ロデウス視点 ⑬ 帰国
馬車と列車を乗り継ぎ、僕達は帰国した。
帰りはヴェルートで手に入れたという様々な本や雑誌を読んで過ごしたため、あっという間に感じた。
レティが読んでいた女性に人気だという社交雑誌には、犬系男子と猫系男子、どっちが好きかという特集が組まれていた。そして、有名人に例えると誰かというところに、なぜか僕の名前が挙がっていた。僕は犬系らしい。
犬系男子は忠実で人懐っこいらしく、素直に気持ちを伝える性格のようだ。愛する女性に尽くすタイプらしい。僕は確かにレティに愛を伝えたいと思っているが、うまくいかないことも多々ある。ドロドロな嫉妬心までも素直に伝えすぎたら大変だ。気をつけないといけない。愛する女性に尽くすというのは当たっている。となると、やはり僕は犬系男子ということになるのだろうか。
レティ曰く、女性に人気の社交雑誌には時々僕の名前が出ると言う。驚くしかない。恐らくは王女達もこういった雑誌を見て、あのような失言に結びついたのではないかという結論に達した。
視察団としての帰国であるため、王宮に帰国の挨拶をしにいかなければならないが、到着が夜だったため、翌朝にもう一度王宮に集まり、謁見して報告することになった。
移動による疲れがあるため、謁見しなくてもいいのは嬉しいものの、別の悩みがある。朝一番の謁見のため、早起きして身支度し、王宮に行かなければならない。そして、謁見後、それで終わりとはならず、すぐに詳しく話し合うための会議になるかもしれない。そうなると、レティを宿舎まで送っていけない。心配だ。
「子供じゃないのよ。一人で帰れるわ」
レティは呆れたようにそう言ったが、わかっていない。
「レティは王宮に詳しくないよね。迷ったらどうするの?」
「案内役がいるでしょう? 侍従とか」
「侍従に口説かれたらどうするの? よからぬ思いを抱いた者が、人気のないところへ連れて行こうとするかもしれない」
「前も同じことを言っていたわ。大丈夫。これでも元侍女よ。いざという時は相手の弱そうな部分を狙ったり、意表をつくよう教えて貰っているわ」
「誰に?」
「護身術の講師に」
「いつ習ったの?」
「王宮で働いている時」
「講師の名前は?」
レティは呆れたような顔をした。
「いい加減にして頂戴。それよりも、お土産も持って行かないとでしょう? 別送の物が届いているか、確認しないといけないわ。王太子殿下や職場の方達にお土産を配るのは明日でしょう? 謁見に行く際、持っていかないわよね? 侍従に預けるの?」
「配送先は宿舎?」
「当たり前でしょう。王宮の方が良かった?」
「いや。先につくと開けられる可能性があるし、宿舎の方がいいけど、結局こっちも、場合によっては安全確認のために開けられる可能性がある。確認しないといけないな」
さすがレティだ。土産に関しても準備が必要だった。
僕とレティは宿舎に付いた後も、土産の確認や、持っていく準備をするのに忙しく、就寝するのは遅くなってしまった。
「美人がくれるものはなんでも嬉しい」
満面の笑みで王太子が言った。僕は謁見の後、王太子への謁見と報告があるとし、視察団が王達と会議に行くのを見送った。元々僕は視察団の本当のメンバーではない。王太子への謁見と報告があるならば、それが優先ということで、退出する許可が出たのだ。
僕は一人で職場に行くつもりだったのだが、王太子の命令が出ているらしく、レティも一緒に謁見し、その際にお土産を渡すことになった。
僕から渡そうとすると待ったがかかり、美人から渡されたいという要望が出され、レティが渡すことになった。
レティは元王宮の侍女だ。王族に何かを献上するマナーについてもわかっているため、渡すこと事態は問題ないのだが、レティを指名されること自体がちょっとムカついた。勿論、そんなことはいえない。内心で思うだけに留める。
「お気に召すかどうかはわかりませんが、ヴェルートらしいものを選んでおります」
「ロディが何を選んだのか気になる」
「申し訳ございません。夫は会議で忙しく、私の方で選びました」
「そうなのか。むしろ、その方が嬉しい」
王太子はそういってすぐに土産の箱を開けた。
「ほう」
中身は宝飾品だ。サファイアとダイヤモンドで作られたメダルのペンダントだ。
「私への贈り物にペンダントを選ぶとは思わなかった」
「ヴェルートは彫金が有名ですので、定番ではありますが、そういったものがいいのではないかと思いました。様々な品を見たのですが、こちらの品を見て、王太子殿下と殿下を支え、お守りする者達を思い浮かべました。王太子殿下が中央のダイヤモンドだとすれば、周囲にあるサファイアとダイヤモンドは王太子殿下を支え、守る者達です。夫は青騎士なので、このサファイアの一つかもしれないと連想すると、余計にこちらの品を贈りたいと思いました」
「既製品か?」
「はい」
「悪くはないが、特注品が良かった」
王太子はそういうと箱を閉じた。
なんでもいいといったくせには、さりげなくケチをつけられた。しかし、王族が身に着けるのは、基本的に特注品だけだ。既製品はまずない。贈るとすれば特注品が常識だ。とはいえ、僕達は王太子に身に着けて欲しいと思って贈っているわけでもない。既製品でも仕方がない。所詮は土産だ。
「ロディ、他の者にも土産があるのだろう?」
「はい」
「見せろ」
「配る前に開けるのは不味いと思うのですが」
「執務補佐官室に行く。そこで配れ」
謁見はすぐに切り上げられ、僕達は王太子と共に執務補佐官室に移動した。本来、レティは入れないのだが、特別に許可された。先輩や同僚たちがレティの来訪を喜んだのは言うまでもない。
やはりここでも土産を配るのはレティの役目となり、僕は補助役に徹した。何かおかしい。
レティの選んだお土産は好評だった。丸いカフスだ。中央に小さな宝石があるデザインだ。宝石の種類はサファイア、ダイヤモンド、アクアマリンがある。これも既製品で、誕生石の種類が選べるようになっていた。そこで、青騎士、青騎士ではない側近、護衛騎士で宝石違いにすることにした。丸い形と、中央に宝石があるという部分は、王太子への贈り物と少し似ている。
「自分の分もあるのか」
王太子が目ざとく僕のつけているカフスに目を留めた。レティは僕にも青騎士であるとして、サファイアのカフスを買っておいてくれたのだ。一人だけ持っていないのも微妙だという配慮だ。
「青騎士なので、妻が配慮してくれました」
「私だけ別のか」
当たり前だ。王族への贈り物を、他の者達と同じにするわけにはいかない。しかし、王太子は自分だけ違うことに、少し不機嫌になった。
「ロディ、お前のカフスをよこせ」
「ええっ!」
思わず僕は叫んだ。せっかくレティが僕のために買っておいてくれたものを奪うつもりなのだ。できれば避けたい。
「王太子殿下に贈るにはちょっと」
「お前は青騎士だ。お前のものは私のものだ」
その理論はやめて欲しい。そういってよく人のモノを奪っていくのだ。ペンとか、ハンカチとか。その程度であればまだいい。でも、妻だけは奪わないで欲しい。絶対に、絶対にだ!
「わかりました。箱を後で持ってきます」
「お待ちください。王太子殿下」
レティが言った。
「王太子殿下はサファイアがお好きなのでしょうか?」
「そうではないが、なんとなくこのデザインのカフスが欲しい」
「王太子殿下であれば、ダイヤモンドの方がいいのでは?」
レティの言葉に、ダイヤモンドを配られた者達が、さっと品を箱にしまい、ポケットに納める。わかりやすい。奪われたくないのだ。
「ダイヤモンドでもいいが、これは土産だろう? ロディには別の土産があるに決まっている。奪っても問題ない」
「何かあると困るため、ダイヤモンドのカフスは余分に購入しました。それでもよろしいでしょうか?」
「今欲しい」
「すぐにお渡しできます」
レティはそういうと、ポケットから小さな箱を取り出した。
「私のポケットにしまっていた品で、非常に申し訳ないのですが」
「別にいい。レティの香りがするかもしれない」
非常に呆れたが、何も言えない。王太子なのだ。それに、ここで機嫌を直してもらわなければ、僕のカフスがなくなり、レティの努力が無駄になる。
王太子はダイヤモンドのカフスを手に入れてご機嫌だ。お忍びで出かける際につけていくことにするらしい。レティの機転に感謝するしかない。他の者達も、さすができる妻は違うといって、レティを褒め称えていた。
レティの評価が上がるのはいい。美人というだけじゃなく、別のいい部分もあると。しかし、そのせいで欲しいという者があらわれ、奪いに来たら困る。それでなくても、僕はいつも、王太子や先輩たちに、美人過ぎる妻を持っていることに対し、色々と言われるのだ。
僕達は新婚旅行のお土産を配ることを理由に、一度退出したいと願い出たが、僕は駄目だった。仕方がないため、レティを馬車まで送った。
レティはこの後、クライスター公爵家に向かい、お土産を渡すことになっている。本来は二人で行くべきなのだが、王太子の許可が出ない以上は無理だ。仕事優先になる。夜中に行くことはさすがに無理過ぎる。マナー違反だ。レティに任せるしかない。
執務室に戻ると、王太子達が待ち受けていた。そして、新婚旅行はどうだったのかということについて、根掘り葉掘り聞かれた。
異常な盛り上がりとなり、このままでは不味いと思っていると、王からの伝令が来た。王太子と僕を呼んでいるらしい。助かった!
僕は王太子に付き従い、王の元に向かうことになった。
なんとなく予想していたが、ヴェルートでの話し合いに関してで、鉄道の副路線や国有会社について、より詳しく説明しろということだった。
しかし、僕は単に思いついただけなので、すでに下調べなどをしているわけでも、準備をしているわけでもない。詳しく話しようがなかった。
視察団の説明とかなり被るかほぼ同じだと思ったものの、何も知らない王太子が同席していることもあり、僕はもう一度その件について説明した。
話の内容に王太子は驚いていた。報告よりも、お土産を優先するからだ。
「ロディ、初耳だ」
「ヴェルートで視察団の者達と内内で話し合っている際に思いついたことです。まだ挨拶しかしていません。その後でお伝えするつもりでした」
「早く言え。重要なことだ」
「申し訳ありません」
その後、重臣達が招集され、僕の発案したことに関して話し合われた。当たり前だが、構想だけで資料がない。すぐにこの案がどの程度現実的なのか、可能かどうかを詳しく調査することになった。
基本的には鉄道は鉄道省の担当になる。しかし、鉄道省が管轄するのは国有鉄道であって、国有会社ではない。国有会社の鉄道ができた場合は、商務省の担当になるのではないか、いや、公共事業のため国土省ではないか、鉄道のことなので、鉄道省に決まっているなど、討論された。
結局、僕が発案者であることから、僕が担当になった。僕はすでに故郷の併合地と本国を結ぶ鉄道に関しての担当者だ。そのため、ヴェルートに関しては別の者が担当だった。だというのに、仕事が増えてしまった。
「王宮に泊まり込みだ。しばらくは帰れないだろう。覚悟しておけ」
王太子がにやりとしながらそう言った。
なんとなくだが、僕とレティが一緒に過ごすのを邪魔する気なのだ。きっとそうだ。意地悪な上司なのはわかっている。
僕は泣きそうな顔になりつつ、レティ宛に、しばらく帰れそうもないという手紙を書くことにした。
僕とレティは間違いなく夫婦だ。試練を乗り越え、本当の夫婦としてやり直すことになったけれど、僕とレティがお互いの気持ちを知ってからは、それほど経っていない。
ゆっくりでいい。恋人のように過ごすのもいい。僕はレティがいてくれれば、幸せだ。
但し、会えないまま、文通だけの交際予定は断固反対だ。
早く帰る。絶対。僕は心に誓った。
新婚旅行編はこれで完結です。
ありがとうございました!




