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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第三章 ここは血の気が多すぎはしないだろうか
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王城の夜

「……了解。」


リヴァイアサンを鏡写しにした姿のピクシーが誰かから思念を感じ取り、転移魔法を行使した。

ピクシーの使う転移魔法は物質を光と同等以下の速さで移動させるものであるから、間に越えられない障害物があったりすると使用できないし、転移を終えるまでにある程度の時間もかかる。移動の際にかかる圧力とか慣性とか諸々は無視。

今回は対象物もピクシーも屋外にいるために行使可能だ。

それとは別にピクシーの特性として、光が少しでもないと魔法が使えない。


「あ、ユウシャとシエラ!」


転移されてきたのは、勇者とシエラレオネ・フィン・マルクだった。


「久しぶりだねソフィアちゃん!」


ソフィアに抱きつこうとした勇者は、リヴァイアサンに魔法による小規模ながら側にいたシエラレオネに被害が及ばない最大出力の落雷で意識を刈られた。

勇者に対しては手荒く意識を刈るのが手っとり早く楽であると知っているのがキルツ王家の重臣たちである。

この程度ではすぐに回復すると知っているシエラレオネやソフィアは、心配こそすれ治療などはしない。

それからまもなく、顔たちのよく似た魔族が2人とライ・シン、ケルベロス、それにツカサが国共の明き森をこえてキルツへ入ると、ピクシーが感知した。


「あ、ベナンたち。

 こっちだよー」


それを聞いてソフィアとシエラレオネがハモる。


「え、兄様(あにさま)たち?」


「え、兄様(にいさま)たち?」


魔族2人はピクシーの弟でありソフィアとシエラレオネの兄であるトーゴ・トゥサ、ベナン・フォンである。

ピクシーの言葉を受け、ベナンはまだこのキルツ国内に住んでいた頃の記憶を頼りにピクシーが転移魔法を使いやすい場所へ向かった。トーゴも場所がわかるが、ベナンの服の袖を掴み、後ろからついていく。

他の面々はピクシーの思念が聞き取れなかったため、彼らの後を追う。

トーゴ、ベナンは魔族であるが、強力な精霊の血を引いているためか、精霊のように離れた場所からの思念を聞き取ることができた。

ただし自分たちに向けられたもののみである。

ピクシーは7人同時に、勇者たちの時と同様に転移魔法を行使した。


「久しぶりだね〜。2人とも元気?

 特にトーゴ」


ピクシーが2人に気安く声をかけた。


「変わりないです。兄さんもお変わりなきようですね。」


ベナンはそう言い、トーゴは頷く。


「声出しなさいってば」


ピクシーに言われ、渋々といった表情でトーゴは声を出した。

その両の瞼は重たげに下りている。


「……元気。ジも変わらないね。」


トーゴは兄弟を、母であるマリと同じように呼ぶ。

理由はその方が短いから。だ。

特にシエラレオネなんかは。


「……了解です」


ピクシーは再び誰かの思念を受け取り、転移魔法を行使した。


それによって久しぶりの再会を果たした兄弟たちの目の前に現れたのは、マルクの面々とはこれまた久しぶりに会う両親だった。

特にシエラレオネとは長く会っていなかった。


「久しぶりね、フィン」


再会の挨拶代わりにマリに睨まれ、シエラレオネは畏まった。


「お久しぶりでございます、母様(かあさま)父様(とうさま)


「元気そうでなによりだけどね、シエラ。予選に出てただろう?」


チャドは怒り気味のマリを落ち着かせながら、シエラレオネに確認をとった。

シエラレオネは居心地悪そうに目を反らす。

それをチャドは肯定だと受け取る。


「予選は多くのものが通過できるよう私たちは出てはいけないと言われただろう?」


「……言われました。」


「バールにまで協力させて、どういうつもりだい?」


「……。」


バールとは、ピクシーのこと。

ピクシーの本名はバール・ジ・コートであり、本来の姿と共にそれを知るものは少ない。

そのためついた通称が精霊(ピクシー)である。


「バールも、どうして協力したんだい?

 そこは兄として止めるべきだろう」


「家臣として助力すべし、と判断いたしました」


ピクシーはシエラレオネの斜め後ろに立ち、述べた。


「君は家臣じゃないだろう。それに魔族でもない。」


「だって面白くなりそうだったんだもん」


「本音を漏らすのが早いわ。ジ」


マリは面白がってこの応酬の続きを楽しみにしていたのだが、あっさりとピクシーが本音を明かしてしまい、期待を裏切られ、苦笑した。


「父との応酬はつまらないもので。」


ピクシーも笑みを浮かべた。




完全にアウェイな家族外の者たちは、復活した勇者の話をきいていた。

時々首や指の関節を鳴らすのは彼の癖のようだ。

モノマーとポリマー、それにケルベロスの姿は見えなくなていた。


「でさー、やっぱ異世界に召還されたら勇者になって魔王と戦うのって定番じゃん?」


アリサとツカサは強く頷く。

アリサの横で、アリスは首をひねる。


「だからいざ魔王討伐!って思ったら精霊(魔法使い)は協力してくんないし剣士は見あたんないしジンの人間(科学者)は必要ないしで結局単独で行ったんだけどさー、」


そこで勇者がチャドに目をやるものだからアリサとツカサもそちらをみやる。


「いざ魔王のとこまで行ったらもう魔王やめるから倒すなら次の奴にしてって代替えしちゃうしでさ、もうグダグダで」


アリサとツカサは目を見合わせて笑った。

アリスは呆れの混じったため息をつく。


「その新しい魔王倒してから召還した人間んとこに戻って報告してから魔王討伐記念のお祝いでツケで飯食ってから次の魔王の即位式にでて〜、用もないしまた帰ろうかと思ったら途中キルツでソフィアちゃんを見かけました!」


だから今牢獄に住んでます。と勇者は話を締めくくる。


「その新しい魔王は、倒さないのですか?」


アリスがその問いに驚く。

現魔王はシエラレオネではないか。


「え? だってシエラちゃんだよ?」


この場に当人がいるのに配慮が足りなかったと恥じ、アリサは話題転換しようと口を開いたが、勇者の言葉には続きがあった。


「ちっちゃいし、ソフィアちゃんのお姉様だし、かわいいし、ついでに悪いことしてないしさ」


悪いことをしていないのはついでのようだ。


「そうですね……」


「それと、強いし」


「強い?」


ツカサがその言葉に反応する。

今まで黙っていたシンも興味を示す。


「うん。ソフィアちゃん程じゃないけど前の魔王よりはよっぽど。」


「……戦ったこと、ありますか?」


「本気ではやったことないよー」


方向音痴組を除き、キルツ、マルク、ジンの有力者たちがキルツ王城に集結した頃には、もう日は暮れかけていた。

だが明日の夜明けまでは、まだたっぷりと時間がある。


「……勇者、さん」


ツカサが戦闘モードになりつつあるのを感じ、アリサはこの話を無理矢理にでも止めようと謀ったが、力不足だった。


「ん〜……その呼び方やめてくんない?」


「なんと呼べばいい?」


「ツカサ。」


饒舌になってきたツカサを止めようと、咎める意を込めてアリスは彼の名を呼んだ。

だが、ツカサの耳には届かない。


「ガルナ。

 この世界ではそう名乗ってるから。」


「では、ガルナ」


ツカサは微笑んだ。

これから楽しみが始まるとでも言うように。


「いきなりだな」


勇者は楽しそうに笑った。

これから面白いことがおこるとでも言うように。


「ではガルナさん」


「……別にどっちでもいいけど。──何?えっと」


「ツカサです。」


「何? ツカサ」


「私と戦いませんか?」


「なして?」


「暇だからです。」


「おぉう、戦闘狂の理屈」


「俺も入れて!」


シンが横から口を挟む。

アリスは流れに戸惑う妹の肩に手をおき、自分の方へ不安げな顔を向けたアリサに、諦めるしかない、と首を左右に振って見せた。


「嫌なら構わないですが」


(いや)、やろうか。

 ちょうど暇だし、牢獄ん中だと動き回れなくてさ、明日からの本戦の肩慣らしに。

 久しぶりにシンともやるか。」


勇者は音を立てて肩を回した。


「あまり国王様たちを危険に晒さないで下さい」


リヴァイアサンが楽しそうな3人の気勢を削ごうとするが、彼らの耳には入っていない様子。

アリサはせめてツカサが思いっきり動けるようにと亜空間製造マシーンを準備した。


「――エミィ、よろしく」


エミィシステムに稼働を依頼すると耳に装着した翻訳機兼通信機からは、アリサにだけ聞こえるよう返事があった。


『時間も切っとく?』

「うん。」

『準備完了』


「……早い――です、ね。」


『準備してたから』


エミィシステムによってアリサにだけ視認する事が可能な光のキーボードとスクリーンが浮かび上がり、アリサが操作するとスクリーンに文字が浮かんできた。


 時間を切り取る亜空間 ── 製造開始……完了

  切り取る座標    ── 確認

   移す座標     ── 確認

    転写      ── 開始……完了

    時間軸      ── 固定……停止


「亜空間、製造完了──キープ」


急にあたりが暗くなり、警戒態勢を取った勇者と、慣れた光景に驚かないツカサ。シンは気にも留めていない。

今、亜空間の中にはツカサとシン、勇者しかいなかった。

亜空間の中は、白い床がどこまでも続き、壁や天井などははっきりとせず、ただ黒いだけ。


「ツカサ、そこ、アリサの亜空間の中だから、時間も気にしないで良いって。」

「了解♪」


アリスからの通信で、ツカサはここが亜空間の中だと確信する。


「どうなってんだ? 急に……」


「あ、草が無くなってる」


シンはやっと変化に気付いた。


「ガルナ、シン」


「なんだ?」


「なに?」


「ここはアリサさんの作った亜空間の中です。時間も切ってあるそうですから、気にせず戦える」


「害はないんだな?」


「はい。」


「けっこう動いても良い?」


「もちろん」


「じゃ、始めるか。」


勇者は刃をひいてある剣を抜き、ツカサに向けて構えた。

シンは腕の関節を曲げ伸ばし、ツカサは腕に巻いてある布をきつく締める。


「シンはともかく、ツカサは武器とかないの?」


「ええ。」


「でも遠慮なく行くから」


勇者の姿が消え、ツカサが地を蹴って移動する。

シンはただいつものように両手の小指で歩いているようにしか見えない。

何が起こっているのかは分らないが、勇者の身に着けている鎧は傷ついていき、ツカサが腕に巻いている布も破損していった。

シンの衣服も乱れていく。

ときどき静止する三者の顔は、笑んでいた。





「中では何やってたんだろうね。」


「……見る?」


亜空間内で起こった出来事はすべてエミィシステムに記録されている。

知りたければすべてがわかるのだが、面倒なので誰もしない。


「いいや」


今回の亜空間は現実世界と時間を切り離していたため、亜空間に3人が取り込まれてから、戦いが終わり亜空間を消去し、3人が現実世界に戻って来るまでが一瞬なのだ。

その亜空間ではどれだけの時間か分らないが現実世界では一瞬のうちに、勇者は鎧を大破させ、ツカサは満面の笑みで両者とも眠っていた。シンは笑みながら天を仰いでいる。

今回の亜空間内で起こった出来事は無かった事にならない。

そのため、勇者の鎧は時間をかけて作り直さねばならないし、ツカサの腕や腰に巻いている襤褸屑と化した布も代用品を見つけねばならない。

シンについては問題になるような怪我や破損などはなかった。


「ユウシャー」


チャドのお説教タイムを強制終了させ、ソフィアが勇者を呼んだ。

だが返事はない。


「あれ?」


疲れ果てて眠っているのだから当然だ。


「何があった?」


「勇者はツカサさんと、ついでにシンと戦闘後、疲れて眠ってしまわれました」


ソフィアの問いに答えたのは、普段のおっさん姿のピクシーだった。

まるですべてを見ていたかのような物言いだ。


「ピクシー、さん」


アリサはその物言いが気になって問う。


「なんでございますか?」

「なんで、わかる……の?」

「秘密です。」


ピクシーは好々爺然とした態度で人差し指を口の前に立てた。


「そろそろ夕食にいたしませんか、皆さま」


レヴィアタンがどこからか突然現れ、言った。


「準備はできてる」


ルシファーもその横に現れる。


「兄者も、アリサさんたちも共にどうぞとマリ様が。」


ポリマーも現れた。

どうやら夕食の準備に駆り出されていたらしい。




「ついでに泊まっていくかい?

 明日は皆で共に闘技場まで行けばいい」


食事中にチャドがそう思いつきで発言したため、明日はそろってピクシーに送ってもらうこととなった。


「――だれか、忘れてる気がする。」




カナデとメイはそのころやっとキルツ王国内に辿りつき、事情をよく知る親切な精霊に王城までの道案内を受けていた。

途中まで迎えに来ていたケルベロスと合流し、ようやくキルツ王城に辿りついて持ってきた品物を渡し、こういったことに慣れきった担当者に食事を用意され、そのまま王城に宿泊することとなった。


それぞれが明日から始まる大陸統一武闘大会へ思いをはせていたりいなかったり。

休日が本戦よりもながい描写になんてならないよう、頑張ります。

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