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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
愛の日編

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14/31

レティシア視点 ① 前日

バレンタインにちなんで、愛の日編を更新します。

宜しくお願い致します!


 毎年二月には愛の日がある。


 国によって日付や内容が変わるものの、愛する者に気持ちを伝える、愛をあらわす贈り物をするというのは共通している。


 私は料理が得意というわけではないものの、お菓子作りはかなり得意だ。なぜなら、父が菓子職人だったからだ。母は王宮の召使だった。


 母は貧乏な家に生まれ育った。美人だったため、貴族や王宮に出入りする大商人に見初められるのを夢見て猛勉強したが、王宮の侍女にはなれなかった。そのため、王宮の召使になった。


 母曰く、王宮ではかなりモテたらしい。貴族にも声をかけられたが、本気で将来を考えてくれているような申し込みはなかったため、玉の輿を諦めた。


 次に狙ったのが顔のいい男だった。お金がなくても、素敵な容姿をしている男性といられれば、幸せだと感じながら過ごせると思ったらしい。恋人になったものの、浮気をされた。母は恋人と別れ、やはり顔だけでは駄目だと反省した。


 次はどんな男にしようかと真剣に悩んでいると、声をかけられた。


「顔のいい男はもう駄目か?」


 それが父だった。父は見た目がいい。だが、金持ちではない。平民だ。王宮に勤める菓子職人だった。


「俺は顔だけじゃない。お前に甘い時間を与えてやることができる」


 そう言って父は母に美味しいお菓子を作って贈り続けた。そして、愛の日に豪華なチョコレートケーキを贈ってプロポーズし、結婚したと言う。

 でも、母は顔のいい男と結婚しただけだ、お菓子に釣られたわけではないと主張していた。お菓子が大好きな母だけに、説得力が全くない。

 正直、どちらでもいい。のろけ話でしかないのはわかっている。



 母は私に自分の叶えられなかった夢を叶えて欲しいと言われていた。王宮の侍女になることだ。


 私は母から王宮の侍女になるためのスパルタ教育を受けた。一方で、王宮務めを辞めて菓子店を開いた父を手伝い、王宮の侍女として採用されなければ、菓子店を継ごうと思っていた。


 結果的に、私は王宮の侍女になることができた。


 私の初めての恋人は王子だった。身分違いであるため、正式な交際ではない。結婚もできない。今だけの一時的な関係でしかない。それでも、告白され、舞い上がってしまった。


 頭もよく、剣術や武術にも優れ、馬術も得意なレギは、まさに王子にふさわしい人物だった。あまりにも優秀なせいで、義母である王妃や腹違いの兄王子達に疎まれていた。


 多くの者達は王妃や兄王子達の顔色を窺っていたが、心の中ではレギのことを支持していた。

 もし、人気投票で次の王が決まるのであれば、間違いなくレギだったと思う。


 私は恋人らしく、レギのためにお菓子を作った。愛の日に贈るために。


 定番ではあるものの、ハートの形のチョコレートクッキーにした。クッキーは一度に何枚も焼ける。その中からよく出来ているのを選別すればいいため、あまり失敗を気にしなくていい。


 愛の日が近づくと、王宮の厨房をこっそり使わせて欲しいという者が続出する。前日はそれこそ混み合い、コネがないと無理だ。わざと数日前に日持ちするお菓子を作った方がいい。


 私はハートのチョコレートクッキーをレギに、そして、レギの親友であるロディに星のチョコレートクッキーを贈ることにした。


 私がレギとロディにクッキーを渡すと、ロディは凄く嬉しそうな顔をしたが、レギはクッキーをじっくり見つめた後、ロディのクッキーを見た。

 

「星か。羨ましい」


 レギの言葉に、私もロディも驚いた。愛の日といえばハートだ。愛情や心を表す形だからだ。


「レギは星が好きなの?」


 私が尋ねると、レギは頷いた。


「そうだ。星は希望をあらわす。俺はどんな状況でも、希望だけは失いたくないと思っている」


 私は深く反省した。調査不足だ。愛の日ならハートという常識だけで判断してしまった。愛する相手が好きな形かどうかを気にしなかった。


 愛の日にふさわしいのは、愛情のこもった贈り物だ。私の愛はたっぷり込めたつもりだった。

 レギがクッキーを好きなことを知り、クッキーでいいと思った。形まで気がまわらなかった。


「レギ、今日は愛の日だよ。愛の日はハートだよ!」


 ロディは怒ったような表情でそう言った。


「凄く羨ましいよ。ハートのクッキーを貰えるなんて!」

「沢山貰っているだろう?」


 レギの言葉にロディはさっと表情を変えた。


「ぎ、義理だよ。日頃の感謝の気持ちを込めて、みんなあちこち配るから」

「ハートの形か? 義理なら違う形ではないのか?」

「義理でもハートの形ってこともある」

「本命へ渡す失敗作かもしれないのは認めるが、お前に失敗作を渡す者はいないだろう。既製品ならともかく、手作りであれば、相応に意味があるはずだ」


 ロディは口をつぐんだ。


 私はレギに尋ねた。


「レギも沢山貰っているのでしょう? ロディを苛めたら可哀想だわ」

「貰っていない。毒入りかどうか調べる手間がかかるため、断る」

「あ……」


 私は大事なことを忘れていた。レギは王子だ。普通に渡された食べ物を食べることはできない。


「ごめんなさい。私、毒見のことを考え付かなかったわ」

「レティがくれたものを疑うわけがないよ!」


 ロディが慌ててそう言った。


「レギ! それは調べる必要がないよね? 食べるよね?」

「食べる」


 レギの言葉に私はほっとした。ただ、レギはやっぱり星の方が良かったらしい。ロディと互いのクッキーを半分ずつにし、交換して食べていた。


 愛と希望を食べたと言って、二人はとても喜んでいた。


 二人の友情は本当に強かった。嫉妬してしまう位に。



 

 明日は愛の日。今年も私はクッキーを焼く。ハートと星だ。愛と希望の形。


 一番見た目がいいのはロディに贈るため、特別な袋に入れてリボンをつける。


 それ以外のクッキーは見た目で選別し、良いとなったものだけを箱に詰める。これはロディの職場への差し入れだ。


 愛の日になると、青騎士の妻や婚約者は仕事が忙しくて帰って来ることができない夫やその同僚のために差し入れをするのが伝統らしい。

 

 貴族出自が多く、料理は一切できない者も多い。昔は購入したものや、お抱えシェフに作らせたものを差し入れしていた。ある時、それでは愛がこもっているとは言えないという意見が出たため、下手でも不味くても、とにかく手作りということになったらしい。


 差し入れは午後のお茶の時間になるため、軽食でもいいことになっている。


 料理ができない者、苦手な者達は、簡単にできるサンドイッチやサラダなどを差し入れする。


 私がお菓子を作ることができるのは知られている。ケーキを作って欲しいと言われたが、大変だと感じ、カップケーキかパウンドケーキにしたいと希望した。差し入れができるだけ被りにくいよう調整された結果、私はクッキーを作ることになった。時々作るクッキーが美味しいと評価が高かったせいだ。


 味見をしたが、問題はなさそうだった。普通に美味しい。


 シンプルな見た目であるため、有名店のお菓子と比べると、寂しい気がする。でも、特別なアレンジやデコレーションはしない。父に教えられた通り、基本に忠実に作る。それが一番失敗せず、うまくできる。


 ロディが厨房にやって来た。


 今日は早めに帰って来ていたため、夕食も一緒に取ることができた。

 夕食の後、他の青騎士と打ち合わせに行ってしまったが、終わったようだった。


「レティ、明日のことだけど」


 ロディの視線がクッキーに注がれた。


「これ、差し入れの?」

「ロディの分もあるわよ。ちゃんと別にしてあるわ」


 ロディは一つだけある袋を見た。


「早く欲しいけど、愛の日になるまでには、まだ二時間ほどあるね」

「そうね。愛の日に贈らないとだから、まだあげないわよ」

「味見したいな」


 私は眉をひそめた。


「いつもの味よ」

「それでも食べたい」

「お腹空いたの?」


 しっかりと夕食は食べていたように見えたものの、男性は小腹が空くということもある。


「正直に言えば、レティの作ったクッキーを全部食べてしまいたいよ。誰にもあげたくない」


 ロディの言葉に、私は笑った。


「ここだけの秘密だけど、私が心からの愛を込めたのは、ロディに贈るクッキーだけよ。だから、それ以外のクッキーを他の人が食べても、気にすることなんかないわ」

「凄く嬉しい」

「夫だもの。特別なのは当然でしょう?」

「僕にとって、レティと過ごせる人生はいつだって特別だよ。幸せだ」


 ロディは照れながら微笑んだ。何気に可愛い。男性への褒め言葉ではないため、あえて言わない。でも、私はロディを可愛いと思う。勿論、それだけではない。ロディの素晴らしさは言葉では言い表せない。私にはもったいないほどの相手だと思う。


「ロディ、明日のことで、何か話があったのでしょう?」


 私の言葉に、ロディは思い出したように言った。


「明日の舞踏会用の宝飾品を持ってきたから、ドレスに合わせて見て欲しい」


 明日の夜、王宮では舞踏会が行われる。愛の日を祝うことから、愛を表す赤色のものを身に着けるのがドレスコードになる。女性は赤いドレスや赤い宝石のあしらわれたアクセサリーを身に着ける。


 私は赤いドレスを新調した。ドレスに合わせる宝飾品は、ロディが借りて来るということになっていた。


 私は後片付けをするのを後回しにして、一旦、部屋に戻った。


 新調した赤いドレスを出すと、ロディは眉をひそめた。


「……結構露出しているね」

「赤はボリューム感があるので、できるだけすっきりさせるために、デコルテをできるだけ出す方がいいらしいわ。長袖にすると赤い部分が多くなるし、金額も跳ね上がるらしいの」


 ロディはため息をついた。


「ドレスの金額なんて、たかがしれているよ。気にしないでいいのに」

「毎年、愛の日の舞踏会はあるのよ? それに合わせて新調ばかりしていたら、大変だわ。これは定番のドレスだと思うから、着回しできると思うの。愛の日以外でも大丈夫だと思うわ」

「貴族は愛の日に限らず、社交シーズンにはドレスを新調するものだよ。流行があるからね。去年のドレスを使いまわすのは、貧乏臭く思われるから駄目だよ」

「気に入っているドレスならいいのでしょう? 後は、定番のドレスとか」

「……とにかく、明日のことに集中しよう」


 ロディは宝飾品の箱を開けた。


 ティアラ、ネックレス、イヤリング。小粒のダイヤモンドと赤い宝石があしらわれている。


 ティアラはハートモチーフだ。中央に一つだけある赤い宝石はハートの形をしている。


「……高価な品なの?」

「そうでもない。このティアラは全面にダイヤモンドがついていないからね。宝石は数粒のダイヤモンドと中央のルビーだけで、ほとんどミル打ちで装飾をしている。愛の日らしいデザインだし、レティが好きなスッキリとした宝飾品だよ」


 確かに私はいかにも豪華といった宝飾品よりも、スッキリとしたシンプルなものが好きだ。


 でも、ハートモチーフ。愛の日らしいのはわかるが、私の趣味ではない。絶対に。


 取りあえず、ドレスと合わせてみることにした。


 私はドレスを試着した。デコルテ部分は露出しているが、見た目は何の変哲もないドレスだ。舞踏会なので、踊ることを考慮してスカート部分はふんわりとしている。

 バラの装飾や金の刺繍を入れてはどうかと提案されたが、別料金なので断った。


 ロディが宝飾品をつけてくれる。


 ちょっとだけくすぐったい。


「できた」


 鏡に映った姿を確認する。意外と悪くない。たぶん。


 確かにダイヤモンドが散りばめられた宝飾品よりも、ずっと地味かもしれない。赤いハートがやけに目立つが、これがないと、あまりにも地味過ぎるかもしれない。


「髪型はどうするの?」

「アップにしてまとめるわ。ダンスを踊るかもしれないし、乱れないようにきっちりしたほうがいいと思うの。それに、ドレスのスカートにボリュームがあるでしょう? 上はすっきり感を出した方がいいってベスに言われたの」

「ベスはお洒落だから、その通りにしておけば、間違いはない気がする」

「ロディはどっちがいい? アップ? それともダウン?」


 ロディは苦笑した。


「僕にとってはどんなレティも最高だから、わからないよ」


 嬉しい。でも、それでは困るのだ。髪型を決められない。やはり、ベスの助言通りにしようと私は思った。


「とても綺麗だよ。誰にも見せたくない」


 ロディはそういって私を抱きしめると、口づけた。


「レティ、愛しているよ」

「私も愛しているわ」


 ロディは何回も口づけをしてくれる。嬉しいけれど、恥ずかしい。私は自分の感情をあらわすのが少し苦手だ。でも、今は勇気を出そうと思った。


「ロディ」

「ん」

「ドレスがしわになるから、脱ぎたいの」

「……うん」


 ロディはちょっと照れたような顔をした。


「着替えたら、厨房の後片付けをしないといけないわ。お風呂は入ったの?」

「……まだ」

「じゃあ、お風呂に入ってね。私はその間に片づけをしてくるわ。その後、私もお風呂に入るから。先に寝ていいわよ。明日の朝も早いのでしょう?」


 ロディは大きなため息をついた。


「……わかった。お風呂に行ってくる」


 しょんぼりとしながら、ロディは宝飾品を外すのを手伝ってくれた。


 ロディがバスルームに行くと、私は急いでドレスを着替え、厨房の後片付けに向かった。


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