本戦。魔族と精霊。
しばらく(?)文字数少なめです。
勇者の試合は、圧勝だったそうだ。
もちろん勇者が。
相手はそれ単体では不可視の衝撃派を飛ばすことを得意とする精霊だったが、土埃を巻き上げることで可視化し、自慢の剣で目に見えるものならば何でも切り裂いて見せたという。
勇者曰く、「相手を殺さないようにすんのムズかった」そうだ。
勇者のいる2ブロックの会場は、観覧席がない森の中の開けた場所である。
観覧席がない代わりに本会上の一室でモニタリングされており、自由に視聴可能だ。
勇者が戦うのにもかかわらず強力なシールドを張れる精霊も手配できず、勇者の斬激その他を吸収もしくはいなすことのできるような装置もなかったため、もしもの時の被害を減らそうとの考えである。
審判の精霊が4人立っていて、その4人を頂点とした正方形の中がフィールドである。
その外に出たら失格というルールも、この会場には適応される。
精霊たちは各々を護りながら試合の行く末を見守っている。
時々姿を現すリヴァイアサンが、ひどい有様のときには地を均していった。
この会場がもっとも進行が早く、もうすぐ第3試合に入る。
今日は各ブロックで勝者を決め、明日に彼らで全体の勝者を決める。
そのため第5試合までしか行われない予定であるから、早々に決勝進出者が決まるだろう。
それが勇者なのか、はたまた別の誰かなのか、知るものはまだいない。
第3ブロックのチャドは懐かしき魔族の友らと戯れるように戦っており、特に親しかった、戦闘能力も拮抗している魔族とは制限時間内に決着などつくはずもなく、第2試合で両者敗退となった。
第4ブロックマリは審判のポリマーが疲弊していくのも構わず広域に影響を及ぼす魔法を行使し続け、第3試合進出は決定しており、ついでに現在はポリマーに恨み言を囁き続けられている。
このまま順調に決勝進出を決めるだろうと思われている。
ツカサは亜空間から帰還したとき、ボロボロだった。
勇者とかなり激しく戦っていたらしい。
さすがにそのままではいけないと判断したアリサがエミィに服を出してもらい、亜空間で着替えてきてもらった。
時々更衣室代わりに亜空間を使用するのは慣れたことである。
服はボロボロでも体には擦過傷くらいだったため、すぐに選手控え室へ送り出した。
まもなくツカサの第1試合が始まった。
相手は魔族だ。
一般的な魔族と違い痩躯であり、それほど長身でもない。
両の瞳は虚ろに開かれていて、顔は俯いている。
背格好に見覚えはないが、その立ち姿はアリサにはどこかで見た覚えがあった。
「あ……トーゴ」
顔の向きに気をつけてって言ったのに。
ピクシーの呟きが、それを裏付ける。
トーゴ・トゥサ。
ピクシーの弟でありソフィアとシエラレオネの兄である魔族。
昨晩出会ったときには、常に彼の弟であるベナン・フォン服の裾をつかんで行動を共にしていた。
おそらくは、ピクシーが魔法で外見を変えているのだろう。
ツカサは相手の動きを待とうとしたがトーゴが動きを見せないため、自分から動いた。
なにが起きたかはわからない。
だがツカサは地に倒れていた。
戦闘不能ではないようで、すぐに笑みを浮かべて立ち上がる。
「強いのか? あんた」
距離をとって前髪を掻き揚げながら問う声が、耳の通信機から聞こえた。
「──ジよりは……?」
横を向いて──耳をツカサの方へ向けて呟いた声を、ツカサのつけている小型装置の集音マイクが拾った。
「ジって誰よ?」
「兄……」
「そっか。兄がいるんだ、あんた」
言い終えると同時に、両の腕に巻いた布の端をすこしほどいて殴りかかった。
「トーゴさんって、お強いのですか?」
アリサの問いに、おっさんの姿をしたピクシーは首を傾げた。
「私には勝てぬ相手ですが、それは戦闘力というより相性のようなもので、本気で戦う姿を見たことはありません。」
いったん言葉を切り、再度成長したソフィアのような姿になって左手を自分の視界のツカサに翳した。
「混血ではありますが、魔族としての実力はお父上を上回っておられますし、弱くはないです。」
その手を握り、拳を軽く振った。
直後、トーゴは虚ろな両の目を開き、光に慣れぬ瞳をピクシーの方へ向けた。
「強いかと訊かれると、判らないとしか。
勇者と戦ってもおそらくはトーゴが勝つでしょうが、戦う場面も無さそうですし。」
ピクシーはにこやかに手を振った。
ツカサはよそ見をしたトーゴの首に蹴りを叩き込む。
トーゴは派手に飛んで本会場の闘技場を左右に分けている壁にぶつかり、地に落ちるとゆっくりと立った。
「──疲れたな……。痛いし……」
首を両手でさすり、顔を上げる。
ツカサはあまりにも当たりがよすぎて急に調子でも崩したのかと相手が心配になった。
言わずもがな、ピクシーが魔法を行使しているのだ。
審判のルシファーとリヴァイアサンにそうと気づかれないほどの緻密な制御の下で。
「ピクシーさん……」
アリサは言葉を飲み込みそうになった。
ピクシーがにこやかに闘技場を見下ろしていたから。
まるで、我が子が美しく舞っているのを眺めているかのように。
「……えと、トーゴさんに、何か、しました……か?」
明らかに先ほどとは動きの違うトーゴ。
まるでツカサが見えていないかのような。
ツカサの動きが変わったわけでもないというのに、なぜ急に攻撃が当たるようになったのか。
「トーゴには何もしておりませんよ?」
「じ、じゃぁ、ツカサ……には?」
「とっておきの魔法をかけました。」
「……干渉は、ツカサは、望んでいないと、思い──ます」
「ぶっちゃけ気付かれたらルール違反だけどね」
「戦闘力には全く干渉しませんし、気付かれないので大丈夫です。」
アリスの呟きにも笑顔で応えるピクシー。
「それに、トーゴが事前の報告なく本大会に参加していることも、規約違反です。」
「シエラレオネは?」
「一応事前に報告していましたし、あれは予選でしたから、違反ではありません。」
ピクシーはリヴァイアサンの方を見やった。
審判のリヴァイアサンの頭上には試合の残り時間が表示されている。
「どちらにせよ、この試合、時間切れの両者敗退で決定です。」
残り、数秒。
ツカサがトーゴの腕を布で絡めとり、自由を奪ってから蹴りを入れる。
トーゴは足で足をはじいた。ついで頭突きをかます。
ツカサは布の端を引いてバランスを崩させ、よけ切れずに倒れた。
試合時間、終了。
「時間切れ。──両者敗退です。」
リヴァイアサンの宣言で、2人は動きを止めた。
「終わったー……」
トーゴはその場に座り込む。
ツカサはトーゴの腕に巻き付いている布を解いた。
「大丈夫か?」
「……?」
トーゴは首を傾げる。
「とりあえず、早くでないと。」
トーゴは頷く。
だが、動こうとしない。
ベナンを待っているだけなのだが、それを知らないツカサは困惑した。
そしてトーゴの手を取り、引っ張りあげた。
「動けるよな?」
トーゴは頷く。
ツカサはそのまま手を引き、2人は壁際を闘技場のはしに向けて歩いた。
闘技場に、3人の魔族が入ってきた。
2人は次の試合の参加者、1人はトーゴを迎えにきたベナンだった。
迎えにきたのだが、トーゴが異人の少年に手を引かれているのを見て、こなくてもよかったかな?と引き返し、入退場口の脇にたってトーゴたちを待った。
トーゴをツカサから引き取るとベナンは今の試合での介入について尋ねるためにピクシーの元へ向かい、ツカサも敗退者はそのまま解散となるからアリサたちの元へ向かい、つまり連れだって共に観客席へ来た。




