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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
愛の日編

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レティシア視点 ⑥ 夜(二)

 愛の日の舞踏会は赤の舞踏会といってもいい。

 

 但し、男性に関しては黒が多い。


 青騎士の礼装は青、白、黒の三色になる。赤はない。ロディは黒い礼装だった。

 これだけではドレスコードを満たせないため、赤い飾り帯を身に着けている。


 会場につくと、取りあえずは親しくしている者達へ挨拶に行く。私とロディが必ず挨拶に行くのは、養子先であるクライスター公爵家のところだ。


 クライスター公爵は義父ということになる。その息子で跡継ぎのトビーは義兄。二人とも私やロディにとても好意的で親切だ。

 

 愛の日の舞踏会は、よほどのことがなければ、夫婦や婚約者と必ず一緒に参加する。クライスター公爵夫人やトビーの妻であるアイリスとも会えた。


「レティ、今回は別の所で注文したんですってね」


 覚悟していたものの、早速その話題かと私は思った。

 

 私はずっとクライスター公爵家御用達の仕立て屋でドレスを注文していた。公爵家御用達とあって、非常に上質で素敵なドレスを作ってくれる。但し、それに見合うだけのお金がかかる。かなり高い。


 そこで、今回は別の仕立て屋にしたのもあるのだ。


「レティは美人だから、どんなドレスでも似合うし、着こなせると思うのよ。今夜のドレスもレティらしいわ。でも、わかるでしょう?」

「はい。申し訳ありません。ですが、友人に勧められてしまって。付き合いもありますし」

「そうね。そうだと思ったのよ。私も複数の仕立て屋を贔屓にしているわ。でも、レティはあまりドレスを沢山作らないでしょう? だから、気を付けて欲しいの。仕立て屋を変えたということも、結構噂や話題になるのよ」

「はい。気を付けます」

「お義母様。レティはわかっていますわ。色々なドレスに興味を持つというのは、とてもいいことです。私も最初は母の御用達のお店でしたけど、今では全然別の所で仕立てていますわ。様々なお店に作らせることで、様々な縁をつなげるということもできます。それよりも、宝飾品の方をご覧になってくださいませ。とても素敵ですわ。ハートだなんて、絶対にロディの趣味よ」


 アイリスが私を庇い、さりげなく宝飾品のことに話題を変えてくれた。


「そうね。レティが選ぶとは思えないわ。新しく購入したの?」

「僕が投資している関係から手に入れたものです」

「特注品? 既製品?」

「既製品をリフォームした特注品です」

「そうなのね。随分、装飾が少ないのね」

「シンプルな宝飾品ね。レティが好みそうだわ。でも、ハートというのはちょっと意外ね」

「そこはこだわりました。僕の気持ちをわかりやすく示したいと思って」


 恥ずかしそうにロディはそう言うと、ちらりと私を見た。反応を伺っているのだ。


 突然の告白に、私の頭は考え中だ。


 借りるといっていたのに、実は購入していた。既製品ではなく、わざわざリフォームまでしていた。


 ロディがお金持ちなのは知っている。でも、私は贅沢をしたいと思わない。宝飾品を貰うよりは、きちんと将来に備えて貯金しておいて欲しいと思う性格だ。

 ロディが私のために色々と買ってくれる、愛情を示そうとするのは嬉しいが、私に高価な宝飾品は相応しくない気がして、素直には喜べなかった。


 クライスター公爵夫人とアイリスが微笑みながら言った。


「まあまあ。やっぱりロディね。本当にレティに夢中なんだから」

「素敵なリフォームね。レティがハート?と思ったけど、レトロなドレスに合っていると思うわ」


 アイリスの言葉に、私は一瞬で凍り付いた。


 レトロ。


 普通のドレスを注文したつもりだった。勿論、新品だ。古風だとは思わなかった。でも、アイリスの感覚で見ると、このドレスはレトロなのだ。悪く言えば、時代遅れ。


 私は背筋が寒くなった。不味いかもしれない。私はともかく、ロディやクライスター公爵家の評判に関わると大変だ。


「ここ近年は派手なドレスが主流だし、装飾も赤いバラばかり。個人的には見飽きた感じもしていたの。かといって、流行はボリューム感のあるふんわりしたドレスだし、舞踏会だからダンスのことも考えないといけないし、タイトなドレスを着用するのもどうかと思って」

「確かにそうね。毎年同じような気はしていたの。特にバラの装飾についてはね。最初は良かったけれど、どこを見ても赤いバラばかりだわ。もう特別でもなんでもないわね」

「レティのドレスはふんわりしているけれど、生地を重ねていないから、とってもすっきりしているわ。その分、顔や装飾品が目立つものね。レティは美人だし、宝飾品も素敵だわ。ロディの愛がこもった真っ赤なハートが、まさにポイントね」

「派手なドレスや宝飾品というだけでは、必ずしも愛がこもっていると示すことはできないわ。ハートのデザインは誰もが愛をあらわすとわかるでしょう。ロディの愛がとてもわかりやすい形で示されていて、微笑ましいわね」


 クライスター公爵夫人はそう言って微笑んだ。


「トビー、私にも愛のこもった贈り物を贈って頂戴」


 アイリスは夫のトビーにそう言った。


「ドレスを新調しただろう?」

「宝飾品がいいわ。ルビーのね」


 アイリスは豪華な宝飾品を身に着けているが、ガーネットだった。


「愛の日に贈るのは愛だ。宝飾品である必要はない。いずれは母上の宝石がお前に受け継がれる。宝飾品は嫌でも増えるだろう」

「今欲しくなったの」

「明日には気分が変わる。愛の日が終われば、次は春の会だ。その時に着用するドレスのことで頭がいっぱいになる。ルビーではなく、淡い色の宝石や、花の装飾品がいいと思うだろう」

「悔しいけど、否定はできないわね。おねだりに失敗してしまったわ」


 アイリスが苦笑した。


「でも、まだ愛の日よ。舞踏会は始まってさえいないわ。春の会の話は早すぎるのではなくて?」

「もう始まる」


 トビーの言う通りだった。


 侍従が高らかに王族の入場を告げる。王が愛の日を祝う舞踏会の開幕を宣言し、盛大な拍手によって舞踏会が始まった。


「レティ、僕は移動しないといけない。一緒に来て」

「わかったわ」

「今夜は早番なので、失礼します」


 ロディはクライスター公爵家の面々にそういうと、私をエスコートしつつ、王族達のいる方へ向かった。


 途中で声をかけられるものの、ロディは軽く挨拶をしつつ、王太子の元に行く、早番だと告げて移動する。


 早番と言えば、何のことかはすぐにわかる。誰も咎める者はいない。青騎士にとって、王太子の側に控えることがとても重要だとわかっているからだ。


 サイモンとベスとも合流した。待機場所には青騎士ではない者もいた。


「リックの体調が悪く、医務室にいます。早番は無理ですので、ルカに変更することになりました」


 王太子の執務補佐官であるシリル様がそう言った。


「ルカ様に変更ですか?」


 ルカ様というのは、ルカ=リューベル公爵だ。王太子の青騎士の中で、最も身分が高い。公爵家の跡取りであれば他にもいるが、すでに当主なのは彼だけだった。


「ロディが早番なのは丁度いいでしょう。ついでにルカの面倒も見て下さい」

「なぜ、ルカ様が早番に?」

「王太子殿下の判断です。伝えましたよ」


 シリル様はさっさと行ってしまった。


 ロディは顔をひきつらせた。


「サイモン」

「任されたのはお前だ。私ではない。自分の担当は自分でなんとかしろ」

「そんな……」

「私と一緒するのは嫌だということか?」


 そう尋ねたのは来たばかりのルカ=リューベル公爵だった。


「ルカ様!」


 やや慌てつつも、ロディはしっかりと頭を下げた。


「そのようなことは決してありません! まさか、僕のような者がご一緒できるとは思っていませんでした。とても光栄です。精一杯努めますので、何かあれば御指示を」

「では早速指示する。お前の妻に挨拶させろ。これほど近くにいるのは、お前の結婚披露宴ぶりだ」


 確かにそうかもしれない。青騎士関係の集まりで同じ場所にいても、身分が違うことから、基本的には近寄らないのだ。


「レティ、ルカ様にご挨拶を」

「リューベル公爵閣下に、改めてご挨拶申し上げます。ロデウス=クライスターの妻レティシアでございます。今夜、お会いできましたこと、大変光栄に存じます」


 私はそう言うと、深々と一礼した。


「相変わらずの美しさだ。ロデウスと別れる時は知らせろ。私が引き取ってもいい。正妻の座が空いている」

「ルカ様、僕の前で口説かないで下さい!」

「これはお前のために言っている。精神鍛錬だ。早番の間、レティシアが口説かれたとしても、我慢しなければならない。愛の日だけに、口説く者は多いだろう。何人いるか、楽しみだ」

「ベス、レティに男性を近づけないで!」


 ロディが懇願するようにそう言うと、ベスがにっこりほほ笑んだ。


「任せておいて! 女性達だけで周囲を固めて、沢山おしゃべりをしてくるわ。全員のドレスと装飾品の話を聞いているだけで、あっという間に時間が経つわよ。一時間じゃ足りない位ね」

「一時間だ」


 サイモンがきっぱりとそう言った。


「一時間経ったら、ここに来るんだ。特に何もなければ、すぐに帰れる」

「挨拶回りをしないとでしょう?」

「下手に残っていると、何か言いつけられる可能性がある。挨拶回りはしない」

「駄目よ。挨拶回りは必須だわ!」


 ベスは真剣な表情で言った。


「ドレスの評判がとてもいいの。もしかすると、ベストドレッサーに選ばれるかもしれないわ。なのに、早く帰れるわけがないでしょう? 挨拶回りしながら、私のドレスを褒め称えて、アピールして頂戴。夫なら当然の義務よ!」


 ベスの言葉に、サイモンはロディに視線を変えた。


「ロディ」

「さっき、自分の担当は自分でなんとかしろって言ったよね。ベスの担当はサイモン。自分でなんとかすべきだよね」


 ロディの切り替えしに、サイモンは肩を落とし、大きなため息をついた。


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