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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第三章 ここは血の気が多すぎはしないだろうか
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収束する一家


キルツ王城の見える位置にきたとき、レヴィアタンの姿がポリマーの横に現れた。

ポリマーとモノマーが並び、その後ろにアリス、アリサがついていっているため、先頭の2人に並んだ形となる。


「……ピクシー、何の用ですか?」


横も向かずにポリマーが尋ねる。

アリサは驚きに目を見開くが、モノマーもアリスも動じていない。

モノマーは慣れで、アリスは無関心だ。

現れた彼はレヴィアタンではなく、レヴィアタンを鏡写しにした姿をしているピクシーをさらに鏡写しにした像を投射したものだった。

それをポリマーは簡単に見破る。


「王城に用かと思いまして。」


『ソフィアに会いに行くのです。』


モノマーがそう応えると、モノマーの隣に像が移った。


「ソフィア様は中庭ですよー。」


『直接向かってもいいのですか?』


直接というのは、王城の正面にある正門を通らなくてもよいのかという意味だ。

かなり親密な仲でもなければ、正門以外の門からの進入は許されない。

だがソフィアにとってのモノマーはかなり親密な相手であるとピクシーは認識しているため、かなり軽く頷く。


「ソフィア様は許可すると思いますよー」


『マリさんはいるのですか?』


マリは時々モノマーが正門を通らずに入城したことを知ると軽く咎める物言いをするため、確認をとる。


「今はキルツにいらっしゃいません。

──たぶんチャド様と共にマルクの方へ行ってらっしゃるかと。」


『マルクで何かあったのですか?』


心配そうに尋ねるモノマーに、笑顔で首を振る。


「久しぶりにシエラに会ってつれてくると言っておりました。」


『シエラレオネはキルツにいないのですか?』


「実は勇者とキルツ王国内にいるのです。

 マリ様とチャド様はそれを知らないので、今夜は共に過ごしたいからマルクへ呼びに行くのだそうです」


ピクシーは時々、こういったイジワルをする。

マリやチャドもあまりこういったことに対し本気で怒ることはないため、それを承知の上である。


『では直接向かうのです』


「ポリマーが飛ばしてあげれば早くつくのに」


ピクシーの呟きに、ポリマーは睨みを返した。

そのせいではあるまいが、ピクシーの姿が霧散した。

確かにポリマーにはそれができるが、モノマーも要請しないし、面倒であるからやりたくないと思っていたりする。




リヴァイアサンは直立状態で王城の裏門の方へ顔だけを向けた。


「どうしたーの?」


ソフィアはよく晴れた空の下、昼(?)寝から目覚めたところで、両腕をおもいっきり伸ばした。


「モノマーがきたようでございます。」


その言葉に、寝ぼけ眼をこすって跳ね起きる。


「いくっ」


丈の短いドレスに付いた草葉をはらってやりながら、レヴィアタンを鏡写しにした姿をしている兄──ピクシーは駆け出そうとした妹──ソフィアを止める。


「モノマーならこっちに呼びましたよー」


「じゃぁ待つっ」


ソフィアはその場に座った。

まもなく、モノマーを先頭に4人が姿を見せた。


「モノーっ」


ソフィアはモノマーに飛びつこうとしたが、間にポリマーが立ち、背後からリヴァイアサンが魔法を用いて引き留めることによりそれは叶わなかった。

リヴァイアサンがソフィアを止めたのは、ポリマーから発されるイライラオーラを受けてのことだ。

普段、殆ど感情を表に出さないポリマーにしては珍しく、リヴァイアサンは戸惑っていた。


『ポリ、あんまり怒っちゃだめなのです』


「申し訳ありません、兄者」


モノマーが戸惑っているリヴァイアサンをみてポリマーを軽く叱る。

するとポリマーは即座にイライラオーラを霧散させた。


「ポリマー、どうしたの?」


「なんでもございません。」


「本当に?」


「本当に。」


ソフィアが一歩踏みだそうとすると、ポリマーからイライラオーラが滲み出る。


「わらわ、何かした?」


「何も。」


ポリマーはただ、せっかくの休日をモノマーと水入らずで過ごせないことに苛立っているだけである。

それがここ数日間の(不本意な)大会運営の手伝いによって溜まっていたストレスに相乗効果をもたらされ、表面化していた。


「ルシファーはいる?」


「池にいますよー」


ソフィアの問いに、ソフィアを鏡写しにした姿のピクシーが答える。

ルシファーが碧き精霊と呼ばれる所以は、碧い水面に浮かんでいる姿がよく目撃されるためである。

彼の用いる魔法は水に関するものが多く、リヴァイアサンが天候に影響されるように、彼もまた池の状態に影響される。

慣れ親しんだ水に触れていると安らぐのだそうで、気がつくと王城の敷地の外れにある森内の池に姿があることも多い。


「ポリマー、モノマーと話したいから、ルシファーのとこにいってて」


ポリマーはあまり感情を表に出さないが、それはモノマーを真似ているからであり、本来の彼は直情的なタイプだ。

その点ルシファーと通ずる。ポリマーがまだキルツ王家に仕えていた頃は、よくじゃれあってピクシーにとめられていた。


「できかねます。」


ポリマーはソフィアの言葉を拒んだ。


「変なことはしないでね?」


ソフィアはにこっと笑った。


「善処します。」


ポリマーはにこりともしない。




「おや?」


「見覚えのある子がいるわね」


数時間前、キルツ前国王夫妻は隣国マルク、通称魔の国の中心にある王城を訪れていた。


「チャド様……!」


来訪を告げずに訪ねたため、チャドに気付いた門番は慌てて敬礼する。


「畏まらないでおくれ。

 私はもうこの国の王ではないのだから。」


門番の突然の行動に驚き、シンの代わりに入場のための手続きを行っていたツカサと3人の子供たちは門番の視線を追った。

シンは慣れているので「よっ」と片手をあげて声をかけた。

そこにいたのは、殊勝な表情をたたえる精霊、キルツ前国王マリ・セン・キルツと、一般の魔族と比べると肌の色が白い元マルク国王チャド・セン・マルク夫妻であった。

ツカサは彼女らの素性を知らないため、門番の行動から偉いひとなのだろうと推測しただけだ。


「久しぶりだね、ライ・シン。メイさんは?」


チャドはフレンドリーに話しかけた。


「キルツの方に服届けに行ってる。

 こいつらは代理」


「その子は?」


シンはともかくベル、ロス、ケルのことはジンの周辺国の偉いひとたちに知れ渡っているから、マリが指しているのはツカサ1人だ。


「ツカサ。

 最近来た異民らしいよ」


ツカサはぺこりとお辞儀した。


「それが君たちの挨拶なのかい?」


チャドに尋ねられ、ツカサは無言で頷く。


「そうか。古族に通ずるところがあるようだね。

 よろしく、ツカサ」


そう言ってチャドは手を差し出した。


「魔族は初見の時、手を握りあってお互いの力量を測るのが一般的なんだ」


そう言われてツカサはチャドの手を握った。

チャドは元魔王でありながら、魔族の中で優れているとは言い難い。

それは手を握る強さも強くないとツカサに思わせるほどだった。

逆にチャドは、異民の少年の握力に驚いていた。

そこらの魔族に引けを取らないほどの強さであったためだ。

そのやりとりの後、


「よろしくね。

 精霊には特に習慣はないわ。」


マリは笑んだ。


挨拶の後にマルクの門番にシエラレオネへの面会を求めると、今は不在だと告げられた。


「あら、フィンはいないの?」


キルツ前国王マリの言葉に、


「レオーネ様は現在、勇者と行動を共にしていると聞いております。」


マルク王城の門番をしている体格のそれほどよくない魔族は、仁王立ちのまま応えた。

外見はこれでも王城の門番を任されるのだからそこそこ強い。

門番の役目は入城者のチェックなど事務的なものもあり、そちら能力の方が優先されるためそこそこの強さではあるが。


「そうか。ありがとう。

 もし帰ってきたら、キルツの方へくるよう言っておいて」


とはいっても、シエラレオネは殆ど王城の敷地内へ門から入らない。

塀を飛び越えたり、地下道を通ったり、時には転移魔法で送ってもらったり。

だからこの申しつけに殆ど意味はなかった。


「はッ。申し仕りました。」


だがそれを知っていてもなお、元マルク国王でありマリへ婿入りしているチャドが雑に言うと、門番は畏まって敬礼した。


「あら、あからさまな対応の違いね?」


マリは、その大きな胸を強調するかのように腕を組む。

これは彼女の癖である。

苛立ち、黙らせようとするときも、面白がり、ひっかき回そうとするときも、これから何らかのアクションを仕掛けようとするときの癖である。


「仕方ないでしょう。マリさんは魔族ではないんだから」


彼女の魔法は繊細なことが苦手だから、マリが魔法を使うと、王城を囲むようにあるマルク中心街一体が洒落にならない惨状になる。

魔法(キルツ)科学(ジン)による助けでも借りない限り、体力バカ(魔族)がどれだけ動き回っても一月では修復不能なほどだ。


「負ける気はしないけれど?」


好戦的なマリの発言に、チャドは焦りながらも止めにかかる。


「魔族は体力バカだから、魔法の力は別ですよ?」


チャドは言いながら、見下すように見上げるマリの瞳に負けじと表情の維持に気を使った。


「自分の種族をバカにしていいの?」


呆れたようなマリの言葉に、チャドは頷く。


「いいんです。

 力さえあれば誰でも魔族なんですから」


「──それもそうね。

 精霊だって魔法さえ使えればいいのだし。」


「そう言えば、シンたちの用事は何だったんだい?」


「メイの服を届けに。」


「じゃぁ、キルツの方にも今頃届いている頃ね。」


マリは長い髪を翻して体の向きを変えた。


「じゃ、もう行くわ。」


「私もこれで失礼するけど、レヴィアタンにもキルツへ来てって言っておいて!」


言い放つとそのまま歩きだしたマリにおいて行かれないよう、チャドは慌てて門番に一言告げてから後を追った。


「シンたちも、暇だったらキルツの方の王城へおいで!」


仲睦まじい夫婦は歩いてマルク中心街を横切り、国境である明き森を通ってチャドの愛用している武器の整備を頼むためジンの鍛冶屋に寄ったが、店の主は留守であった。

鍛冶屋の主人○○○が今、大陸統一武闘大会会場である勇者専用の牢獄兼ピクシーの庭兼闘技場にて臨時の仕事に追われていることを、彼らは知らなかった。


○○○はカナデたちと共に闘技場を訪れ、一時予選で使う装備一式(重くて防御力の高い鎧)をその場で複数作り上げた後に暇ができたため勇者の装備の調整を行っていたところ、いつの間にかそれを見ていた者が集まってきて長蛇の列を作ってしまったため、一時予選開催中の日没後に代金有りで臨時に武器整備店を開いていた。

申し込まれた仕事を片っ端から消化していき、それでも終わらなかったために本来ならば鍛冶屋(仕事場)に戻って新たな武器の制作に勤しむ予定だったこの日もカナデへの恨み言を漏らしながら明日以降の本大会参加者の装備の手入れをする羽目になっていた。



シンとツカサ、ケルベロスはマルク王城の装備品担当調達員に持ってきた服を渡して報酬を受け取り、そこに出くわしたキルツ、マルク両国現国王の兄たちがこれからキルツへ向かうというので同行した。

2人が門を入ってすぐのところにある広場で訓練中だったマルク軍員と共に実戦形式の模擬戦に飛び入り参加したりといったこともあったが、特筆すべきことは他にない。




「迷った……。」


「むこうから来た?」


カナデとメイの方向音痴組は未だキルツ王城へ辿り着けずにいる。




「シエラちゃん、ソフィアちゃんに会いに行かない?」


「リョクのところか?」


勇者とキルツ王国内ツルギの町で散歩をしているシエラレオネは今、本来の姿をしている。

ソフィアとそっくりな顔の両サイドの鈴付きリボンが一歩踏み出す度にぽんぽん跳ねるのを、勇者は好ましく眺めている。


「ピクシーもいるが、大丈夫か?」


その一言で表情が曇るのは、牢獄に入るまでの経緯があったためだろうか。


「あ……うん。」

「じゃ行こっか。」




かくして、方向音痴組を除き、キルツ、マルク、ジンの有力者たちはキルツ王城に集結することになった。


○○○は人名です。

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