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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第三章 ここは血の気が多すぎはしないだろうか
23/40

初戦後の夜


予選1日目を終えて会場の外に出ると、アリサとミズキが参加者入退場口の脇で待っていた。


「アリサ~!」


アリスは人目もはばからずにアリサの首に腕を回し、頬をすりあわせる。

だいぶ環境の変化にも慣れたようで、今ではすっかり元の時代にいた頃と変わらない行動を示すようになっている。


「アリサ~……」


その光景を、ミズキがウンザリといった風な表情で眺める。


「……お、お兄ちゃん、くすぐったいよぅ」


「ふふふっ……かぁわいっ」


アリスは腕に力を込めた。

男の格好をしているときは、アリサにお兄ちゃんと呼ばれても反抗したりはしない。

中性的な格好の時は、そのあたりの線引きがわからない。


「……アリサさんが戸惑っていますよ?」


遠慮がちなツカサの一言で、すぐにアリスの態度が変わった。


「ごめんっ。

 痛くなかった? ごめんね、アリサ」


「だ……大丈夫、だよ?」


「早く帰ろっか。」


「ぇと……うん。」


アリスはアリサの手をしっかりとつかんで歩きだす。

他の二人も、少し離れて後から続いた。


「もしかしたらこの大会、かなり闇討ち多いかも。」


そうアリスは呟いた。

ミズキは口元をひきつらせ、アリサは戸惑いの表情を、ツカサは満面の笑みを浮かべる。



4人が(あか)き森に入ったあたりで、ジンの住人とおぼしき肌が浅緑色をした男が道の脇(ツカサの背後)から襲いかかってきた。

ミズキは冷静に距離をとり、アリスは我関せずといった風に歩みを乱さない。アリサは兄に手をガッチリと引かれながらも、何かの気配を感じて背後を窺い見る。そして目を見開くも、手を引くアリスの歩調が落ちないため、止まることが許されない。

3人の背後では、ツカサが満面の笑みで握られた拳を男の鳩尾あたりに、もう一人でてきた男の顔には肘をねじ込んでいた。

無声で音を立ててその場にくずおれる2人を一瞥し、ツカサはミズキの隣まで駆け寄り、何事もなかったかのように3人の元へ戻った。

目を見開いているアリサには、いつも通りの頼りない笑みを向ける。



4人が住居としている、エミィシステムが接続している小屋につくまでに、同じようなことが4度起こった。

そのたびにツカサが襲撃者を撃退し、バッチを持っている者からは全てのバッチを奪っていった。

これはアリスの指示である。

その結果、計一五枚のバッチを追加で手に入れた。


「このバッチ……、何に、使うの……?」


そのバッチをツカサが明かりに照らして眺めているのを横からアリサが見上げ、尋ねた。


「よくわかりませんが、明日以降の2次予選で使用するそうです。」


「ないと不利になるらしいよ?」


アリサの隣でバッチをじっくりと眺めているアリスは予測で補足した。


「……多いと、有利……の?」


アリサがツカサに向けて手を出すと、ツカサはその手にバッチを一つおいた。


「5枚より多く持ってても有利にはならないって言ってた」


その言葉に対し、アリサは疑問を覚えた。

ツカサも思っていたのか、アリスの方を窺った。


「……どうして、とった……の?」


アリサが振り向いて背後の兄に尋ねると、


「ライバルを蹴落とすのは、基本中の基本でしょ?」


ニコリと言われ、アリサは何も返さなかった。


「……。」


ツカサも無言だ。


奥のキッチンスペースからミズキの「性格悪……」との声が聞こえてきた気がした。

今、ミズキは食事の用意をしている。

食材はアリスがどこからか調達してくるので、それを洗ったり切ったりなどの下処理だけをすませてエミィシステムに直結している機器を軽く操作すればいいだけなのだが、機械音痴のミズキは操作方法がわからず、アリサ製のマニュアルを片手にエミィシステムと音声でコミュニケーションをとりながら四苦八苦している。それでも助けを求めないのは、ちっぽけなプライド故か。

ミズキだと時間がかかることを予想して早めに始めてもらったのだが、

もう普段の食事の時間が迫っている。

エミィシステムに内蔵されている人工知能はアリサの普段の話し相手なので、アリサと同等かそれ以上の知識は有している。そのため、実はミズキと会話している現在も勝手に調理を進めていた。

ミズキは実質、ただ会話しているだけだ。

気付いていないのは、おそらくミズキだけ。


「──手伝いましょうか……?」


ツカサが立ち上がってミズキの方へ行った。

アリスがアリサにべたつくのに耐えられなくなったためだろうか。


── お風呂 わいた ──


アリスの足の付近の床に、そう文字が浮かんだ。


「じゃ、僕は先にお風呂いってくる。

 ご飯できたら呼んで」


アリスはツカサがミズキの方へ行くのを見送った後、エミィシステムの作っている空間の端にある浴場へ向かった。

この空間内は大きさの限度はあるものの、かなり自由に模様替えができる。浴場の大きさや場所は入浴する人数や時間によってエミィシステムが適宜変えているが、基本的には、使用されていない端のスペースに一般家庭のものと同様程度のサイズのものが納められている。

帰りついてすぐに「おふろー」と言ったアリスのためにエミィがお湯を沸かしていたのだ。

ちなみに、食事のためにお湯を沸かすときは1分かからないくらいだが、お風呂のお湯を沸かすときはかなりかかる。単純な量の差ではなく、使用されているシステムが異なるためである。アリサがシャワー派なのも要因の一つであったりする。

シャワーだけの場合は食事の時と同じシステムなので数分だ。


それを見送った後、アリサは部屋の隅へ寄った。


「──エミィ、大丈夫?」


壁を見上げると、そこがスクリーンに変わり、文字が浮かんだ。


──ミズキとの会話 楽 ──


「楽」は、「らく」ではなく「たのしい」という意味で用いている。

(らく)でないのかと聞かれると、何とも言えないが。

壁の下部中央にあるドット絵のエミュー(名称:エミー)の嘴が笑うような形に変わった。


「──これ、調べられる?」


バッチを見せると、壁から掌ほどの台がでてきた。


── 置いて ──


台にバッチを乗せると、すぐに台は壁に吸い込まれていった。

するとスクリーンにバッチの形が映し出される。


   材質──完了

   構造──完了

本体の分析……全て完了


──付属物も解析 (いる)


「──何かついてたの?」


アリサは目を見開いた。

するとドット絵のエミーの頭部がやれやれといった風に左右にふられた。ついでに大きな羽を手のようにあげてもいる。

この動きはアリサが設定したわけではないのだが、どうやって学んだのだろうか。


── 裏のピンの下 ──


壁からでてきた台の上にはバッチが。

それを手にとってスクリーン上に示された場所をみると、わかりにくいが、金属質な突起があった。


「これ、なに?」


── 発信機に似た構造してる ──

── 詳しく 解析する? ──


「──お願い。

 危なそうだったら停止。」


── 了解 ──


台の上にバッチを戻すと、再び壁に吸い込まれ、スクリーン上にはバッチの形が映し出された。

成分や詳細な大きさなどの情報をアリサに分かりやすいような形で表示してもいた。

それとは別に、バッチの裏の突起のように見えていたものの形や情報も表示されていった。


─ unknown ── unknown ─

── unknown ── unknown 

 ── unknown ── unknown

nown ─ unknown ── unkno


「どうしたの?」


── わからない ──

── 何かがある ──


「何か?」


── ダミーとかじゃない ──

── 何か。

── 電子にも異常はないけど ──


ドット絵のエミューが混乱しているように羽で頭部を押さえて左右にゆらゆらと揺すっている。


「──とりあえず、解析停止。」


── 了解 ──


ドット絵のエミューはその場にしゃがみ込んだ。


── アニメーション停止 ──


その文字の後、ドット絵のエミューはドットに分かれて崩れるように画面から消えた。


「バッチ出して」


── なんか入った ──


壁から台がでてきたが、その上にバッチはなかった。

まもなくスクリーン上に表示されていたバッチの形や解析結果が消えていき、青白く光る壁面にはエミィの思考を表す文字だけが残った。


「ウィルス?」


── 違う ──


「エミィ、バッチ無いよ?」


── ちょっと待って ──


「ご飯出来たー?」


アリスが濡れた髪をタオルで拭きながらお風呂からあがってきた。


──  先に ご飯食べてて ──


「できました。」


ちょうど、そこでミズキから声がかかった。

卓袱台(ちゃぶだい)の上に置かれているのは、8割方エミィシステムによって作られた出来立ての品々。


「おぉー、なんとかなってるね。」


アリスは卓袱台の前に座ってアリサの方をみた。


「どうかしましたか?」


ツカサがアリサの方に寄ると、アリスも寄ってきた。


「──ん。な……もない。」


アリスは怪訝そうな目を妹に向けた。


「先に、食べてて」


「一緒に食べよ。」


妹と食事を共にするのは、アリスにとって譲れないことだ。ツカサやミズキはついでだが、アリサが食事をとらないのならアリスもとらないし、時間帯がずれるのならばそれまで待つ。今までもそうで、これからもそうだ。それができなかったのは、今までに殆どない。


「──何があったの? アリサ。

 そこにいるってことは、エミィに何かあった?」


意外と聡いアリスになんと言おうかアリサが困っていると、ツカサが壁のスクリーンに向かって声を出した。


「エミィさん、大丈夫ですか?」


── 大丈夫だよ。──

── ご飯冷めないうちに召し上がれー ──


ツカサの問いに、エミィは音声と共に応えた。


『心配しないで』


未だ耳に装着したままの翻訳機を通してアリサにだけそう伝える。

壁のスクリーンでは、崩れ消えていったはずのドット絵のエミューが手(羽)を振っていた。


「ごはん食べよう……冷める前に」


アリサの暗い声で、4人とも卓袱台を囲み、手を合わせて食事を始めた。

食事中、アリサは終始無言で時折壁面に目を向けた。

そこにはただ壁があるだけで、何の文字も映像も映し出されてはいない。

そんなアリサの様子を窺っているアリスとツカサも元気がない。

ミズキは相変わらず自分の機械音痴さに呆れて落ち込んでいる。

美味しいはずの食事が、四者四様の理由で味気なかった。



食後。

片づけは返却口と呼んでいるスペースに皿などを入れておくとエミィシステムが自動で洗って棚に戻すところまでやってくれるので、必要ない。

食事が終わるとすぐにアリサは壁面に向かった。


「エミィ、大丈夫?」


アリサの声で、壁面に文字が浮かんだ。


── これ ──


 その音声の後、ミズキには聞き覚えのある、他3人には覚えのない音声と口調で短いメッセージが流れた。


『誰か知らんがぁ この装置を調べないでくれぇ

 べつに害を与えるつもりは無いさぁ

 武闘会が終わるまでに絶対にバッチを返却することぉ』


── 変換に 時間かかった ──


どうやら、バッチについていた発信機のようなものからこれを強制ダウンロードさせられ、言語やファイルの形式などを変換するのに時間を要していただけだったようだ。


「──心配させないでよ……」


アリサが一安心すると、アリスも元気を取り戻した。


「これ、誰の声?」


── 制作者は ──


「カナデ」


── カナデ ──


エミィシステムが文字を表示するのとミズキが口にするのは、ほぼ同時だった。


「あの、サテライトキヤノンの……?」


「そうです。」


それぞれ異なることを思いながら、4人は顔を見合わせた。


来週は投稿できないと思います。

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