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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
新婚旅行編

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ロデウス視点 ④ 舞踏会

 夜の舞踏会は派手だった。派手な本国の者達を出迎えるため、派手な催しにするというのはわかる。しかし、王族が来たわけでもないのに、これほどとは思わなかった。


 大歓迎してくれるのは嬉しいが、視察団がヴェルートに来る回数はそれなりにあったはずだ。毎回こんなに歓迎していると、費用が大変ではないかと、僕は他人事ながらそう思った。


 レティの美しさはヴェルートの者達にも知れ渡ってしまった。舞踏会なだけに、ダンスを踊る必要がある。ダンスをしやすいドレスのデザインにすべきなのだが、レティはあえてマーメイドタイプで裾が長めのドレスにしていた。マーメイドタイプのドレスは踊りにくい。裾が長めの場合は余計に。これは、あまり踊りたくはないという暗黙のアピールになる。


 視察団は視察や話し合いをしているために来ているわけであり、友好を深める公式行事として訪れたわけではない。そのため、舞踏会だからといって、必ずしも踊り、愛嬌をふりまく必要は全くない。そういうのは外務省の仕事だ。外交官ではない者達は、むしろ、本国の者として、毅然とした態度で振る舞うべきとなる。


 とはいえ、誰も踊らないわけにはいかない。視察団のトップの鉄道省大臣夫妻は高齢のため、踊らない。そこで、僕とレティが踊る。これが視察団の一員らしい仕事といえた。


 僕、というか、レティに注目が集まる。当然だ。僕の妻がいかに魅力的な女性かを感じる。その一方で、不安でもある。レティに近づく男性がいないか。


 レティは僕と踊った後、王太子と踊った。王太子は中年だ。勿論、妻も子供もいる。それでも、レティの美しさに見惚れていた。僕は冷静にならないといけないと思いつつも、二人が踊る姿にじっと視線を向け、一曲終わると同時にすぐにレティを迎えに行った。


 その後もレティにダンスを申し込む者達が次々とやってきたが、僕が断った。心の狭い男だと思われても構わない。軽々しく僕の女神に触れることを許すわけがない。手であっても駄目だ。


 ダンスの相手は追い払ったものの、社交目的で話をしにくる者達全てを追い払うことはできなかった。僕は王太子の側近ではあるものの、貴族の爵位がない。騎士爵のみだ。貴族出自とはいえ、その身分だけを見れば、決して高くはない。むしろ、低い。それでも、公爵の息子であることから、上級貴族の立場ではある。


 属国の爵位は本国に劣るというのが常識だ。本国の王と属国の王では、本国の方が偉い。当たり前だ。この図式が別の爵位や身分にも当てはまる。僕は本国の上級貴族であるため、属国の上級貴族よりも上となる。それでも、全てに当てはまるわけでもない。属国の王族や、上級貴族の爵位持ちには、相応に振る舞う必要がある。使節団のトップでもなく、特使などでもないため、余計に僕は慎重に行動しないといけないのだ。


 男性はどうしても政治的な話題になる。レティが一緒しにくくなってきた。通常の社交であれば、レティに席を外すように促し、男性だけで話を続けるという手もある。しかし、僕は社交をしに来たわけではない。ヴェルートの者達の相手をするのは、鉄道省の者や外務省の者など、本来の使節団の者だ。僕とレティの役目ではない。


 僕はレティを連れて、隣の広間に移った。そこは飲食スペースになっている。飲食中は話しかけにくくなる、遠慮する者が多いというのを利用したのだ。


 使節団や要人専用の広間であるため、立食式ではなく、着席できる。いくつかのテーブルは埋まっている。目立たない席がいいと思いつつも、端にあるテーブルは埋まっている。人気があるのだ。仕方なく、別の席にしようと思っていると、声がかかった。


「クライスター卿!」


 クライスター卿というのは僕のことだ。


 僕を呼んだのは外務省の高官であるリンリーヌ子爵だった。


「ぜひ、ご一緒に」


 断りたかった。しかし、不味い相手がリンリーヌ子爵と同席していた。この国の宰相夫婦と外務大臣夫婦だ。行きたくない。


 しかし、同席している相手の身分と地位を考えると、断れない。むしろ、リンリーヌ子爵夫妻だけで、よくこの大物達を相手にしていたなと感心するしかない。僕だったら、速攻で別の者達を同席させるように仕向ける。いや、リンリーヌ子爵もそのつもりで、僕に声をかけたに違いない。


 よく見ると、副大臣夫婦は別のテーブルで部下達と同席していた。全て席が埋まっている。わざと席を開けず、余計な者達を近づけさせない作戦に違いなかった。


 食事に来たのは失敗だったかもしれない。


 僕とレティはリンリーヌ子爵達と同じテーブルで食事をすることになった。




 食事は着席すると、給仕係の者が来た。僕は飲み物と食事を取りたい旨を伝える。


 リンリーヌ子爵達はすでに食事が進んでいるため、僕達は会話には参加せず、食事をすることに集中するつもりだった。


 最初は僕の話題だった。短期間で大出世したことを、リンリーヌ子爵がヴェルートの者達に話した。こういった情報はヴェルートも知っているはずだ。あくまでも最初だからこその紹介、社交辞令、無難な会話だ。


 リンリーヌ子爵は僕の立場を考慮してか、かなりのリップサービスだ。確かに短期間で出世したのは事実だし、それなりに話題になったが、僕としては運が良かった部分もあると思う。しかし、リンリーヌ子爵は僕が優秀だからこそと褒めちぎった。


 次の話題は僕とレティの話題だ。結婚はしたものの、僕の仕事が忙しすぎて、正式な結婚式や披露宴がまだだった。少し前にようやく結婚式と披露宴を挙げたばかりだ。


 最も格式が高い大聖堂での結婚式、その後に国王と王太子が出席する昼食会、夜に王立歌劇場で披露宴というのは、本国で最上級の結婚式スタイルとなる。


 大聖堂での結婚式は、当然のごとく、予約が取りにくい。披露宴は王立歌劇場以外の場所で盛大に披露宴が行われることもあるが、年間公演がある王立歌劇場は個人での貸し切りが手配しにくく、また、王立歌劇場管弦楽団の演奏、余興を行う者を手配する必要もあるため、費用が莫大になってしまう。更に結婚式の報告を王族にするのは、王族に直接仕えている者や、爵位を持つ者だけだ。基本的には謁見だけで、夫婦揃って早速昼食会に呼ばれるのは凄いことになる。


 僕達の場合は国王だけでなく、王太子や重臣達が大勢参加する大規模な昼食会だった。元々は王太子が主催する昼食会の予定だった。しかし、国王がわざわざ自分と重臣の昼食会に同席させる形にした。僕のための昼食会ではなかったものの、重臣の妻達、王太子が予定していた招待者も含めることから、大規模な昼食会になった。まさに大貴族、裕福な証、王族に目をかけられている寵臣だと証明したことになる。


 自分達のことだけに、話題にされるのはやや微妙だ。僕達の結婚式や披露宴の話題は、社交新聞などでも大々的に取り上げられ、特集が組まれた雑誌もあった。属国にもその情報が流れ、ヴェルートでも話題らしい。属国は本国と離れているため、どうしても情報の伝達に時間がかかってしまう。そのせいで、まさに今、僕とレティの話題で社交界はもちきりになっているらしい。


 しかも、僕とレティが視察団の中に加わっていることで、余計に加熱してしまったという。僕やレティ、視察団に迷惑をかけないよう、国王が直々に言葉を発し、事前に注意を促したと、宰相と外務大臣が教えてくれた。僕もレティも驚くしかない。


 話はそれだけではなかった。僕が相当レティに惚れ込んでいること、愛妻家としてとても有名なことも、本国のみならず、属国でも知られているらしい。


 僕がレティに一目惚れしたことだけではない。僕がレティを愛するがゆえに、有力貴族からの縁談を次々と断ったこと、更には僕の愛情を示すため、オークションで特別な宝石を購入し、愛の証として贈ったことなども、知られていた。


 僕が参加したオークションには、本国のみならず、属国の者達も参加していた。王家の代理人もいた。ヴェルート王家の代理、貴族達も参加していたらしい。そして、見事に競り負けたと宰相が笑った。宰相も代理人を派遣し、オークションに参加していたのだ。


 その日のオークションは全体的に予想額を上回る落札額が続出した。その結果、あらかじめこの程度という予算を決め、代理人を立てている者ほど不利だった。落札金額が予算以上になると、代理人は落札できないと判断し、諦めてしまうからだ。しかし、自分で参加している者達は、自分の判断で金額を上げることができる。そして、僕が最終的に落札した。


「あれほどの額になるとは、予想外だった。クライスター卿の財力がうかがえる」


 そういって宰相や他の者達が笑った。僕は内心不味いと思いつつ、レティを見た。美貌がさえわたるような張り詰めた表情だ。この表情を見ると、レティを冷たい女性、あるいは不機嫌、怒っていると感じるかもしれない。実際は違う。ショックで青ざめている、気丈にもなんとか耐えようとしているのだ。


 レティは僕が指輪の宝石をオークションで競り落としたことは知っている。友人の女性達が教えたのだ。しかし、金額については耳に入らないよう配慮して貰っていた。だというのに、知ってしまった。


 会話は更に不味い方向に向かう。


 特注の指輪のことだけでなく、青騎士に就任した際に、やはりオークションで購入し、レティに贈ったサファイアの宝飾品の話にもなった。まさに今身に着けている品だ。


 レティにはネックレスとイヤリングをセットにして贈ったが、元々はセットの品ではない。オークションでネックレスを競り落とし、それに合うようなイヤリングを選んで合わせ、セットにしたのだ。どちらも既製品になるのだが、ネックレスはオークションで競り落とした品であるため、かなり高額だった。


 この金額もレティは知らないままだったが、やはり知られてしまった。二つの品を合わせただけで、財産としては十分な金額だ。平民であれば、一生暮らしていける。


 宰相夫人や外務大臣夫人は、サファイアのネックレスとダイヤモンドの指輪に視線が釘付けだった。どちらも目に付く大きさの宝石を使った宝飾品だけに、一目で高額だとわかる。この二つを身につけていれば、どう考えても僕がかなりの財産家であるように思える。レティに男性が近づかないようにするため、僕なりに最大限のけん制をしたつもりだ。


 レティは特に反応することもなく、静かに食事を続けていたが、僕の心の中は警報が鳴りっぱなしだ。後でこの件で何か言われるのは間違いない。


 レティは僕がどんなことにいくら使ったのかは、全く口を出さない。僕が働いて稼いでいるお金だからだ。レティには小遣いをあげているが、ほとんど使っていない。普段の生活ではお金を使うことが少なく、外出しても、高価な品を買わない。そこで、僕の方で何らかの理由をつけ、プレゼントとして購入し、贈っている。そして、僕が愛妻にプレゼントしまくっているという噂が広まり、妻を溺愛している、愛妻家だと知られているというわけだ。


「ヴェルートは彫金技術が発達している。特に金製品の評価が高い。気に入ったものがあれば、購入されるいい機会だ」


 外務大臣直々に薦められてしまった。その後は、宰相夫妻や外務大臣夫妻、リンリーヌ子爵夫妻までもが、僕達にヴェルートの有名な宝飾品店などを紹介し、あれこれアドバイスをしてくれた。


 こうなると、もう行くしかないし、何かしら購入しないと不味いという気分になってくる。懐が寂しいので遠慮するとは、口が裂けても言えない。


 僕は心の中で大きなため息をついた。


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