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永遠の愛を刻み続ける  作者: 美雪
新婚旅行編

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ロデウス視点 ⑪ 仕事

 グウィネス五日目。


 僕は視察団の者達にどうしてもといわれ、話し合いの場に顔を出すことになった。


 僕は王太子の側近ではあるが、今回に関してはよほどの緊急事態でない限り動くことはない。視察団トップは鉄道省の副大臣だ。その権限は決して小さくはない。話し合いであれば十分なはずだ。


 しかも、僕は昨夜飲み過ぎたおかげで二日酔いだ。薬を飲んだが、気分はあまり優れない。それは僕が悪い。文句をいうことはないが、レティとの時間が無くなったことに関しては、凄くイラついていた。


 リンリーネ子爵が個人的に教えてくれたおかげで、大体の状況はわかっていた。


 話し合いは膠着状態であり、やはりこのまま本国に持ち帰ることになりそうだった。


 休憩時間になると、視察団の者達が僕に意見を求めるが、僕は簡単に発言するわけにはいかない。ちょっとしたことが、大事につながりかねないからだ。僕は今回の話し合いのために用意された書類や地図などを見た。


 確かに、ヴェルートが考案したルートは大回りだ。これでは王都と首都をつなぐ意味がないように感じた。しかし、ヴェルートがなぜこの都市を経由させたいかも気になった。それに関する説明がない。地方都市としかわからない。


 僕が質問すると、鉄道省の者が教えてくれた。そこは大きな鉱山がある場所のため、鉱山で採れた鉱石を運ぶのに都合がいいからだろうと。


 非常にわかりやすい。ヴェルートは本国に鉱石を売りつけたい。だからこそ、鉱山から本国へ通じる鉄道の方が、王都と首都とを最短で結ぶよりも優先なのだ。


「だったら、途中に駅を作ればいい。そこから副路線も建設する。一方は首都へ、もう一方は鉱山方面につなげればいいじゃないか」


 鉄道は何も一つと決まっているわけではない。複数でもいいのだ。最初から二つ作るのは費用がかかりすぎる。そこで、一本だけとするものの、途中から分岐すればいい。


「あまりに莫大な資金がかかりすぎます。それに、工期もかなりかかるでしょう」

「ヴェルートに提案するのは問題ない。作るのはヴェルート国内なわけだしね。こちらで勝手に駄目だとして却下しなくてもいいと思うよ。それに、鉱山に通じる方は、一部の者しか恩恵を得られない。鉱山の所有者とか、鉱石の取引業者とかね。国全体の益を考えれば、微妙じゃないかな。ただ、鉱石の取引量が増えるのは悪くない。この鉄道に関しては、投資を募ってはどうだろうか? 国が率先して作るべきは、国全体に益をもたらすことだ。副路線の鉄道は国有会社でも作って、鉱山や鉱石関係者からの投資を募ればいい。費用の負担は少なくなる」

「なるほど。国有会社ですか」


 僕の考えに、リンリーネ子爵は驚きつつも名案だと言った。


 国有会社が鉄道を持つという方法でも、国は十分鉄道に関して口を出せる。民間の資金をうまく集めつつ、最終的には国が一番大きな決定権を持つようにすればいいだけだ。


 これに関しては、本国の鉄道にも応用できるとし、既存の鉄道に関しても、いくつかの副路線を検討してみるのも悪くないとなった。副路線に関しては国有会社を設立し、民間の投資を募って運営する。その方式がうまくいけば、地方間の路線が増え、国内の鉄道普及も早まる。


 休憩後の話し合いでは、副大臣の方から、僕の意見を取り入れた提案をし、ヴェルートの反応を見た。ヴェルートの反応は悪くはなかった。ヴェルートも鉄道の建設はお金も時間もかかるため、一路線だけと思い込んでしまい、副路線については考えていなかった。


 首都へつなげたいのはあるが、まずは鉱石の取引を盛んにし、資金を稼いでから、首都への路線を作ったらどうか、というのが最終的な判断だったらしい。資金をうまく調達し、同時に副路線という形で首都と鉱山への鉄道を建設できるのであれば、その方がいい。国有会社のこともあわせ、検討するということになった。


 突然の提案だったため、誰が思いついたのかということになり、僕の意見であることがわかってしまった。さすが王太子の側近、優秀だと言われ、余計に本腰で検討する気になったようだ。余計な事を言ったかもしれないと思いつつも、重い雰囲気が一変、明るいものとなったのは、良かったかもしれない。


 話し合いが進み、国有会だけでなく、本国とヴェルートがそれぞれ出し合った合資会社を作り、国境審査を簡略化できないか、また、互いの国が会社を通して益を分け合うことも話し合われた。


 両国による話し合いはこれで一旦終わりとなり、視察団は本国に戻る。最後の最後でいい案が出たため、非常に良かったという評価がされ、関係者は笑顔を見せていた。


 僕はその後、首都の不動産に関する売却の手続きをした。宰相と外務大臣、更に、国土大臣に代わって屋敷を買い取りたいと申し出た国王に、それぞれ欲しがっていたものを売却することにした。


 僕は管財人とリンリーネ子爵に頼んで、どの程度の金額で売却するかを検討する書類を貰い、それよりも高値の申し出があれば、すぐに売却する気だった。宰相は元々相場よりも高く買い取るということだったが、外務大臣も今回の不動産の取得を財産分与にしたいことから、ぜひ買い取りたいとして、相場以上の金額を提示してくれた。


 問題は国王だ。国王が買い取りたいと言ったのは、国土大臣が一括で支払うのが無理であるため、分割払いをしたいと思ったことに起因する。だったらといって、国王が一括で購入すると言い出したのだ。


 国王は相場だった。正直、がっかりだ。その代わりに、王女をつけてもいいと、冗談でもいうように、さりげなく僕の反応を見た。


 僕はレティ以外の女性は愛せないため、他の女性を妻や妾にする気はない、結婚式を挙げたばかりの者に対して、最悪の冗談だときっぱり断言し、国王には売らないという決断をした。


 表向きは金額面で折り合わないとしたが、王女のことが原因なのは明らかだ。ちょっと雰囲気が悪くなったが、僕はここであいまいな態度を見せるべきではないと判断した。政略結婚など絶対にしたくない。


 僕が不機嫌な様子で部屋に戻ると、レティが心配してしまうため、ぐっと我慢し、ドアの前で笑顔を作った。


「ただいま!」


 僕はレティをぎゅっと抱きしめた。幸せな気分が溢れだす。


「首都の不動産を高値で買い取って貰ったよ」

「良かったわね。色々と出費があったから、大変でしょう?」


 レティの質問を僕はさらりと受け流した。


「大変だったら、カジノのお金は貯金していたよ。大丈夫」


 レティはお茶を飲んでいたらしい。時計を見ると、結構な時間だ。今夜は夜会がある。支度に時間がかかることを考えると、どこにも外出できない。


「ごめんね。朝からずっと会議や取引ばかりで」

「大丈夫よ。お土産は全員分購入して、先に発送する手配をしたわ」


 僕はまだ購入していない王太子や同僚、青騎士達への土産を、今日買うつもりだった。会議に出席するので買いに行けない。そこで、レティに任せることにしたのだ。


「余った時間は王宮を案内して貰ったの。意外と時間は潰せたわ」

「そうだったのか。メルイーゼが案内してくれたの?」

「アルよ」


 僕はちょっとムスッとした顔になった。


「へえ、アルがね。僕のいないのをいいことに、レティに近づくなんて!」

「リンリーネ子爵夫人もずっと一緒だったの。心配する必要はないわ」

「リンリーネ子爵夫人にはとてもお世話になったね。感謝しないと」

「そうね」


 僕とレティでお茶をしていると、ドアがノックされた。誰かと思えば、アルだった。


「ロディ、悪かった」


 アルは給仕のためにいた者達を下がらせると、すぐに話し出した。


「あれは側妃と王女があまりにうるさいため、お前からきっぱり断ったという事実を作るためにも、必要だった」

「その話はここでしないで欲しい」

「いや。むしろいうべきだ。レティも知っている。王女と会った際、お前が政略結婚するかもしれないという話をした」

「えっ!」


 僕は驚いた。そういえば、レティは王の夕食会の後、王女の元に呼び出されていた。その際に何かあったのだ。だからこそ、なんとなく様子がおかしかったのだ。


「レティ、なぜ言ってくれなかったの?」

「だって、私の身分が低いのは事実だし」

「そんなことを言ってはいけない。パヴェリー伯爵に申し訳ないじゃないか!」


 レティは結婚する際、僕と身分が釣り合うようにということから、パヴェリー伯爵家の養女になった。元平民と陰口をいう者がなくならないわけではないものの、今は立派な伯爵家の令嬢なのだ。身分が低いというのは間違いだ。


「でも、養女でしょう?」

「関係ない。僕だって、公爵家の養子だ。同じじゃないか!」

「でも」

「でもじゃない! 僕達は夫婦だ。ちゃんと言ってくれないとわからないよ!」


 僕は怖くなった。レティは以前、宝石を質に出し、僕の元をこっそり去るための準備をしたことがある。知らない間にレティがいなくなってしまうと思うと、僕の胸は苦しくてつぶれてしまいそうになった。なんでも言って欲しい。一人で決めて欲しくない。


「ロディ、落ち着け。お前だって、父上からの話をレティに言ってない。お互い様ではないのか?」

「あれは冗談だ。わざわざレティに言う必要なんかない」


 アルは苦笑した。


「まあ、父上も本気で言ったわけではない。お前はうまく受け流すと思っていたが、取引を拒絶されるとは思わなかったため、やや困ったことになった。俺が謝罪するため、あの屋敷を売ってくれないか?」

「嫌だ」

「わかった。少し上乗せする」


 僕は尋ねた。


「なぜ、欲しがるのか言わない限りは嫌だ。理由があるよね」


 アルはにやりとした。


「気づいたか」

「最初は気づかなかった。でも、国王が買い取ると言い出したので、ちょっとおかしいと思った。あそこ、再開発されるの?」


 僕は適当にそう言ったのだが、アルは頷いた。


「そうだ。誰かに聞いたのか?」

「いや、ふと思いついて適当に言っただけだけど」


 困ったような表情の僕に、アルは笑った。


「そうか。見事に誘導尋問された」

「いや、そういう気はなくて」

「情報が洩れていないならいい。これは口外しないで欲しいことになる。いいか?」

「いいけど、本国の不利益になるようなことだと不味い」

「本国は関係ない。首都の道路を大整備する計画があるだけだ。一部はすでに着工しているのだが、国土省の付近も、いずれは整備される予定になっている。しかし、予算に関して揉めているため、未発表だ。しかし、発表されれば、当然その影響で地価が変動する。あの付近には大きな道が整備されていないことから、大きな屋敷も少ない。かなりの者達が整備計画で強制立ち退きになる。建物なども取り壊されるだろう。その結果、あの屋敷は整備された道路の一つ後ろという好立地になる。地価が上がるのは勿論のこと、唯一の大きな屋敷ということで、欲しがる者が増える。国土大臣は整備計画のことを知っているからこそ、地価が上がる前に買い取ろうと思ったのだ。国王も同じだ。代々の国土大臣に賃貸できる物件として、購入しようと考えた。もしかすると、国土省の別館を建設する用地の候補になる可能性もある」

「なるほど」


 僕は頷いた。


「じゃあ、いずれ高騰してから売ればいいってことか」

「愛妻を置いて、ヴェルートにまた来る手間をかけるのであればだが」


 僕は一瞬閉口した。それは嫌だ。


「レティとまた旅行にくればいい」

「休暇がとれるのか?」


 僕はまた閉口した。


「さっさと処分しておけ。書類にサインしろ。勿論、かなり相場よりも高く買い取る。さっきとは全然条件が違う。考慮して欲しい」


 僕は書類を見た。確かに金額が上がっている。


「夜会の準備がある。早くしろ。私もこの後、用意がある」

「王女の件はもうないよね?」

「さあな」

「じゃあ、それに関して、アルの方でちゃんと潰して。だったらいいよ」

「面倒くさいことを条件にするな」

「妹のことだし、面倒見てよ」

「腹違いだ。妹だと思っていない」

「へえ。じゃあ、王太子も兄と思っていないわけ?」


 アルはため息をついた。


「わかった。俺が潰しておく。だが、国王がさっき側妃と王女を呼び出し、お前達のせいで不味いことになったと怒鳴り散らしていた。問題ないだろう」

「そうか。ちょっと安心した」

「サインしろ」

「仕方がないな」


 僕は書類にサインした。


「印章はいらないの?」

「いる」


 僕は印章も押してあげた。わざわざ教えてあげるなんて、親切過ぎる。


「レティ、これでお前も安心できる。ロディは王にもきっぱり断った。素直に喜べ」


 アルはそういうと、部屋を出て行った。


「レティ」


 僕は謝ることにした。


「ごめんね。気づかなかった」

「私こそ、ごめんなさい」


 レティも僕に謝った。


「ロディの気持ちはわかっているのよ。でも、不安なの」

「うん。僕も不安。レティに愛想をつかされないかって」


 僕はレティを抱きしめた。


「僕達は本物の夫婦だ。だからちゃんと互いに向き合おう。そして、伝える。愛していることも。嬉しいこと、楽しいこと。それだけじゃない。悲しいことや苦しいことも全部、二人で分かち合って生きて行こう」

「わかったわ。ロディ」


 レティは僕に抱きついた。


「愛しているわ。ロディ」

「愛しているよ。レティ」


 僕はレティをしっかり抱きしめた。


 僕にはわかる。愛していることを伝えたいのは僕だけじゃない。レティも同じだ。僕に伝えようとしている。自分の気持ちを。


 僕達は愛し合っている。この愛は永遠だ。指輪に刻んだ誓いの言葉だけじゃない。二人で人生を歩き、愛の言葉を交わしながら、互いの心の中にも、永遠の愛を刻み続けていく。


 僕は世界一愛する妻に口づけをした。

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