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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
愛の日編

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レティシア視点 ③ 午後

 王宮に到着すると、私達は一旦、待合室に通された。


 王の青騎士の妻達とは分かれ、別々になった。待合室にいるのは、全員が王太子の青騎士の妻ばかりだ。


 先に到着していた者達は、茶色かピンクのドレスだった。青いバラのコサージュも身に着けている。王太子の青騎士の妻として、まとまっている証のようにも見えた。やはりイネスの提案は素晴らしいアイディアだった。


「案内致します」


 青騎士の妻による差し入れは恒例行事であるため、事前にわかっている。

 さほど待たされることなく、私達は夫達がいる仕事部屋に案内された。


 夫達が働く場所は同じではない。それぞれ違う部屋だ。各自、夫達の元に案内されるため、私はベスと共に移動した。


 ロディの仕事場には他にも二人の青騎士がいる。


 王太子の悪友として名高いディックと、ロディの友人であり、良き理解者でもあるサイモンだ。


 サイモンの妻がベスだ。ディックはまだ結婚していないため、妻はいない。


「失礼致します。差し入れを届けに参りました」


 いかにも貴族の令嬢らしい微笑みを浮かべながらベスがそういうと、すぐにサイモンが駆け寄って来た。


「愛しいベス! 会いたかった!」


 サイモンはベスを軽く抱きしめると、すぐに両頬に口づけをした。


 二人は親同士が決めた相手だったが、非常に仲睦まじい夫婦だ。愛し合っている、恋愛結婚をしたのと同じだ。

 ただ、子供がいない。一部の者達は心配しているが、サイモンが忙しい理由はわかっている。王太子の執務補佐官で、青騎士だからだ。


 ベスは国内でも有数の資産を誇る侯爵家の令嬢で、サイモンの実家はベスの実家から援助を受けているらしい。妻やその実家をないがしろにするわけにはいかないため、浮気の心配はないどころか、妾も迎えないだろう。


 私は二人を羨ましいと思う。心から愛し合っているだけでなく、周囲もそれを認め、邪魔をしない。二人が幸せになるように、温かく見守り、支援している。


 私は伯爵家の養女になったものの、元は平民だ。しかも、本国民ではなく、併合地出身。


 ロディも併合地出身とはいえ、元は大貴族の伯爵家の次男。養子先のクライスター公爵家の血族でもあるため、私とは比べものにならないほど出自がいい。


 そういったことから、ロディにもっと身分の高い女性、出自がいい女性を正妻にしてはどうか、あるいは妾を持ったらどうかと薦める者達が多くいる。ロディは絶対に私とは離婚しない、妾も要らないと言っているが、そのせいでかなり苦労をかけている気がする。


「レティ」


 ロディが私の側に来て微笑んだ。


「来てくれて嬉しいよ。待ち遠しかった」

「待っていたのは、ロディだけではない」


 にやりとしながらそう言ったのはディックだった。


「休憩だ。茶会に行くぞ」

「わかりました」

「書類を片付けます」


 ロディとサイモンはすぐに机に戻ると、書類を引き出しにしまって鍵をかけた。


「お前達は働け」

「酷い」

「俺達にも差し入れが欲しい」

「青騎士は必ず差し入れがあっていいなあ」


 部屋にいる青騎士ではない者達が不満の声をあげた。


 私はベスを見た。


「部屋を移動するのよ。そこで差し入れを渡すの」


 どうやら、ここではなく、別の部屋でお茶会をするようだった。

 夫とその同僚に差し入れすると聞いていたが、部屋にいる同僚ということではなく、青騎士の同僚に差し入れする、ということなのだ。


 ディックを先頭にして、私達は執務室から別の部屋に移動した。


 大広間の中には大きなテーブルがあり、軽食やお菓子が用意されていた。先に来ていた青騎士やその妻達もいた。


「レティ、差し入れをロディに渡して」

「わかったわ」

 

 ロディとサイモンはそれぞれ箱を受け取り、蓋を開けるとすぐに移動した。


 どこに行くのかと思えば、部屋の中には夫達の上司がいた。王太子だ。


「王太子殿下、妻が差し入れを持ってきました。よろしければ、いかがでしょうか?」


 サイモンが王太子に声をかけ、恭しくベスの手作りチョコレートの入った箱を差し出す。


「チョコレートは食べ飽きた。お前が食べればいい」

「はい。ありがとうございます」


 サイモンは場所をロディに譲った。


「王太子殿下、妻が」


 王太子はロディの言葉を待つことなく、箱の中を見て質問した。


「なぜ星の形のがある? 普通はハートだけだろう?」


 王太子の質問に、ロディは答えた。


「ハートは愛情をあらわし、星は希望をあらわします。両方食べれば愛も希望も得られ、縁起がいいと思っています」

「両方食べないと駄目だということか?」

「え? あ、いえ、そういうことではありません。任意です」


 王太子は私を見た。


「レティ、どちらがいい?」


 困った質問だ。どちらがいいというのはない。同じ味だ。


「……愛の日なので、ハートです」


 私は無難に答えた。愛の日といえば、ハートモチーフだ。星ではない。


「ハートの菓子は食べ飽きた。星にする」


 王太子はそう言って、星の形のクッキーを取って食べた。


 ちょっと意地悪だ。わざわざ聞いたというのに、答えとは違う方を取ったからだ。でも、無表情を貫く。王太子に食べていただけるのは光栄だと思わなくてはいけない。建て前としては。


「見た目はシンプルだが、手作りにしては美味いな。店が出せそうだ」


 実際に店を出している父直伝のクッキーだ。それなりに味がいいとは思っている。


 それでも、美味しいものを沢山食べ慣れている王太子が評価してくれたのは、例えお世辞だとしても嬉しかった。それは、父の味が認められたということだからだ。


「ロディ、このクッキーを売ったらどうだ? 財産が増える。レティも小遣いが増えるだろう」

「レティを働かせるのはちょっと……」

「レシピを教えて、他の者達に店を任せればいい。別にレティが働く必要はない。勝手にクッキーを作って売ってくれる。儲かるぞ」

「沢山売れないと儲からないと思います」

「私が美味いといったものが、売れないわけがない」

「そうですが、有名な菓子店は多くあるので、長期的に競合するのは難しい気もします」


 王太子は少し不機嫌になり、ハートのクッキーを取って言った。


「下がれ」

「はい」


 ロディはサイモンと共に差し入れをテーブルの上に置いた。すると、次々と人が集まり、私の作ったチョコレートクッキーを取って食べた。


 王太子の青騎士全員へ配るとは思っていなかったため、私はクッキーを沢山焼いてこなかった。しかも、一人一枚ではなく、二枚取っている。ハートと星と。あれではすぐになくなってしまう気がした。


 予測通り、すぐにクッキーがなくなった。


 二枚クッキーを取った者に、まだ食べていない者が譲れと言っている。好評なのは嬉しいが、もっと沢山焼いて来ればよかったと反省した。


「レティのクッキーはあっという間に売り切れね」


 ベスが笑いながらそう言った。


「宿舎にいる者は食べたことがあるが、そうではない者にとっては貴重な機会だ」


 サイモンが説明をした。


「初めて差し入れをする者の品は、どの程度の腕前なのかを知るために、味見をしたがる者達が多い。売り切れやすくなる。そこで美味しいとなると、毎年売り切れになるかもしれない。だが、大量に用意するのはよくない。別の者の差し入れに手をつけなくなる。ほどほどがいい」

「そういうこと。だから、私も多く用意する必要はないといったでしょう?」


 ベスにどの程度の量を用意すればいいのかは相談していた。二十枚程度あればいいと聞いていたので、大体それぐらいを用意して差し入れした。


 一口クッキーよりもやや大きいサイズのため、一枚でも食べ応えがあるほうだ。十分だと思っていた。


「ところで、私は非常に驚いていることがある」


 サイモンはベスを見て言った。


「ベスが茶色のドレスを着ているのを初めて見た」

「でしょうね。でも、これは茶色ではないの」

「……どうみても茶色だが」

「違うわ、チョコレート色なの!」


 ベスは断言するようにそう言った。


「今日は愛の日でしょう? 多くの女性はチョコレートを贈るわ!」

「なるほど。それにかけているのか」

「私はチョコレートなの。食べることができるのは、サイモンだけよ」


 ベスが小声でそう言うと、サイモンは驚いた後に甘い笑みを浮かべた。


「すぐに食べたい気分になった」

「さすがに無理ね。舞踏会もあるし。でも、その後ならいいわよ」

「できるだけ早く帰ろうか」

「大丈夫なの?」

「大丈夫だ」

「ロディは?」


 私も尋ねた。


「今夜は早く帰れるよ」


 ロディは嬉しそうにそう言った。


「良かったわね。レティ」


 ベティが私にウィンクする。


「なるほど」


 サイモンが笑みを浮かべた。


 今夜の計画はベスにしか話していない。でも、サイモンは感づいたのかもしれない。


「え? なるほどって?」


 ロディがすかさず質問してくる。


「いや。ロディが早く帰れるのは珍しい。茶会の後の仕事をしっかり片付けないと、レティに恨まれるぞ。愛の日の贈り物をまだ受け取っていないのだろう?」

「あ、うん。舞踏会の後に貰って食べるよ」


 ロディはそう言った。食べるというのは、勿論クッキーのことだ。でも。


「ロディったら、大胆ね!」


 ベスが笑いながらそう言った。勿論、わざとだ。私がクッキーを贈ることも知っている。


「あ、いや、そのクッキーを貰うから」

「私もチョコレートを貰うのが楽しみだ。メインは別だが」

「お前達、聞こえているぞ!」


 王太子がやや不機嫌そうにそう言った。


「今から早く帰る算段をしているとはな。残業にしてやろうか?」

「申し訳ありません!」

「それだけは勘弁して下さい! 心から謝罪申し上げます!」


 サイモンとロディは頭を深々と下げたが、それだけでは済まされず、すぐに仕事場に戻るように命じられてしまった。


 私はロディが王太子の不興を買ってしまったと感じ、表情をこわばらせた。


 王太子は私とベスのことを呼んだ。


「ベス、レティ、妻も連帯責任だ。三日以内に、私に差し入れをしろ」

「わかりました」

「はい」


 ベスと私は頷くしかない。


 更に王太子は言った。


「ベス、お前は何か買って来い。流行りの菓子でいい。執務補佐官達に配る分もいる。レティは今日と同じクッキーを持って来い。量が少なかったせいで、食べることができない者達がいた。小さくてもいい。数だけは用意しろ。今日、食べることができなかった者達にも配る」

「仰せのままに」

「かしこまりました」


 王太子は単に自分への差し入れを求めたわけではなかった。執務補佐官達や、私のクッキーを食べることができなかった者達にも配ると言ったからだ。


 ロディは王太子のことを大変な上司だといいつつも、いいところもあると言う。


 たぶん、こういう部分なのだ。部下想いの上司でもある。


 私は王太子のことを少しだけ見直した。


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