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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
愛の日編

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ロデウス視点 ② 午前中

 愛の日になった。僕は早朝に起きると、手早く身支度をして出勤した。


 僕の住んでいる青騎士団の宿舎は王宮の近くにある。とても通勤に便利だけど、王宮にも部屋を与えられている。僕が執務補佐官だからだ。


 王や王太子の執務補佐官は忙しい。残業も多く、王宮に宿泊する者が非常に多い。だからこそ、部屋が与えられる。


 王宮の部屋に寝泊まりすれば、部屋代、食費、クリーニングも全て無料。生活費がほとんどかからない。但し、いいことばかりではない。


 僕の部屋は四人部屋だ。衣装や私物は鍵付きの箪笥一つに入るだけ。バスルームやトイレは共用施設を利用する。つまり、騎士や侍従などと同じような部屋だった。


 家族で一緒に住むことはできない。独身者は問題ないが、既婚者の場合、妻子だけは王宮外に別の住居が必要になる。


 一番の問題は、時間に関わらず、呼び出しが来る可能性がある。休日はあってもないようなものになってしまう。王宮に住み込みで働く官僚になる。


 執務補佐官には休日なんてほぼないとはいえ、よりゼロに近づくのを嬉しく思うわけがない。


 僕は王宮につくと真っ先に自分の部屋に向かった。そこに舞踏会用に持ってきた礼装などを置きに行くためだ。着替え部屋や一時的な荷物部屋としては十分に使える。


 ドアには在室中の札があるものの、鍵がかかっていた。内鍵がかかっていると、廊下からは開けることができない。僕はドアを強く叩いた。


 なかなかドアは開かないが、これはいつものことでもある。僕はひたすらドアを叩き、蹴り続けた。ようやくドアが開くと、ボサボサ頭のノーマンが姿をあらわした。


「すまん。音は聞こえていたが、起きる気力がなかった」

「なんでここにいるの? 昨日、一緒に宿舎に帰ったよね?」


 ノーマンも僕と同じく王太子の執務補佐官兼青騎士だ。妻のローナはレティの友人でもある。


「……ローナが今日の差し入れ時に着ていくドレス選びに夢中で、寝かせてくれなかった。そこで、忘れていた仕事があるといってこっちに来た」

「礼装は持ってきたの?」

「持ってきた。悪いが体調不良だ。頭が痛い。昼まで寝る」

「薬は飲んだ? あげようか?」

「欲しい」


 僕はポケットからピルケースを取り出した。


「良く効くから、一粒でいい薬だよ。水はある?」

「ない」

「待っていて。すぐに持って来る。鍵はかけないで」

「すまん」


 僕は急いで荷物を箪笥に入れると、談話室まで走った。談話室には自由に飲める飲み物やちょっとした軽食が用意されている。僕は水のボトル二つと、常備されているクッキーの箱を一つ掴むと、部屋に戻った。


「ノーマン、水を持ってきた。クッキーもあるよ。もし、お腹が空いていたら食べて」


 僕は薬と水を渡しながらそう言った。


「ロディは優しい。同じ部屋で良かった。他の者は、こんなことは絶対にしてくれない」

「代わりに侍従を呼んでくれるよ」

「たぶんな。だが、非常に待たされる。それに、自分で指示しなければならない」

「さっさと飲んで。僕は仕事に行くから。昼食時間があったら、その時に様子を見に来るよ」

「……好意には感謝するが、昼食時間はないと思うぞ。十五時にお茶会がある。その時に食べろと言われるに決まっている」

「やる気がなくなるようなことを言わないでよ」

「レティが来る。美味い差し入れを持って」

「やる気が出た」


 僕の言葉にノーマンは笑ってすぐに寝た。




 執務室にはすでに三人がいた。出勤しているというよりは、泊まり込んだ者だ。床で寝ているため、死体のようにも見える。


 僕が来たことで、全員が目を覚まし、時間を確認する。


「うおっ、不味い! もうこんな時間か!」

「辛すぎる……休みたい……」

「腹減った」


 僕はすぐに侍従を呼んだ。熱いお茶とコーヒー、朝食としての軽食を頼む。取りあえずは四人分だ。


 更に水のボトルを十二本、空腹時につまめるクッキーやチョコも忘れず持って来るように伝える。但し、箱入り未開封のものに限る。これはこの部屋に常備している飲み物と食べ物の補充だ。朝一で頼んでおくと、途中でいちいち呼ばなくていいため、時間の節約ができる。


 僕は引き出しから朝一で提出する予定の書類を取り出した。更に、一番下の深い引き出しからは水のボトル一本と、チョコレートとクッキーの箱を一つずつ取り出した。


「第一に行きます。一緒に持って行く書類はありますか?」


 第一というのは、第一執務補佐官室だ。


「ある!」

「全部の書類ができていない」

「同じく、一部がまだだ……」


 それはどうしようもない。僕はできている書類だけを回収して、第一執務補佐官室に行った。


 第一執務補佐官室にはシリル様がいた。座っているが、寝ているのか目を閉じている。


「シリル様、おはようございます」

「おはよう」


 シリル様はすぐに目を開けて返事をした。寝たふりをしていたのか、一瞬で目を覚ましたのか、全く判別ができない。これもシリル様の凄さの一つだと僕は勝手に思っている。


 僕は持ってきたものをシリル様の机の上に置いた。


 回収して来た書類と、差し入れの水のボトルとチョコレートとクッキーの箱だ。


「王宮の備品には飽きました。別の菓子が食べたいですね」


 僕が差し入れするのは、王宮で常備しているものだ。常に同じ品になってしまう。


「備品の種類を豊富にしないと無理です」

「今日は愛の日です。十五時に差し入れが来るまでの我慢ですね」


 シリル様がそう言ってため息をついた。


 十五時に差し入れされるのは青騎士だけだ。シリル様は青騎士ではない。関係ない気がしたものの、僕はあえて黙っていることにした。


「シリル様には愛の日の贈り物が沢山届くのでは? それを食べればいい気がします」

「毒入りもあるので、親しくない者から贈られた食べ物は全て捨てます。食べられません」

「……そうでしたか」

「まさかとは思いますが、貴方は愛の日に贈られた菓子を食べているのですか?」


 僕は黙り込んだ。こっそり廃棄処分しているとは言いにくい。


「ロデウス、感心しませんね。毒入りだったらどうするのですか?」

「食べていません。大丈夫です」

「そうですか。ならいいですが」


 シリル様は僕が差し入れたチョコレートの箱を開けながら言った。


「青騎士は王族が個人的感情で任命するため、定員はありません。誰かが死んだら、空きが出たため、他の誰かがなれる、というものではないのです。しかし、執務補佐官は同じとは言えません。よほどのことがない限り、補充されるでしょう。つまり、誰かが補佐官ではなくなれば、他の者が補佐官になれる可能性が高いのです」


 シリル様はクッキーの箱も開ける。そして、一口大のクッキーの上に、チョコレートを一粒ずつ乗せ、更にクッキーを乗せ、サンドイッチ状態にした。


 チョコレートだけ、クッキーだけでは食べ飽きたため、一緒に食べてチョコレートサンドクッキー味にするのが最近の食べ方らしい。


 ちなみに、シリル様が一番好きなのは、チョコチップクッキーだ。それに近い味にしているともいえる。


「これは再提出です。後はじっくり見ます」


 シリル様は僕の提出した書類を素早くチェックし、五部の内、二部だけ突き返して来た。早い。どうしてろくに見てなさそうなのに、駄目だとわかるのか謎だ。優秀過ぎる。


「はい。では、失礼します」


 僕は書類を受け取ると、部屋を退出しようとしたが、声をかけられた。


「ロデウス」

「はい。何でしょうか?」

「レティシアは何を持って来るのですか?」


 シリル様は青騎士ではないため、青騎士であれば知っていることを知らない時がある。


 重要なことは大抵知っている。でも、あまり重要ではないことは伝える必要がないと思う者が多く、話題にもなりにくいので、知らない。


「チョコレートクッキーです」


 自作のチョコレート&クッキーに伸びたシリル様の手が止まった。


「チョコチップクッキーですか?」

「いいえ。チョコレートクッキーです。チップではありません」

「そうですか。下がっていいですよ」

「はい」


 僕は部屋を退出した。




 僕の勤務している第四執務室に戻ると、サイモンも出勤していた。残りは一人、ディックがいない。


「おはよう」

「おはよう。早いな」

「朝一番に書類を提出しようと思っていたから」


 執務補佐官は遅くまで残業している。夜中もフル稼働ということも少なくない。そのため、朝は最も人が少なく、書類を提出する者も少ない。だからこそ、提出する相手さえいれば、すぐにチェックして貰える。再提出になったとしても、時間の猶予が多くなる。


「わかっていても、早起きできない」

「それは知らない」


 僕は再提出になった書類をカールに返した。


「再提出だって」

「……やはり駄目か」


 わかっているなら出さなきゃいいのにと思いつつ、僕は自分の席に戻った。


 すでに侍従に言いつけたものが届いている。お茶とコーヒーと軽食は、全部他の者達に取られていた。僕の分がない。


「サイモンの分はないのに」

「頼めばいいではないか」

「サイモンこそ、自分で頼めばいいのに」

「先輩に譲りたまえ」


 わざとらしくそう言われると、どうしようもない。僕が一番下っ端の新人だからだ。


 僕は時計を見た。ディックもそろそろ出勤しそうな気がした。また取られるのは勘弁したいため、僕は侍従を呼ぶと、二人分のコーヒーとお茶、軽食を頼んだ。


 僕の予想通り、侍従が戻ってくる前に、ディックが出勤した。


 ディックは酒臭かった。でも、これもまた予想通りだった。ディックは昨夜、お忍びで外出する王太子に同行することになっていた。


 夜に出かけるとなれば、行き先は酒場か娼館だ。稀にその他。


「昨夜、青騎士による利き酒勝負、早飲み勝負、飲み比べ勝負が行われた」


 ディックは椅子にぐったりと座りながらそう言った。


 王太子がまたろくでもない勝負をすることにしたようだ。ディックは酒に強いため、二日酔いではなく、単に眠いだけか、仕事をしたくないという気分のせいだ。


「今夜の舞踏会における青騎士待機枠は三。それぞれの勝負で勝ち抜けした者から、好きな当番を選べるということになった。全員がいるわけではないため、俺は自分だけでなく、サイモンとロディの代理としても勝負した」


 僕とサイモンはそれを聞いてすぐに視線をディックに向けた。ただの勝負じゃなかったのだ。今夜の当番がどの時間帯になるかがかかっていた。しかも、本人がいないため、代理で別の者が勝負していた。勝手に。僕とサイモンの運命はディック次第ということだ。


「私は利き酒勝負で一位となった。そこで、サイモンの早番の権利を奪取した」

「ディック! 私はとても感動している! 書類を三部よこせ!」


 サイモンが顔を輝かせて席から立ち上がると、ディックの元に行って手を差し出した。


「馬鹿言うな。この状態では午前中はまともに仕事ができない。書類は五部だ」

「仕方がない。引き受けよう」


 早番になりたがっていたサイモンは条件を飲み、ディックから書類を五部受け取った。さりげなく分厚い束を選んで渡しているところがディックらしい。


「次の早飲み勝負で、私は負けた。おかげで遅番になった」


 僕はがっかりした。僕は青騎士としても執務補佐官としても一番下、新人だ。そのため、大抵は残り物の担当、遅番になることが多い。


 遅番は催しの最初の方は自由に行動できる。そのため、知り合いに挨拶に行ったり、社交をしたり、飲んだり食べたりと普通に催しを楽しめる。でも、催しの最後まで残っていなくてはいけない。


 担当が終わった後は次の者に引き継ぐか、許可が出ないと帰れない。


 遅番は最後なので引き継ぐ者がいない。帰っていいという許可が貰いにくく、結局はそのまま待機となり、王宮に宿泊するというのが定番だった。


「王太子は今夜も出かける。俺は同行するため、当番は関係ない。むしろ、遅番の方がそれまで休めるため、俺が遅番になった」


 僕は驚いた。ちょっとだけ期待した。


「そして、最後の枠をかけた飲み比べ勝負になった。この勝負は最初にギブアップした者が遅番になり、最後まで残った者が早番になるというものだった。俺は酒に強い。ひたすら飲み続けた。そして、全員を蹴散らした。ロディ、お前も早番だ」

「ほ、本当に?」


 僕は思わず声が上擦った。


「本当だ。水をよこせ」


 僕はすぐに水のボトルを二本持ってディックの元に行き、恭しく差し出した。


「お納めください」

「言っておくが、水だけで済むとは思うなよ。これは王宮の備品だ。頼めばいくらでも手に入る。頼むのが面倒だというだけだ」


 ディックは水を受け取ると、代わりに書類の束をドサッと僕に渡した。


「持って行け」


 書類の数は……七部。酷い。でも、僕は書類を持って席に戻った。取引成立だ。


 ようやく侍従がお茶とコーヒーと軽食を持ってきた。僕は一セットをディックに譲った。



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