修復・譲渡
御免なさい。
2次予選すべての種目の最終終了時刻である日没を迎え、参加選手たちが宿や自宅への帰路につく中、カナデはその流れに逆らって本会場のメイン闘技場へ降りていった。
「おーい、生きとるかぁ~?」
そう声をあげると、もはや元の形のわからない残骸となっているアンドロイド──ツカサたちが破壊後、夕方からこの種目に参加するつもりだった者たちに八つ当たりされた。──に搭載されている人工知能は、破損している発声機から小さな返事を返した。
「……ぁ……ぃ」
その声はライ・メイと似た女性のものだったが、アリサとアリスは知る由もない。
どこからか返ってきた声に、アリサは肩を跳ねさせる。
「おぉ、なんとか生きとるなぁ!」
「……大丈夫、ですか?」
アリサが珍しくふつうに聞き取れる大きさの声で言った。
「こんくらいならぁ、1刻もありゃぁ直せるさぁ」
カナデは答える。
「イッコク?」
「あ~……」
カナデは頭をかいた。
長身なカナデが腕を上げる際、アリサが驚いてアリスに掴まり、掴まられたアリスが笑んだが、カナデは気付かない。
「2時間だなぁ」
時間の単位の表現が、どうやらこの時代とアリサたちのもといた時代では異なるようだ。同じ表現も使用するようだが。
「さてと、始めるかぁ。」
カナデは腰に巻いていたベルトを外し、地におろして三つ折りにされていたそれを広げる。
内側に折り畳まれていた部分には、いくつもの道具が刺されていた。
それからアンドロイドの破片を集め始める。
「お前さんらも、この辺に破片を集めてくれるかぁ」
「は、はいっ」
ベルトのあたりを示してカナデに言われ、アリサは返事をし、アリスは無言で破片を集め始めた。
「細かいのもなるべくなぁ」
「はいっ」
あらかた集め終えると、カナデはアンドロイドの部品の中でもっとも大事な、立方体の箱型のケースに収められていた人工知能の核となる部分を取り出してよく観察し、傷や異常のないことを確認した。
それを至近距離でアリサが見ているが、全く気にしていないようだ。
人工知能の核となる部分をケースに戻してあるべき場所にはめると、声をかける。
「異常はないかぁ?」
アンドロイドから返ってきた返事は、言葉として聞き取ることができなかった。
「バッテリーはもっとるかぁ?」
「──ぃぇ、ぁぅ」
それはアリサたちには解らなかったが、カナデには解ったようで、追加で質問をする。
「残りはどのくらいだぁ?」
「──ぉ……ぅぉ」
「とりあえず発声機修理するまでは黙っとれぇ」
「ぃ……ぁぃ」
アンドロイドの返事を聞いてから、カナデはかろうじてそれだと判る頭部をベルトに刺さっていた道具を用いていじり始めた。
歩き回って時々破片を拾いながら続け、頭部は徐々に女性の顔へと姿を変えていく。
「あ、アリサぁ」
名前を呼ばれ、破片でパズルのようなことをしていたアリサは反射的に顔を上げた。
「破片できるだけくっつけといてくれぇ」
「──わかり、ました……。」
アリスはパズルのように破損部をあわせて集めた破片たちを、エミィシステムによって転送されてきた自前の道具たちを用いて繋げていった。
その表面は継ぎ目の場所を特定できないほどなめらかで、色の違いも殆どなかった。
「──エミィ」
ただそう呼ぶだけで、エミィシステムはアリサの要望に応えていく。
「これ──」
そう言いかけると、エミィシステムは即座に、簡易的にではあるがアリサが手にしている破片を解析し、用途を伝える。
そうして、1時間もたたないうちに繋がる破片はすべて繋ぎ終えた。
残った数個の破片は、どこに繋がるのかわからない。
頭部以外で不足している箇所は見あたらないし、内部の構造も観戦中にカナデから聞いたとおりに組み立てた。
細かい粒子となり果てている破片はエミィシステムに手伝ってもらいながら原形を想像し、類似した素材を代用品として作成して、隙間を埋めていった。
アリスはそれを離れたところに立って眺めているだけではなく、暇すぎて趣味の服作りに没頭していた。
ちなみに材料はエミィシステムによって転送されてきたものと、破壊されたアンドロイドが身につけていた衣類の破片だ。
「アリサぁ」
「はいっ」
頭部(主に発声機)の修復が終わったカナデが、アリサの隣に立った。
そして横たわっているアンドロイドのボディを見下ろして、呟いた。
「……お前さんが1人でやったのかぁ?」
「ぇと、エミィに、手伝ってもらって……」
「お前さんが言ってたエミィシステムか?
あの転移や料理なんかもできる──万能機械」
「エミィは、その機械を動かしている人工知能を作った人の名前で、人工知能の名前でもあって、機械たちを一つにまとめたものをエミィシステムと呼んでいまして、今僕たちが住んでいるところもエミィシステムの機械たちの中にありまして、それで人工知能の「──ア「万能機械はエミィシステムであってエミィじゃないと言いたいのかぁ?」
まだ続いていきそうなアリサの言葉を、アリスが遮る前にカナデが遮る。
「──ぇと、そう……です。」
それによって変に熱が入ってきていたアリサは落ち着いたが、アリスは不服そうだ。
よそ見をしたせいで指に針が刺さったらしく若干涙目でもある。
「まぁ、とにかく出来てんならいいかぁ」
そう言い、カナデは手にしていた頭部を首にあわせ、ベルトに刺さっていた針状のもので接合した。
アリサにはそのベルトに刺さっている道具たちの仕組みや用途が途轍もなく気になった。
ちなみに、現在修復中の女性型アンドロイドは一糸纏わぬ姿である。
「起きれるかぁ?」
「はい。カナデ。」
カナデの声に、アンドロイドは立ち上がった。
人間らしい、重力を感じさせる動きである。
アンドロイドと共にアリサも立ち上がり、アンドロイドの背後に回って観察を始める。
「違和感は?」
カナデに問われ、アンドロイドは少し動いてみた。
「部品が一部異なること以外、問題ありません。」
「ん?」
その言葉に、カナデはアリサの方へ顔を向けた。
「何か変えたのかぁ?」
「ぇと、足りない部分がありまして……」
つい反射的に俯いて後ろめたい気分になりながら、アリサは答える。
「あぁ、そっかぁ。」
アリサの予想に反し、カナデはそれほど気にしていたわけではなかったようで、それ以上は何も言わなかった。
「──動きに支障はないなぁ?
「無い。
痛覚が遮断されている。」
「そっちは人間ぽく出来てないからぁ、明日まではそれでいいんだよぉ」
「この大会が終わったら、戻せ」
「わかってるよぉ」
アリサはカナデとアンドロイドの会話を遮ることが申し訳なく、おずおずと手を挙げる。
「……あの」
「ん? 何だぁ?」
「少し、部品が余っているのですが……」
アリサが示した先を見ると、欠片ほど細かくはない破片が数個あった。
だが、アンドロイドの方には欠損はない。
「あぁ、あれは修復する前の欠けだろぅ」
「自己修復によって塞いだ部位の本体。」
カナデとアンドロイドの言うことの意味が、アリサにはよく解らなかった。
「……どういう、意味ですか?」
アリサに問われ、カナデは後頭部を掻いた。
「私には、自己修復機能があります。」
説明が苦手であると共にめんどくさがってもいる制作者に変わり、アンドロイド自身が疑問に答え始めた。
「たとえば、一部が欠け落ち、小さな穴があいたとします。
その場合、まわりの部品を延ばすことによってその穴を塞ぎ、見た目上は元通りにすることが出来ます。
元々その欠損した部位にあった素材は、使われずにその場に落ちたままになります。
元々の部位に当てても、その穴は既に塞がれているわけですから、元の通りに接着することは出来ません。
そのような経緯で、余剰部品ができあがるわけです。
自己修復するための素材が足りない場合は修復は行われませんが、他の部位にあった部品をそこに当てるとそれを素材として修復を行うことも可能です。
──以上の説明でご理解いただけたでしょうか。」
アリサは小さく頷いた。
「あれらの破片は、初期に欠損し、修復に用いられなかったものです。」
アリサは今更のようにアンドロイドが何も纏っていないことを意識し、目線を逸らし、アリスの方へ顔を向けた。
「あれ、……貰っても、いいですか?」
手は余っている破片を示している。
「どうぞ」
アンドロイドは即答した。
「いいぞぉ?」
カナデも頷く。
「だが、何に使うんだぁ?」
「色々と──」
「終わった?」
アリサの視線に気付き、アリスが側まで歩いてきた。
「あぁ。……半刻くらいで終わったなぁ。
アリサは役に立ったぞぉ」
「あれ、貰った」
「エミィに運んで貰わなきゃね」
アリサがカナデの方に顔を向けようとしないのを感じ、アリスはそちらを見て理由を悟った。
アリサとカナデの間に何も纏わないアンドロイドがいるからだ。
「ん~……これ、着る?」
少し思案し、アリスはアンドロイドに今し方まで作っていた服を差し出した。
珍しくフリルやレースが多用されている。
アンドロイドはそれを受け取り、着用した。
サイズは不思議とぴったりだ。
「丁度だなぁ。」
少し動いてみる。
間接の動きは妨げない。
エミィシステムにアリサが貰った破片たちを回収してもらい、ついでに動きやすそうな靴などを送ってもらった。
それらもアンドロイドに着用させる。
「あげるよ。」
「では、お言葉に甘えて。」
「……似合ってる」
「ありがとう。」
アリサの呟きに、アンドロイドは微笑んだ。
「じゃ、帰るかぁ。」
「私は今日も倉庫ですか?」
アンドロイドが尋ねる。
「大会終了までは念のためって決まりだしなぁ……。
修復って理由付けて抜け出すかぁ?」
カナデが後頭部を掻きながら言うと、
「希望する。カナデ。」
アンドロイドは無表情のままカナデに飛びついた。
そのままカナデはやや長身な女性型アンドロイドをおぶったまま参加者入退場口から出てアリサたちと別れた。
「また明日なぁ」
「また明日。」
明き森の小屋に帰ると、ツカサが満面の笑みでエミィに話しかけ続け、ドット絵のエミューが苦笑していた。




