静かなやりとり
闘技場の中央に並んだ2人には、派手な戦闘を始めるような気配はなかった。
面と向かって見上げ、見下ろし、会話しているだけだ。
「ぶっちゃけ、面倒なのだけれど」
腰に手を当てたマリがだるそうに言った。
「勇者とは戦いたいのだろう?」
「ええ。」
母は娘の確認に応じる。
「だからリョク、負けてくれない?」
「わらわも戦いたいのだ」
言葉とともに挑発的な笑みを浮かべ、相手に直接作用する魔法を打ち込みあったが、互いの防御魔法によって防がれた。
そのためどのような効果をもたらす魔法が行使されようとしたのか、判らなかった。
「──でも、マトモにやってもすぐには終わらないでしょう?」
「そうだな。」
言いながら、またしても互いに魔法を行使する。
「──だが──」
ソフィアの足下に小さな亀裂が生じ、マリの腕の位置が腰から少しずれた。
どちらも、防ぎきれなかった魔法によって間接的にもたらされた効果によるものだ。
「魔力が尽きるのは母様の方が早いのではないか?」
マリのほうがソフィアよりも魔力保有量が少なく、その点を指摘されて少し苛ついたマリは、反射的に視覚で捉えられる魔法を使ってしまった。
それを笑って防ぎながら、ソフィアは不可視の魔法を放つ。
「でも、リョクの方が魔力の無駄遣いをするでしょう?」
実は勇者とシエラレオネの試合中に話し合い、ただの魔法の撃ち合いではつまらないから不可視の魔法に限定しようとこっそり決めていたのだ。
そのため、見ている側からすると何も起こっておらずつまらない結果となっている。
「わらわは魔力が多いからな」
「それにしたって制御が雑すぎよ」
あぁだこーだ会話しながら至近で不可視の魔法を撃ち合っていった結果、マリが会話の内容から頭に血が上り、普段使うような広範囲に影響を及ぼす魔法を行使しようとしたことがポリマーによって感知され、ルール違反で失格となった。
これにて決勝は勇者対ソフィアの、以前の武闘会で好評だった組み合わせに決定した。
マリはすぐ頭に血が上る悪い性質をチャドに指摘され、武闘会決勝を前にして王族専用観覧席が壊滅するという惨事も起こったが、運営に支障はないとの判断からこのまま決勝は続行となった。




