窓
灰色の窓が見える。
ボクはその窓から何度となく灰色の空を見ていた。色が褪せ、朽ちたカーテンがそよ風にゆられている。風はボクの体を貫きどこかへ流れていってしまった。ボクはその風を追いかけ掴みたいがその手は底なし沼のようにどこまでも続く暗さをしていた。体も足も顔も眼もすべてがその色に沈んでいた。
ボクはここで自殺をしたのだ。だれも来ることのない廃墟には空の匂いしかない。
この場所で死んでから幾日か経っている。死んだという事実は目の前にぶら下がっていた。
魂が抜け殻となった肉体が天井からこちらをみている。
たまに風に揺れる塊は悲しげにボクを見て何を思うのだろう。
意思も何も失っているのだから考えていることは無駄であり、今の状況はそれよりも違うことを考えるべきだった。なにせ一分一秒経つにつれてだんだんと記憶が消滅していっているのだから。
死んだ日は星のよく見える日だった。
会社の帰り道にここの近くを通ったときに急に意識がぼんやりしたことは覚えている。
そして、催眠術にかけられたようにここへ来て死んだのだ。
暗いものに包まれたかと思うとボクは落ちていた紐でそのまま首を吊っていた。
死んだ後分かったのだがこの体になるとどうやらほとんどの感情は消えていくらしい。
過去を思い出しても何も感じることない。
意味のない羅列の数字をみているような感覚になる。
多分あと半刻もすれば、ボクの思い出というものはすべて霞んでしまうのだろう。
翼が羽ばたく音が聞こえたかと思うとゆっくりと窓に白い烏がやってきた。
烏はボクの肉体と黒い塊をを見るやどこかへ飛び去っていった。
烏が飛び去った窓からはボクがいた世界が広がっていた。色に満ち生命という生命が活発に活動している。
ビルの近くに人が歩いていた。暗い色が体を侵食しているようで、生命が持っている色が褪せいていた。ふと意識はあの色に同調したいという感情におそわれた。そしてボクはその色を求め歩き出していた。
窓からは茜色の光が侵食し、ボクの肉体は真っ赤な鮮やかに染め上げた。