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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第一章 ここは本当は異世界だろう
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終結

戦争は、すべて勇者のせいだという両者の合意で終わった。

最終的(・・・)な戦績は、魔王軍、精霊部隊、共に死者無し。負傷者多数。何れも軽傷である。

その負傷者の傷は、亜空間に飲み込まれる前に負った傷である。

ほとんどが凍傷。壊死寸前のものはいたが、アリサにより治療された。元いた時代が氷河期のようなものなので、凍傷の治療器は多くあった。

死者がゼロなのは、アリサが亜空間の時間を一時停止していたためである。その間に負った傷は、現実では負っていないことになり、亜空間と共に消滅していった。

つまり、亜空間の中で命を落としたものはいたのだ。

二度とそんなことが起こらぬよう、キルツ王国と魔の国は協定を結ぶことにした。


「なあ、シエラよ、せめて少しの間、表情を引き締めてくれぬか?」


キルツ国王ソフィアは、長い机の向かいに座る魔王へ向けて言った。


「無理じゃ。なんせ我が勇者が居るのじゃから。」


魔王──名はシエラレオネ・フィン・マルクという──は、両者の間に、舌打ちしまくるルシファーと殺気を放ち続けている、リヴァイアサンの鏡写しの姿をしたピクシー、ただただソフィアの方を向いて無表情のリヴァイアサン、魔王の側近マムリとその部下数名に睨まれて座っている勇者の方をみてますます顔をゆるめた。

キルツの国と魔の国のトップが向かい合っているのには、もちろん理由がある。元々仲の良い姉妹だった二人だが、今は無意味に会っているわけではない。

キルツ王国と魔の国の間に協定を結ぶことにしたためだ。

内容は、主に勇者の扱いについて。

生き埋めになっても(アリサのおかげではなく自力で)のこのこと生きていた本人の意思は尊重される予定はない。


「早く決めぬと、それまでは我が城の中なのじゃ。

──シエラが自由に会うことは当分できぬぞ?」


シエラレオネが表情を引き締めた。


「それはいかん。儂の勇者と遊べぬなど、生きておる意味がないではないか。」


ソフィアはため息でもつきたそうだ。


「だからさっさと決めようと言っておるのじゃ。」


なんやかんやして、日が暮れる前にあらかた内容が決まった。


「明日調印し、二日後には勇者を移すとしよう。」


ソフィア国王のその言葉で、会談は終わった。


「それまでは儂も勇者と共に居るのじゃ」

「それは困る。

──毎日会いに来るのならば構わぬが、共に牢におくのはだめだ。

勇者ならば平気だろうが、シエラは弱い。万一のことがあってはわらわがキルツの国王になった意味がなくなるではないか。」


シエラレオネが席を立った。


「儂が弱いじゃと!?」

「あぁ、弱い。」


ソフィアは漫然と、当たり前だと言う。


「その言葉、捨ておけん。」

「戦ったところで、わらわは負けぬ。」

「儂も少しは強くなった。あの時のようにはならぬ。」


今でこそ世界最強の一人と呼ばれる魔王。それは、魔の国の王という意味で、個人を指してはいないのだと、知るものは少ない。

おそらく今もだろうが、昔は、ソフィアにすら負けていたのだ。

そのころはまだルシファーはソフィアの家臣ではなかったし、国王候補の世話係だったリヴァイアサンはとても弱かった。国王候補が手違いで死んでしまうことがないように。ピクシーも、今のように庭で遊んではおらず、国境の警備をしていた。ソフィアを守るのは、弱き精のみだったのだ。

シエラレオネはソフィアの姉であり、次期キルツ国王候補の一人でもあったため、ソフィアに近づくことは容易であった。

ソフィアの方が候補として有力なのを知っていたため、自分が国王になるためにソフィアによく戦いを挑んでいたのだが、一度として、勝つことは叶わなかった。すべて、ソフィアにしては遊び半分、シエラレオネにしては全力であった。

いざ国王が引退を表明し、次期国王を決めるとなったときも、国民は強い王を望んだため、戦って決めた。他の兄弟もいたが、二人との戦闘力の差は歴然。戦う前に、候補から除外された。

ソフィア以上に精霊として優れており、候補として最も有力だった長子も、その時国内にいなかったために除外されている。

戦いが始まってすぐ、シエラレオネがソフィアに攻撃を仕掛けると、ソフィアはキョトンとそちらを一瞥しただけでシエラレオネへ反射させ、それをまともに食らったシエラレオネは意識を失った。心配したソフィアが駆け寄って回復・治癒魔法までかけ、国民の支持は一気にソフィアへと傾いた。そのときのシエラレオネ派が、現在の魔の国を作ったといっても過言ではない。

ソフィアとシエラレオネの母はキルツの前王であり、父は魔の国の元王──つまり魔族だった。その関係でシエラレオネは自身の魔力が皆無であったため、精霊たちからは出来損ないと疎まれていたところもあった。それでも何とか努力し、大地から魔力を分け与えてもらうことにより、魔法を使うことはできるようになった。さすが精霊の王の子というべきか、魔力がないだけで、魔法を使う素質は十二分にあったのだ。

父が魔族なので、魔の国との交流もあり、魔族たちは実力主義で種族などほとんど気にしていなかったこともあり、シエラレオネ派は、彼女と共に魔の国へ移住し、彼女はそのときの魔王の養子となり、今は魔王に就任していた。

そんな経緯があり、シエラレオネは一方的にソフィアに恨みを抱いていたりする。

まあ、それでも仲はよいのだが。


「フン。まあよい。今日は儂が折れてやろう。」


ソフィアは安堵の表情を見せた。


「──助かる。

 よかったら泊まっていくか?部屋ならありすぎるほどある。」

「よいのか?」

「ああ。勇者と共におくことはできんが、魔王といえど大切な姉だ。客としてもてなそうぞ。」


こうしてシエラレオネは久しぶりに、幼き頃の自室で妹と過ごしたという。

シエラレオネは前王の五人目の子供、ソフィアは六人目の子供です。

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