予選 最終日
3日目、無事(?)2次予選2種目めのアンドロイド破壊をクリアし、やや注目を浴びながらも4日目。本日ツカサとアリスが参加するのは、人工石の破壊。
ツカサはおそらく素手もしくは素足(どちらも普通の布を巻いてある)でたやすく割るだろうから、問題はアリスのほうだ。
アリサから補助具(動きにあわせて特定の方向へエネルギーを集中させる機械)を受け取り、左腕に装着してはいるが、ツカサは心配だった。
アリスのことだから手を抜いてしまうのではないか、と。
ただでさえ武闘会参加中はアリサの側にいられなくて苛立っているのに、選択した種目はおもしろくもない無機物破壊だ。
「……アリス、さん」
「何?」
ツカサが遠慮がちに声をかけると、アリスはツカサの予想以上に苛立った声で反応した。
「──いえ、何でもありません。」
だからツカサはそれ以上何も言うことはなかった。
2次予選3日目開始の合図から、集まった順に人工石割りに挑戦していき、ツカサはすぐに素手で殴ってクリア。
「硬い……かな?」
少し予想よりも硬かったようで、終了後少しの間手を振っていた。
アリスもすぐにクリア。
だがしかし、アリサに借りた補助具の効果なのかアリスの使用法が間違っていたのか、人工石は再利用不能なほどに粉砕され、ついでに置いてあった地面も陥没した。
それを見ていた他の参加者からは、
「シンよりはマシだな。」
との声もあがった。
ライ・シンは1種目めで人工石割りを選択し、2本の指で軽くつつくと一瞬にして人工石が割れ、その下の地面にも谷ができた。
彼が参加登録をした時点からこの状況は予想されていたため、被害が最小限に押さえられるよう、レヴィアタンとピクシーが事前に人工石割りの会場と外を隔てる結界を張っていた。そのため被害は少ない。
できた谷も2次予選1日目終了後にキルツ王国軍所属の精霊とマルク私兵団が協力して跡形もなく修復した。
ちなみにマルク私兵団とは、マルク王国内に存在する、趣味で国境を警備、守護している団体のことだ。
大陸の催し物には大概勝手に参加し、運営を勝手に手伝っている。
所属している者は脳筋の魔族には珍しく、話の通じる者が多い。
あくまでも趣味であり、報酬はない。魔族の力を見せつけることが目的である。
早々にやることがなくなってしまい、アリスとツカサは観客席のアリサの元へ向かった。
メイン闘技場は不均等に2つに仕切られ、広い方では開始の合図とともに両腕を破壊された男性型アンドロイドとライ・シン、狭い方では昨日アリサとカナデが修復した女性型アンドロイドとその他の参加者の乱闘が行われていた。
男性型アンドロイドは対ライ・シン用に作られており、女性型のそれよりも小型ではあるが強く、頑丈である。
ツカサは局地的に凹凸の激しくなっている地形や辛そうにしている結界張り担当の精霊には目もくれず、男性型アンドロイドに目を奪われている。
「……戦闘したい──」
「暇なら戦うかぁ?」
ツカサの無意識の呟きに、自分の作ったアンドロイドたちの動きに違和感がないか砂埃を邪魔そうによけながら観察していたカナデが応える。
「いいんですかっ?」
身を乗り出して観戦していたツカサはパッとカナデの方を向いた。
「破壊されなかったらなぁ。」
だがその言葉を聞き、表情を一変させた。
その際ひときわ強く舞った砂埃で少し咳込み、涙も見せる。
昨日アリサたちが女性型アンドロイドを修復している間殆ど、ツカサはライ・シンと本気ではない遊び半分の力比べをしていた。
その際に彼の桁違いの力を身を持って知ったので、自分が戦うことは叶わないと悟ったためだ。
男性型アンドロイドは、夕暮れ時になってようやく立ち上がることができなくなった。
女性型アンドロイドの方は軽やかに逃げ続け、日没後も動き続けていた。
「ただいまを持ちまして、キジマ大陸統一武闘大会、2次予選通過者は確定いたしました。」
開会の時と同じ魔族の、開会の時とは異なり平坦な声が、予選の終了を告げた。
「明日は休息日となっております。
明日の午後からトーナメント表を掲示しますので、各自確認し、2日後、本戦各トーナメント実行会場に集合してください。
試合開始時刻に間に合わなかった者は問答無用で失格となりますので、ご注意ください。」
それを聞きながら、女性型アンドロイドに群がっていた参加者たちは散っていく。
「バッジが手元にある方は各会場にいる運営のものに渡してください。
理不尽だが、トーナメント開始時に1つでも手元にある奴はルール違反で失格とするんで、くれぐれも持ち去らないように。
無くした奴は正直にカナデをぶっ飛ばすこと。以上、解散」
最後のセリフに異を唱えるものは、(カナデ以外)いない。
「大丈夫、ですか……?」
観客たちが殆ど去った後、アリサに声をかけられたツカサは、不均等に仕切られた闘技場の広い方──無惨な状態になっている方を見下ろしつつ、動かなくなってしまった男性型アンドロイドを見ながら持っていたバッジをアリスのものも含めて近くにいた運営委員に渡した。
カナデは「バッジを無くしたならカナデをぶっ飛ばせ」の言葉の直後、異を唱えながら女性型アンドロイドを伴って姿を消している。
ツカサはその時から今まで殆ど動かなかった。
男性型アンドロイドが動かなくなったことに衝撃を受けているわけではないだろう。
ではなぜ動かなかったのか。
その理由は、未だ動かず闘技場の中にあった。
ライ・シンだ。
男性型アンドロイドが立ち上がらなくなってから、その場に座り込んで辺りを見回している。
だが、それほど深い意味があるわけではない。
シンはメイかカナデを待っているが、その場にいる必要はないし、ツカサはその行動の理由を考えているが、聞けば済むことだ。
ツカサには悪い癖がある。
どんなにどうでもいいことでも、場所や状況に関係なく気になると考えずにおれない。
それは自分の納得する答えが導き出されるまで続くし、考えている間、他のことが手につかなくなる。
たとえ正しい答えが外部からもたらされようとも、自分が納得しなければそれをやめない。
そのきっかけは様々で、どこでそれが始まるか誰にも解らない。
「ツカサ……さん」
再び考える姿勢に移行したツカサの肩を、アリサが揺すった。
ちょうどその時シンがいつもの姿勢──小指での逆立ち──で移動を始め、それによって何かしらの答えが導き出されたようで、ツカサは普段のように戻った。
「すみません、お待たせして」
急に動かなくなり心配していたアリサは安堵の表情を見せる。
アリサの後ろからアリスが不機嫌な眼差しを向けている。
カナデにおいていかれた子供たちも、その横で同じようにしていた。
ミズキは毎度のごとく呆れている。
いつの間にきていたのか、ポリマーとモノマーも合流している。
「帰りますか?」
アリサは闘技場の方を見た。
「僕……、あのアンドロイド、を、見てから、帰る……から」
「アタシはアリサについてく。」
「私は先に帰らせていただきます。」
ミズキはもう疲れたといった表情を作った。
「わたしたち、泊めてもらってもいい?
カナデがどっか行ったから、泊まるとこない」
子供の一人──ロスがツカサに向けて言った。
ツカサはアリサたちの方へ顔を向ける。
「私は皆さんに任せます。」
「アリサがいんならアタシはいいよ」
「僕は、いいと思う、よ?」
「でしたら、いいと思います。」
ということで、今日は3人の子供たちが泊まることになった。
アリサはエミィにそれを伝え、間取りを変更させた。
「では、またあとで。」
ツカサはミズキと子供たちとともに帰路についた。
アリサとアリスは放置されている男性型アンドロイドの元へ降りていく。その後ろからこっそりモノマーとポリマーも続く。
側に寄ると、顔がアリスを向いた。
男性型アンドロイドの損傷は昨日の女性型アンドロイドよりもだいぶ軽く、手足はないがそれ以外は元の形を残している。
「何か用か?」
声をかけられて、アリサは驚いてアリスの後ろに隠れた。
何も返答がないので、男性型アンドロイドは困惑した表情を浮かべながらも次の言葉を発した。
「……用はないのか?」
しばし沈黙。
アリサは驚いてしばらく声がでなかった。
アリスは元々興味がないので話すことなどない。
「あの……」
やっとアリサが口を開く。
「なんだ?」
男性型アンドロイドが返事をすると、アリサは肩をはねさせて反射的にアリスの後ろに隠れる。
だが言いたいことがあるらしく、そろーっと顔だけ動かした。
そうして訊く。
「……お名前、何ですか……?」
「制作者の?」
「ぃ、いえ、あの……あなた、の……」
「俺の?」
「そ、そう……です。」
「ドアンだ。」
「ド、アン?」
「アンドロイドのアンと最後のドでドアン。
ちなみに7機めだ。」
「……ぁの、カナデ……さんと一緒にいる、女性型の方にも、名前が、あります……か?」
「アレはドロシー。
アンドロイドのドロからとったそうだ。
ちなみに2機め。
服は昨日アリスに貰ったと言っていた。
喜んでいたぞ」
「お兄ちゃ「アリス」──アリスお姉ちゃん、よか──ね。」
横にあるアリスの顔をみると、不適に笑んでいた。
「おまえがアリスか。」
その顔を見て、男性型アンドロイド──ドアンは微笑んだ。
「礼を言っておく。
ありがとう。」
「アンタじゃなくて、本人が言うべきことでしょ?」
「……そうなんだが、本人は言わないだろうからな、感謝していることだけは伝えておく。
ドロシーはメイの作った服に飽きてきてたんだ。
──この先も作ってもらえるとありがたいが、今回かぎりだよな。」
「報酬貰えんなら作るよ?」
「……そうか。カナデに言っておく。」
ドアンは笑んで、天を仰いだ。
「……まだ何か用か?」
足音と気配が遠ざからないため、ドアンは再び目を開けた。
「ドアン……さん、」
「なんだ?」
「手足、繋ぎましょうか?」
「できるのか?」
「えと……、ドロシーさんのは、一応、できました」
「ならば頼む。
──この分だとカナデは2日後まで戻ってこないだろうからな。」
4日間の予選と本戦の間には、休日がある。運営が本戦トーナメントの組み合わせを考え、予選で暴れた参加者には休息をとってもらうためだ。
ちなみに本会場のみ解放され、自由に使用できる。
本戦トーナメントは2次予選で3種目をクリアした者を制作者の意図で勝手に5つのブロックに振り分け、ブロックごとにキルツ王国現国王ソフィア=リョク・キルツ、先代国王マリ=セン・キルツ、マルク王国現国王シエラレオネ=フィン・マルク、元国王チャド=セン・マルク、それに勇者の5人もそれぞれ振り分ける。
今回は本戦出場者の数がキリがいいため、シード等はなく、初戦から彼らと当たる運の悪い者も出る。
もっとも、このキジマ大陸統一武闘大会に参加する者は殆どが戦闘狂だから、強い者と当たってもそれは運がいいと捉えるだろうが。
会場は、本会場はしきりで2つに分け、その建物の地下にある闘技場を2つとキルツ王城にあるピクシーの庭の計5つ。
トーナメントのそれぞれの試合は、制限時間内に決着が付かなければ引き分けでどちらも敗退扱いとなる。
なるべく早く相手をしとめなければならないため、体力バカにはあまり分はない。
それぞれのトーナメントで優勝した者たちで決勝は本会場を用いて乱戦となる。
バッジ所持者は、本戦トーナメント1回戦開始時に所持していた場合失格となるため、それまでにカナデをぶっ飛ばせば力ずくでバッジの発信機の効力を無くすことができ、失格とならずにすむ。
そのために休日返上(?)でカナデを追い回すバカもいる。
ドロシーはその護衛としてついていったのだ。
落ちていた手足を拾ってきてドアン本体に繋ぐと、ドアンは立ち上がった。
「礼を言う。」
関節の駆動を確認しながら、ドアンは深々とお辞儀をした。
そして、明後日の方向を向いて一言。
「──さて、カナデをぶっ飛ばしにでも行こうか。」
その後カナデがどうなったのか、そのうち知ることができるだろう。
はたしてこの話は必要だったのだろうか。




