The would of books
お初にお目にかかります。
これより始めますのは、孤独な少女の「幸せ」の物語です。
申し遅れました。私はこの少女の幸せを遠くから見ていることしかできなかった者です。名乗るほどの者ではございません。私のことはよいのです。私が話したいのはこの少女のことなのですから。
では、始めましょう。
その少女は不幸せでした。両親も友達もいるのに不幸せでした。でも、その少女は、自分が不幸せであることに、気づいてはいませんでした。その方がある意味幸せだったでしょう。
ですが、気づいてしまったのです。自分が在ることに意味はないということに。存在してもしなくても世界はなにも変わらないということに。
始めは純粋な興味でした。自分という存在は必要なのか?在ることに意味はあるのか。少女は考えました。そして、気づきました。私は、誰にも必要となんかされてない。
「ならばいなくてもいいじゃないか。」少女は思いました。でも、死ぬことはできませんでした。消えることもできませんでした。死ぬのは怖い。消えたくても方法が分からない。少女は仕方なくそのまま在りました。だんだんとゆがみながらも変わらずに笑って。
その思いは、誰にも話せず、聞いてくれる人もなく、日に日に増していきました。笑みも日に日に少なくなり。泣くこともできず。つくり笑いを貼り付けて。
そんな少女の生きがいは本でした。本を読むために在りました。少女は本が好きでした。本を読み、その世界で主人公と笑い、泣きました。現実ではなく、本の世界で。「ずっとこの世界にいたい。」と思いながら、少女は毎日を続けました。
そんなある日のことです。少女は見つけました。
―「本の世界へ行きませんか?」―
そこにはこの言葉と、
「the would of books ―本の世界へ―」
とだけ書いてありました。少女は調べました。行くための方法、必要なもの、条件…。
苦労の末、少女は見つけました。条件は本が好きなコト。必要なものはない。方法は―。
数か月後、少女は行方不明になりました。ですが、誰も気づきませんでした。(私は除きます。幸か不幸か傍観者ですから、この世界の今現在のことなら、視えるのです。)いたことがなくなったわけでも、偽物がいたわけでもありません。それなのにいないことに疑問を持つ者はいませんでした。いつの間にか誰にも知られずに消えていきました。消えたことすら気づかれませんでした。視ていた私にもよくわかりません。が、とにかくいなくなってしまったのです。
それから、何年も経ちました。彼女は行方不明になったままです。
そんなある日、私は彼女を視ました。どう、表現すればいいのでしょうか。ふと、目の前にうかんだというのが一番近いでしょうか。とにかく、視えたのです。少女は楽しそうに笑っていました。自分が不幸であることを知らなかった、昔のように。
まわりの様子は視えませんでしたが、何をしていたのかは分かりました。
少女は本を読んでいたのです。
何冊もかかえて。とても、とても、幸せそうに。
私には解りました。少女は本の世界にいってしまったのです。この世界ではなく本の世界に。きっと、彼女は幸せなのでしょう。大好きな本に囲まれ、つらいことも悲しいことも全ては本の中。少女はこの世界では幸せになれなかった。だから、消えてしまった。自分の大好きな物のみ存在する、「幸せ」な世界に。
私には少女を幸せにすることはできませんでした。私にはなにもできませんでした。
きっと、この世界で幸せになれない人々には、私以外の誰かが手を貸すのでしょう。全ての人々が幸せになれるように。
少女は本当に幸せそうでした。だから、私は、その誰かを、止めることはできないのです。
皆さんの中で、これはハッピーエンドになるのでしょうか…?
私的にはハッピーエンドである!と断言できるんですがね。私だったら、幸せなので。