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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
愛の日編

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レティシア視点 ② 午前中

 愛の日になった。


 ロディは早起きして仕事に出かけた。


 かなり忙しいため、本当は愛の日の催しどころではないらしい。でも、王太子の側近として舞踏会に参加しないわけにはいかないということで、ここのところ、連日早起きして出勤していた。


 私は昨夜のうちにクッキーを用意していたため、当日に差し入れを用意する必要はない。


 他の者達の準備が出来次第、全員で手分けして馬車に乗り、王宮に行って差し入れを渡す。

 青騎士団の宿舎に住んでいる者達は、十四時に正面玄関の所に集合することになっていた。


 私の友人であるベスも、すでに手作りのチョコレートを昨日のうちに作ってしまったため、特にすることはないという。

 そこで、私が王宮に来ていく外出着をどれにするか、相談することにした。

 お洒落が大好きなベスは喜んで私の部屋に来た。


「これって、今夜のドレスに合わせる宝飾品?」

「そうよ」


 ベスは目ざとく、ロディの借りて来た宝飾品の箱を見つけて聞いてきた。


「ウィンスターズのだわ。開けていい?」

「どうぞ」


 ベスがティアラの入った箱を開ける。


「あら! ずいぶんと可愛らしいわね!」

「ベス、王宮に来ていくドレスを見て欲しいのだけど」

「そうだったわね。赤は駄目よ」


 ベスはすかさず色を指定して来た。


「愛の日なのに?」

「夜の舞踏会で赤いドレスを着用するでしょう? 昼も赤というのは微妙だわ。青騎士の妻として行くわけだから、青騎士の妻らしい服装でいいのよ。私は青いドレスで行くわ」

「だったら、私も青いドレスでいいかしら?」


 私は青い外出着を取り出そうとしたが、止められた。


「待って。レティは王宮に行く時、青が多いでしょう?」

「そうね」


 私が王宮に行くのは、基本的に青騎士の妻として行かなければならないような時だけだ。個人的な要件で行くことは全くない。そのため、青いドレスや外出着を多用していた。


「レティは青が似合うけど、今日は別の色にしましょう」

「茶色でもいいかしら?」


 ベスは思いっきり渋そうな顔をした。


「なぜ、茶色になるの?」

「チョコレートの色でしょう?」


 私がそういうと、ベスは驚いたような顔をして、納得したというように頷いた。


「一応は考えてはいるわけね。偉いわ。でも、ちょっと地味ね」

「コサージュでもつければいいわよ。差し入れを渡すだけよね? みんなで行くし、すぐに帰るのでしょう?」

「一応はそうだけど、よほど忙しくなければ、仕事は中断して、一緒にお茶をどうかとなるはずよ。つまり、お茶会に行くような服装が望ましいの」

「そうなのね」


 てっきり差し入れを渡してすぐに帰るだけだと思っていた。そうではなく、一緒にお茶を飲んだりするのだ。


 ベスは私の外出着をじろじろと見つめた。いつも一緒に外出するだけに、ベスが知っている服ばかりだ。


「新調しているのは一着もないわけね」

「ないわ。舞踏会のドレスは新調したけれど」


 今回のドレスはベスが贔屓にしている仕立屋に発注したものだ。ベスのドレス選びに付き合った際、かなり魅力的なサービスを提示されたので、そこで作ることにした。


「レティは本当に慎ましいわね。私には絶対に真似できないわ!」


 ベスの実家は裕福だ。夫からだけでなく、実家からもお小遣いを貰っている。小遣いはほとんどお洒落につぎ込み、いつもドレスを新調していた。


「決めたわ」


 ベスが言った。


「この茶色の外出着にしなさい。私も茶色の外出着にするから」


 私は驚くしかない。


「ベスが茶色にするの?」

「そう。だって、チョコレートの色だもの。愛の日らしいわ。ただ、買い物にいくから付き合ってね」

「買い物?」

「私は茶色の外出着を持ってないから買いに行かないといけないわ。外出着に着替えて来るわね。玄関に集合よ!」


 ベスはそう言って、部屋を出て行ってしまった。


 あのベスが地味な茶色のドレスを欲しがるとは夢にも思わなかった。たぶん、チョコレートの色、というのが気に入ったのだ。今日は愛の日であり、多くの女性はチョコレートを男性に贈る。イメージ的にいいと感じたのだろう。


 これから茶色の外出着を買いに行くというのもどうかと思うが、取りあえず、着ていくドレスは決まった。


 私は茶色の外出着に着替え、身支度を済ませることにした。



 

 私とベスが玄関口で馬車の用意を待っていると、ローナとマージが通りがかった。


「あら、出かけるの?」

「そうよ。外出着を買いに行くの」


 ベスが答えると、二人の視線が私に向けられた。


「確かにレティには新しい外出着が必要ね」

「茶色じゃちょっとね」


 どうやら、二人は私の新しい外出着を買いに行くと判断したらしい。すかさずベスが説明した。


「違うの。私の外出着よ。レティに合わせて茶色にするの」


 二人は相当驚いた。当たり前だ。ベスが茶色のドレスを欲しがるなど、普通に考えればありえない。


「ベスが茶色のドレスを着るの?」

「いくらなんでも、レティに合わせすぎじゃない? レティが変更すべきだわ!」


 ベスは微笑んだ。不敵に。


「二人とも、全然わかってないわね。今日は何の日?」

「愛の日」

「愛の日よ」

「だからこそ、茶色にするの。チョコレートの色でしょう? レティがそう言ったのよ。私、凄い発想だと思ったわ。まさに今日だけの特別な色じゃない? だから、私も茶色にするの。チョコレート色にね! でも、茶色の外出着なんて一着も持ってないから、買いに行くことにしたの」

「チョコレート色……」

「確かにそういわれればそうかも……」


 二人は私に近づくと言った。


「レティ、茶色のドレスはない? 貸して!」

「駄目よ! 私が今それを言おうとしたのよ!」

「言ったもの勝ちでしょ! それに、二枚あれば解決よ!」

「そうね! レティ、茶色のドレスを貸して頂戴!」

「残念だけど」


 答えたのはベスだった。


「レティのドレスは全て私が検分したわ。もう一着あるけど、半袖なのよ。しかも、夜会用で袖の部分がとっても装飾的なドレスなの。お茶会には合わないわ。貸し出せるものはないわよ」

「そんな!」

「茶色のドレスなんか持っていないわ! どうすればいいの!」

「買いに行けばいいでしょう?」


 ベスの言葉に、二人は即座に同意した。


「そうね! ちょっと待って! 一緒に行くから!」

「嫌よ。もうすぐ馬車が用意できるだろうし。着替えるのを待っていたら、ドレスを選ぶ時間がなくなってしまうわ」


 無情にもベスが断ると、二人は悲鳴を上げた。


「そんな! ベス、お願い!」

「上着と小切手を持って来るだけにするから、絶対待っていて!」

「馬車をもう一台用意させるようにいっておくわ。その間に着替えて来なさいよ。一緒には行けないけど、二人で外出すればいいでしょう?」

「そうするわ。ベス、ありがとう!」

「また後でね!」


 二人はドレスの裾を持ち、走って行ってしまった。


「あの二人はすぐに真似をするから」


 ベスはやれやれといった表情をしつつそう言った。


「でも、チョコレート色が多いのは悪くないわ。私達だけ浮くこともないだろうし」

「でも、ベスは目立ちたかったから、茶色にしたのでしょう?」


 私の指摘にベスは微笑んだ。


「正解よ」


 馬車の用意が整ったため、私とベスは早速乗り込み、高級既製服を売っている店に向かった。


 何件もの店を見て回ったが、愛の日用の赤いドレスばかりで、茶色の外出着はなかった。


 ベスはがっかりした。


「茶色のドレスって、こんなにもないものなのね」

「そうね」


 秋以降になると、秋らしい装いとして、茶色の衣装や小物が出回る。私もその時に購入したのだが、さすがに時期が変ってしまうと、なかなかない色なのだと実感した。一年を通して、人気がある色ではないからかもしれない。


「ベス、言いにくいのだけど、諦めたら?」

「嫌よ。ローナとマージに言ってしまったわ。ドレスを買わないと、私の名誉が傷つくわ!」

「別に傷つかないと思うけど」

「レティはわかっていないだけよ! 絶対傷つくの!」


 私はため息をついた。


「二つ思いついたのだけど」

「いい案?」

「一つは平民の店に行くのはどう? 高級なお店には赤い服ばかりだから、これ以上探してもなさそうな気がするの。平民の店はまだ行ってないから、もしかすると、茶色のものがあるかもしれないわ。ドレス自体はあまり高級ではないけど、コサージュとか、小物でアレンジする手もあると思うの。それか、実家の方にいって、母君のドレスを借りるのもいいかもしれないわ。一着ぐらい、茶色のドレスを持っている気がするの。ご年配の方の方が、持っていそうな色でしょう?」


 私の案は却下された。


「駄目よ。今日は青騎士の妻達が揃うのよ? 私が茶色のドレスを着ていれば、絶対に目立つわ。どこのドレスか聞かれるに決まっているじゃないの。平民の店で買ったなんて絶対に言えないわ!」

「そうね……」

「それに、私の母は派手好きなの。地味な色のドレスは着ないわ。茶色のドレスなんて、一着も持っていないに決まっているわよ!」

「困ったわね」

「でも、レティのおかげでひらめいたわ! ケイティの所に行きましょう! ケイティは地味なドレスが大好きだから、茶色のドレスを腐るほど持っているはずよ! 勿論、最高級のね!」


 私達はベスの友人であるケイティの元に行くことにした。


 ケイティはベスが茶色のドレスを借りたいという申し出に驚き、めまいを感じてしまうほどだった。


 ベスの予想した通り、ケイティは最高級の茶色の衣装を沢山持っていた。太った時と痩せた時のドレスもあるため、複数のサイズが揃っていた。


 ケイティが衣装を処分したがっていた。そのため、話し合った結果、ベスは最高級の茶色の外出着を二十着貰うことになった。




 帰りの馬車の中で、私はベスに言った。


「ベス、二十着あっても、着ることができるのは一着だけよ? それに、どうして色々なサイズにしたの?」

「私の予想では、ローナとマージもドレスが買えないまま戻って来るわ。だから、貸してあげるの」

「二人のことを考えていたのね」

「恩をきせるチャンスだもの。見逃さないわよ」


 ベスはのほほんとしている令嬢ではない。意外と抜け目がない性格だ。行動派でもある。


「他の者達にも声をかけて、茶色のドレスを着用させるわよ! 王太子の青騎士の妻は、全員茶色にするの!」


 ベスは計画を打ち明けた。様々なサイズにしたのは、他の者達にも貸し出す気だったからだ。


 なるほどと思う一方、私は気になったことを口にした。


「宿舎外から来る者達は無理よ。何も知らないもの」

「緊急伝令を出せばいいわ。今年は茶色よ! チョコレート色なの!」


 私は更に指摘した。


「ホワイトチョコレートやイチゴチョコレートもあるわよ。だから、白やピンクでもいいと思うけど」

「どうしてそれを先に言わないのよ!」


 ベスは叫んだ。


「まあいいわ。とにかくチョコレート色よ! 茶色か白かピンクで来るように伝えるわ!」


 宿舎に戻ると、ベスはすぐにイネスの元にいった。


 イネスは宿舎に住む王太子が任命した青騎士の妻達のまとめ役をしている。


 ベスはイネスに今年の愛の日の差し入れに行く際の服装はチョコレート色にしてはどうかと提案した。茶色、白、ピンクのどれかだ。茶色の外出着がなければ、ベスが友人から貰った最高級の外出着を貸し出すとも。


 イネスは面白い趣向だとして賛成してくれた。そして、青騎士の妻としての統一感を出すために、以前、青騎士の妻全員で購入した青いバラのコサージュをつけることを提案した。


 イネスは早速この趣向を宿舎以外に住む王太子の青騎士の妻にも伝えるため、緊急伝令を出した。


 ベスは茶色の外出着が買えないまま戻って来たローナとマージにも、チョコレート色の趣向を伝えた。 


 二人は喜んだが、冬用の白い外出着はなく、ピンクしかないらしい。しかも、濃いピンクだった。チョコレートの薄いピンクとは違う。そこで、貸出可能な茶色のドレスを見て、サイズや好みがあえば、それにすることにし、サイズがない、好みではないとなれば、ピンクの外出着にすることにした。




 十四時になった。


 青騎士団の宿舎に住んでいる青騎士の妻達が玄関口に集合した。


 青騎士に任命できるのは、王か王太子だけとなるため、王の青騎士と王太子の青騎士に分かれる。同じように王の青騎士の妻と王太子の青騎士の妻という派閥に分かれていた。


 王の青騎士の妻の装いは、圧倒的に赤か青だ。愛の日にちなんだ赤か、青騎士にちなんだ青にしていた。


 それに比べ、王太子の青騎士の妻の装いは、圧倒的に茶色だ。手持ちの茶色のドレスか、ベスが用意した外出着を着用したためだ。数人だけはピンクになった。


「なぜ茶色なの?」


 宿舎にいる王の青騎士の妻のまとめ役であるバーバラが尋ねると、イネスが答えた。


「今年の訪問着のテーマが、チョコレート色になったからですわ」

「茶色では地味ではなくて? コサージュをつけていても、かなり微妙な気がするけれど」

「愛の日に多くの女性は夫や恋人に贈り物をします。チョコレートを贈る者が多くいるのはご存じのはずです。チョコレート色を身に着け、私達自身も夫への差し入れだということを、暗に示していますの。青いバラのコサージュは、贈り物をする時のリボン代わりですわ」


 イネスが不敵な笑みを浮かべつつそう言うと、バーバラは眉を吊り上げた。


「……若いわねえ。でも、そういうのは今の内よ」

「だからこそ、今のうちに存分に謳歌しようと思いますの。若さを失ってからでは無理なので」


 悠然と微笑みながら、火花を散らすような会話の二人に、私は緊張するしかない。


 但し、二人の仲が悪いわけではない。いい意味で、会話術を競っているだけだ。


 貴族の社交は生易しくはない。時にはこういった対決じみた場面もある。それをうまく切り抜けていく手腕が必要だ。


 私にはまだまだ無理だと思った。イネスのようにはなれない。さすがまとめ役だけあって、迫力のオーラを醸し出すバーバラに全くひけをとらないどころか、むしろ、うまく切り返して押しているようにも思えた。


 まとめ役対決はそこまでになった。馬車の用意ができたからだ。


 私達は手作りの差し入れを持って、王宮に向かった。


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