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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第三章 ここは血の気が多すぎはしないだろうか
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第1試合、終了

「あ、そだ。シエラちゃん」


未だ降りやまぬ雨を人間技とは思えない動きでかわしつつどこからか取り出した針状のものを無作為に投げながら、勇者は話しかけた。


「なんじゃー勇者」


草むらに身を隠しながら魔法で保護した拳で勇者の投げたものを打ち落とすシエラレオネも、気さくに応える。


「これ、いつまで続ける?」


互いに相手の位置が掴めていそうな滑らかな会話であるが、急いて攻めにいくことをしない2人。


「どうしようかのう」




「お2人は、何をしていらっしゃるんでしょう……?」


観覧席からは闘技場全体が見下ろせる。

だから草の生い茂る今も、勇者とシエラレオネの姿がアリサたちにははっきりと捉えられていた。

エミィシステムに補助されながら2人の動きを追っていたアリサは2人の口の動きを読もうと試みたが、距離があるために難しかった。


「おおかた、世間話ではないでしょうか?」


ピクシーが応える。


「試合中に?」


アリスは呆れを含んだ返しをした。


「そういう方たちですので」


ピクシーは笑む。


「どうやら、いつ決着をつけるか話し合っているようですね」


ドロシーが口を挟んだ。

音を拾っているのか、映像を解析しているのか、アリサは興味を抱いたが、今はそれを訊きたい気持ちを押さえた。


「真面目にやってくんないんだ」


アリスはやはり呆れる。


「審判が、始めに心配していましたよね」


ツカサも呆れ気味に、乾いた笑いを漏らした。


そこで、ピクシーは表情を引き締めた。


「……どうやら、そろそろ痺れを切らしているようです」


顔を上げて呟かれたその言葉に、一同は首を傾げた。


「……どういうことですか?」


アリサが尋ねると、笑って応える。


「あぁ、すみません。

──マリ様が、苛立っておられるようで」


ピクシーの視線の先には、王族専用観覧席が。

エミィシステムの補助で確認すると、胸の下で腕を組むマリと、話しかけるチャド、和んでいるソフィアとモノマー、ポリマーがいた。


「ああ。

 なんか妨害しようとしてるみたいですけど、放っておいていいんですか?」


「ルール的にはナシじゃないと思いますが」


ドロシーの疑問にドロイが反応する。


「気付かれなければ問題ないですし、面倒ですから放っておきましょうよ」


ピクシーはいっそう笑んでそう言った。





「ったくフィンったらまともに戦ってないじゃない」


マリが不満げに言うが、チャドは娘の擁護を試みる。


「まぁまぁ。

 シエラもガルナ君と戦うのは久しぶりだろう?」


「ええ。旧友と遊んでいたあなたみたいにね?」


マリにひと睨みされ、チャドは目をそらす。


「いくら時間制限がないからって、遊びすぎよ。

──この雨だって、観客に降らせるなんて魔力の無駄遣い以外の何物でもないわ」


それは君に言われたくないだろう。とは思っても口に出さないチャド。


「シエラは制御が雑だからね。」


「魔力ないのにね。」


チャドの言葉に、ソフィアが付け足す。


「自然の魔力だって無制限ではないのに……。」


ポリマーが珍しく、モノマーといるのに不機嫌そうにして呟いた。


「シエラもそれはわかっているのです。

──ですが、この場所はピクシーのおかげで魔力が満ちているのです」


「そうですね」


この闘技場には、ピクシーが手入れをしている庭がある。

よく手入れされた植物は豊富な魔力を有し、手入れが適切であればあるほど質もよくなる。

ピクシーの植物の手入れの腕は一流だ。

したがって、ピクシーに手入れされた植物の持つ魔力は豊富で、良質である。

そのため、接触している自然の魔力を使用するシエラレオネにとって、ここ以上に魔法を使いやすい場所はない。

制御が雑なのは、普段は使えないほどの量、質の魔力を用いているために感覚が掴めないせいもあるのかもしれなかった。


「……あんまり貪るとセトに怒られるわよ?」


その声を、マリは魔法を用いてシエラレオネに伝えた。


「貪るって……」


「魔力消費が急激すぎると枯れるんだから。」


チャドの呟きは無視した。




マリの声と共に乗ってきたプレッシャーを感じ、シエラレオネは体を震わせた。


「ッ──なるべく早く終わらせようぞ」


言いながら、魔法で強化した拳を地に叩きつける。


「あぁ、うん。マリさんね」


声は届いていないが、シエラレオネの反応からマリの方を窺うと苛立っているのが見て取れ、納得する。

暢気に応えながら、揺れた地面の下を這うものの気配を感じて少しだけ距離をとり、かなり鋭くなった剣を地に刺した。


「で、こいつら消してい?」


言いながら、勇者は魔法を行使する。


「ピクシーの方まで巻き込まないようにな」


シエラレオネも魔法で抵抗しようと試みるが、魔法が苦手であるため、敗れた。

結果として、闘技場内の地表に現れていた緑は灰と化し、針のような雨は弱く降り続ける小雨に変わった。

ピクシーが追加で張った結界も、雨を防ぐ必要をなくし、解除された。

灰は水を吸い、足場を悪くする。

勇者は剣を抜き、自身の周りの灰が濡れる前に吹き飛ばした。

シエラレオネはもろに勇者によって飛ばされた灰をかぶり、不快感に顔をしかめながらも足との接触面に干渉することで安定した歩みを見せる。


「じゃ、トドメいい?」


開始時のような形で向かい合う形となった2人。


「うむ。仕方ないな。」


灰にまみれて汚れているシエラレオネと、雨を受けて重そうなマントを絞る勇者。

シエラレオネは濡れた灰を操って人型を作り、最後の抵抗のようなものをみせた。


「斬るとくっつくよなー……」


灰の人型の陰にいるシエラレオネに人型を避けて逼迫すると、間に湧いた人型ごと彼女を剣の腹で叩いた。




「レオーネ国王、動かなくなりました!

 よってこの試合の勝者、勇者!!」


司会の魔族が宣言すると、勇者はシエラレオネを肩に担いで闘技場をでる。


「闘技場内の修復のため、次の試合まではしばしお待ち下さい!」


その言葉により、運営の精霊や魔族たちが動き始めた。

場内の灰をどこかへ移動させ、割れた地面をきれいに均す。

簡易的な補修も行われたが、損傷の激しい場所からは観覧者たちを移動させ、ポリマーは闘技場全体を支えていた魔法を解いた。

一部観覧席が突如崩壊を始める。

それを見て、驚き以外の反応を見せる一部。


「今回は派手だなぁ」

「魔法がかかってたのね」

「今年はポリマーがいるそうだし」

「ああ。あの。」

「帰ってきたのか」

「帰ってきてしまったな」


ポリマーは呆れられているような、感じだと、アリサは思った。


「では、会場の整備が整いましたので、準決勝第2試合を開始します」


王族専用観覧席からソフィアとマリ、2人が飛び降りてきた。


「お二人へ、運営より事務連絡です。

 会場の破壊を伴う魔法の行使を禁止します。とのこと。」


「はーい」


「そんなにやりすぎたかしら?」


マリが思い出しているのは、前回参加した武闘会のこと。

マリがある魔法を行使した際、闘技場全体が揺れ、観覧者を巻き込んで崩れた。

ピクシーはそのとき常設の崩壊防止結界を張っていなかったため、慌てて簡易的な衝撃緩衝結界を張った。それにより多少の怪我をしたものはいたが、死に至ったものはいなかった。

余談ではあるが、その崩壊に巻き込まれてカナデ作の初代アンドロイドが修復不能なほどに破壊された。


「準決勝第2試合、マリ前キルツ国王対ソフィア現キルツ国王、開始!」


怒りを買うのはごめんなため、なにも余分なことは言わなかった。


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