本戦開始の前座
字数が普段の半分ほどです。
「本日よりキジマ大陸統一武闘大会本戦を執り行います」
開会の時と同じ魔族が声を張り上げる。
「トーナメントは昨日発表したとおり。
審判はマルク並びにキルツ王家の、試合に参加していない者が行います。」
アリスとツカサは1ブロックで、そのブロックの中には魔王であるシエラレオネがいる。
2ブロックには勇者が、ライ・シンのいる3ブロックにはチャドが、4ブロックにはマリ、5ブロックにはソフィアがいる。
一回戦から他の参加者と戦う予定である。
「信じるべきは己が力のみ!
さァ! 始めようではないか!」
観覧客の中には声を上げたり指笛を鳴らしたりといった者も見受けられるが、開会式の時と比べ、あまり盛り上がりが感じられない。
「一回戦。
この会場では一度に2試合、サブ会場でも平行して1試合行うため、参加者は試合の進行具合を各自見て所定の場所へ向かうこと。
15分後、初戦を開始します。」
移動については、各会場所定の場所まで行くと精霊が魔法でもしくはジンの人間が科学の粋を集めた装置で転移してくれるが、1ブロックと5ブロックはこの闘技場で行われるし、トーナメント表を確認したところ初戦ではなかったため、アリスもアリサたちとともに観覧席にいた。
そこにはケルベロスとやっと仕事の終わった○○○、おっさんの姿をしたピクシーがいた。
ポリマーはサブ会場の審判に駆り出され、ツカサと勇者は時間を切り離した亜空間でじゃれており、王家の面々+モノマーは専用の観覧席にいる。
ライ兄妹は逆立ちしている兄が邪魔にならないよう最後列の後ろにある通路にいた。
ちなみにカナデは本日、負傷により救護室で療養中である。
「カナデ……さん、大丈夫でしょうか……──?」
「大丈夫じゃない?」
「日常茶飯事。」
心配するアリサに、興味のないアリスとケルが応える。
「大丈夫だって」
「ドロシー強かったなぁ」
「ドアンもだったけど」
昨日遅くにキルツ王城にたどり着いたカナデだったが、明け方王城を護衛の女性型アンドロイド──ドロシーを伴ってこっそりと出たとたん、待っていた魔族に襲われた。
ドロシーが対処したためそれが原因の怪我は負わなかったが、やっと居場所を突き止めたらしい男性型アンドロイド──ドアンが時悪くそのとき襲いかかってきた。
ドロシーは魔族の対処で手いっぱいだったがすぐにそちらを処理してドアンを止めにかかり、間違えてカナデに一発食らわせたところ追加でドアンからの一撃もはいり、生死の境をさまよった。
ドロシーにふざけてナースモードなる無駄機能をつけていなければ、今頃息を引き取っていたかもしれない。
その光景を慣れない環境で寝付けず散歩をしていたアリサと付き添いのケルベロス、勇者との戦闘から何かを学び克服しようと王城の門の上で一人特訓をしていたツカサは見ていた。
変に臆病なアリサはトラウマになりそうなその光景をふとした拍子に思い出し、周りの空気を湿らせている。
「精霊が魔法で治癒してんでしょ?」
「そう……です、ね」
そうこうしている内に開始の銅鑼が打ち鳴らされ、闘技場の向かって左中央で向かい合っていた魔族二人が動き出す。
一瞬後には一方の魔族が壁に叩きつけられ、もう一方の魔族は空高く舞っていた。
向かって右では両端に立っていた精霊が遠距離魔法を打ち合い、こちらも共倒れしていた。
舞い上がった魔族が地に叩きつけられると、
「両者戦闘続行不能により、引き分け、敗退。
──次の試合のものは準備を」
左右に目をやり、向かって右の審判のルシファーはそう言った。
そんな感じで殆どが両者敗退で短時間の試合は続き、アリスの番。
銅鑼が鳴らされるのは初戦だけで、第2試合からは無音のスタートだった。
アリスの相手は魔族でも精霊でもない。ジンの人間だろう。
アリスは壁際に立ち、相手は中央に立った。
スタートの合図があると、駆け寄ってきた相手の足を引っかけ、軽く肩に触れた。
それ以上は観覧席にいるアリサには見て取れなかった。
だが、それっきり相手は動かなかった。
「勝者、アリス。」
それを見て審判のリヴァイアサンが告げ、ピクシーの方へ目をやる。
意を汲み、ピクシーは転移魔法を使い、倒れている人間を救護室へ送った。
アリスが闘技場を離れると、入れ替わりに次の試合の参加者が場内に入る。
見覚えのある、あの獣人の少女だ。
大きな鈴のついたリボンで髪をまとめている。
少女は笑っていた。




