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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第三章 ここは血の気が多すぎはしないだろうか
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少女の正体

今話から文字数が減る予定でありますby証明


獣人の少女は、どこかソフィアに似た長くて量の多い髪を揺らしながら戦っていた。

地面を蹴る度に大きな鈴の澄んだ音が優しく響く。

獣人だからかその動きは素早かった。

相手は大柄な魔族で力はあるが素早さは劣るため、少女に大きな一撃を食らわせることはできないでいる。

対して、少女もまた素早さはあるが力では劣るため、魔族の分厚い筋肉に阻まれて決定的な一撃を入れることはかなわない。

制限時間ぎりぎりまで勝負がつかなかったが、獣人の少女が、当たれば致命的となるほどの威力のこもった魔族の一撃を素早くよけて背後にまわり、その小さな拳を打ち込むと、魔族は倒れた。

隣にいるピクシーの解説によると、少女は身体強化系の魔法を併用していたらしい。

あの小さな拳でも並の魔族を凌駕するほどの威力を込められるのだとか。


「見ただけで、判るのですか?」


「慣れだよー。

 大地の魔力の流れともたらされた効果から推測できるだけ。

 あの方は昔から、あのような戦い方をされますし」


ピクシーはよく知ったような口をきく。

そのためアリサは自分の脳内で候補者のリストを作った。

ピクシーの知り合いならば姿は魔法により改変可能なため、外見で絞り込むことはできない。

だが魔法が使えるものたちも、残念ながら多くいた。

精霊ならば誰でも魔法が使えるからだ。


「お知り合い、です……か?」


「知りたいですか?」


自分より遙かに大きな倒れた魔族を背負って闘技場を後にし、救護室へ向かった少女の背を見送ってから、ピクシーは年寄り特有の温和な笑みをアリサに向けた。

ちなみに今の試合、勝者の名の読み上げはなかった。

アリサが頷くと、ピクシーはなぜか姿を変えた。

キルツ国王ソフィアを鏡写しにしたような、だが少し大人びている精霊の姿だ。

細い体のラインと中性的な諸パーツにより、性別は判断できない。

長い髪は獣人の少女と同じように高い位置でリボンによりひと括りにされていた。


「ちょっと待っててくださいですよ」


そう言い、ピクシーは闘技場の向かって右側、5ブロックの会場に顔を向けた。

その目線の先には、子供の姿をしたソフィアがいる。

開始の合図と同時にソフィアが軽く手を持ち上げた。

瞬間、闘技場の半分が突風にあおられ、砂埃が高く舞った。

ソフィアが効果の強い魔法を行使することを予期していたピクシーがこっそりと、だがかなりの強度で張っている不可視のシールドにより、それは観覧席やほかの精霊たちを襲わなかった。

だが闘技場内(シールドの内側)にいたルシファーはその許容範囲にいなかったため、自身で対処せねばならなかった。

自然物に影響を及ぼす魔法行使の兆候を感じて反射的に自分の周囲に水の幕を形成したため、砂埃による被害は受けなかったものの風によってとばされた水の飛沫でびしょ濡れである。

もっとも、ルシファーには喜ばしいことであった。

ソフィアに対した相手はジンの人間であり、今までこの会場では見なかった持ち運べる範囲の大型機械を携えていたが、それごととばされていった。

地面に叩きつけられる前にソフィアが風を操り衝撃を和らげ、ゆっくりと寝かせた。


「勝者、ソフィア様」


上機嫌なルシファーの宣言でこの試合は終わった。

ソフィアは気を失っている敗者を風で救護室へ送るついでにルシファーを乾燥させ、不機嫌にさせた。


「あ……」


ルシファーが反射的に氷剣を作りだしそうになるのをピクシーが魔法で熱を集めることにより阻止し、次の試合の参加者がそろった頃、アリサは思い出した。

勇者の試合がもうすぐだ。


「エミィ──」


『らじゃ』


エミィシステムに呼びかけると、短い応答の後、アリサたちの背後──シンの隣に勇者が姿を現した。


『ツカサはまだいい?』


「うん。」


耳に装着した装置から聞こえてきた声に対して頷き、


「勇者さん、参加者控えのところに送らなくてもいいのかな……?」


呟いた。


『転送してって言われたよ』


「じゃぁ、お願い、エミィ」


『らじゃー♪』


アリサが背後を確認すると、勇者は転送されていくところだった。

亜空間の中は現実と時間の流れが異なる。そのため、今、ツカサは亜空間内にいるが、亜空間の中ではツカサが一人でいるわけではなく、勇者となにかしらをしている。

勇者とツカサは亜空間内では同じ瞬間、現実では異なる時間に亜空間から現実空間へと戻ってくるのだ。

だからツカサにとって無駄な時間が生じない。

もし同じ現実の時間に戻った場合、ツカサは自身の試合までの間に暇を持て余すことになるだろうとの配慮から、そうしている。


「勇者は試合に間に合うのですね……。」


どこか残念そうに、姿をおっさんに戻したピクシーが言った。

もしかしたらピクシーは性格が悪いのかもしれないと思いながら、アリサは首を傾げた。

その隣に、第2試合までの間を抜けてきたアリスが座る。


「で、さっきのは誰だったの?」


耳に装着した装置を通してアリサとピクシーの会話を聞いていたアリスが訊いた。


「レオーネ様です。」


ピクシーの答えに、アリスは首を傾げた。

聞き覚えがあるようなないような。

余談だがこの動作、とてもアリサと似ている。


「レオーネ?」


「魔王様と言った方が分かりやすいですか?」


そういえば、どこかで聞いた。


「シエラレオネ?」


「はい。」


アリスの確認に、ピクシーは頷く。


「キルツではシエラと呼ばれることが多いですが、魔の国では愛称のようなもので、レオーネ様と呼ばれております。

──普段が獅子のような気高い風貌をしていらっしゃいますので、いつの間にかそれで馴染んでおりました。」


そう補足した。


「どっちが、本当の、姿……?」


「どちらも違います。」


アリサの呟きのような問いにも、ピクシーはきっぱりと言い放つ。


「本当の姿は何なの?」


「それは、(わたくし)にはわかりかねます。」


兄であるしシエラレオネの姿を変えているのはピクシーであるからきっと知っているだろうに、ピクシーはさらりと言ってのけた。


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