする。僕にとってはレティこそが勝利の女神かどうかはともかく、女神であることは間違いない。


 僕はなかなかレティが戻らないため、探しに行くことにした。飲み物も欲しいと言っていたため、バーの方を覗くがいない。しかし、係の者に声をかけられ、レティは交換場の方に行ったと教えてくれた。僕やレティがアルウィンの友人だからこそ、その行動に係の者達が注意を払い、配慮してくれていることを感じた。


 交換場の方でレティとリンリーネ子爵夫人に合流した。リンリーネ子爵夫人が結構チップを稼いだため、どんな商品に交換できるのか見に来たらしかった。チップは現金に交換できるものの、十万以上は手数料がかかる。欲しい品物がある場合は、それに交換してしまった方が得になる。


 交換商品には様々なものがある。高額商品もある。物凄く高い宝飾品もあるのだが、宝飾品店で購入するのとは違うため、やはり得らしい。リンリーネ子爵夫人は新婚旅行でヴェルートに来た際、このカジノで大儲けし、一点ものの宝飾品に交換したことがあるらしかった。ヴェルートは彫金などが有名で、物価が安い。本国の方で鑑定したところ、相当得な品だと判明し、今でも大事にしている逸品だということだった。


 今回見た中にも、かなり凄い宝飾品があるため、レティと欲しいと話し合っていたらしい。僕はレティが欲しいと思った品に興味を覚えた。珍しい。レティが宝飾品を欲しがるなんて。


 もしかすると、リンリーネ子爵夫人に話を合わせただけかもしれないが、一応、一緒に戻ってみることにした。さほど高額でもなければ、また小切手をチップにし、商品交換をすればいいからだ。


 しかし、残念なことに、凄い金額だった。さすがに躊躇する金額だ。むしろ、宝飾品店でもないのに、よくこんな品が置いてあると思うしかない。


「高いね……」


 思わず本音が出た。


 ヴェルートで莫大な財産を手に入れたとはいえ、すぐに動かせるのは預金の一部だけだ。それはすでに、本国に移す手続きをしてしまった。なぜかといえば、結婚式の費用の支払いがあるからだ。後から請求されることになっているため、まだ支払っていない。そして、今回の旅行に対しての費用もある。


 レティに宝飾品を買ってあげたいけれど、さすがにここに飾ってあるのは厳しい。


 しかし、リンリーネ子爵夫人は違った。やる気が出たらしい。今のチップを交換せず、さらに増やして、宝飾品と交換すると意気込んでいた。


 僕はふと思いついた。リンリーネ子爵夫人は賭け事に強い。同じ方に賭ければ、勝てるのではないかと。


 僕は勝負に出ることにした。



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