武闘会 開始
キジマ大陸統一武闘大会、略して武闘会。
このキジマ大陸の強者どもが集まり力自慢をする場。
それが今年も開かれる。
例年どおりルールは簡単。
『力こそが正義』
審判に異議があればぶっ飛ばし、納得がいかなければ力にものを言わせる。
その慣習のため、殆どの出場者よりも審判、主催者らが強かった。
細かいルールはないが、自らを最も頼りにしている魔族は肉体を武器に、魔法こそ最巧とうたう精霊は魔法を、科学こそ人類の英知とうたう人間(ジンの国の者)たちは様々な機械武器を使うのが慣わしである。
魔法が使える魔族、接近戦を好む精霊などもやはりいるため、それは規則となってはいない。
一応殺しは無しだが、重傷を負ってもキルツの魔法とジンの科学技術で大概の怪我は跡形もなく治るため、そのルールも形式上だ。
今年は会場が変更になったが、ルール変更はそれとは別の理由によるもので、些細なことだけだった。
「ついにやってまいりました~!」
マイクも無しに大声を響かせるのは、肌が鮮やかな緑をした魔族。
例年の司会者であった男が倒れ、急遽一族から押しつけられたらしい。
「待ちに待った大陸統一武闘大会ぃイィ~!!」
観客が、おおいに盛り上がる。
「今年はキルツ並びにマルク両国国王陛下と前国王陛下が参加され、それに加えて彼奴が帰って参りましたぁ!」
そこで言葉を区切り、大量の空気を肺に送り込む。
「言わずと知れたキチガイ!
勇者と呼ばれる異民!」
異民とは、この時間、空間ではない異世界、または過去、未来からきた者の総称である。それが普通に受け入れられていることが、この大陸の者らの寛容さを表しているともいえよう。
ちなみに、アリサたちも異民に含まれる。
「ついに牢にぶち込まれたときは清々したが、やっとこの大会に帰って来たぁぁあぁああぁぁ~!
……というかこの新しい会場の地下がそいつの牢らしいんだが、きれいそうで羨ましくね?」
観客から失笑が漏れた。
「今年は余興も派手になるぞ~!!」
余興とは、予選のこと。
本戦の前に4日かけて行われるのだが、その前にこの開会式が位置している。
「だからルールを少し変更させてもらうよ~」
興奮気味な司会の隣に、マリを鏡写しにした姿をしたピクシーを抱えたレヴィアタンが降り立った。
レヴィアタンはマルク王家に仕える精霊である。以前はキルツ王家に仕えていたため、そのころからキルツ王家にいたピクシーともそれなりの仲だ。
2人を見て顔をひきつらせる者多数。
マリに恨みがあったり、トラウマがあったり、興味があったり。
ピクシーが地に足をつけると、会場のそこかしこにスクリーン状の図が浮かび上がった。
ピクシーが『反射』で元の図を拡大し、映し出しているのである。
「最後のトーナメントは国王様たちをそれぞれ一人ずつ含む5つのブロックに分かれてもらう。
ちゃんと倒したかはマルク国王の兄弟たちと側近であるマムリ、それにキルツの3バカに判定してもらおうかな。
俺は判定しないよ~。面倒だから」
レヴィアタンの性格をよく知っている一部魔族の間では笑いが漏れた。
「……誰が3バカだ」
3バカとは、キルツの三重臣もしくは三銃士と呼ばれる、キルツ王家に仕えている精霊の中で位も上ではあるが国王ソフィアへの|忠誠心が強く(熱中しすぎ)、盲目的で多々問題を起こす精霊たちを指している。
その中に、現在は国王に仕えていないポリマーが含まれることもあればピクシーが含まれることもあり、以前仕えていたレヴィアタンが含まれることもある。
安定して含まれているのはルシファーとリヴァイアサンである。
「3バカはルシファー、リヴァイアサン、ついでにポリマーだよ。よろしくね、ポリマー」
すぐ隣から漏れた呟きに対し、補足した。
ポリマーは以前、ソフィアが国王になるよりも前はキルツ王家に仕えており、レヴィアタンとも浅からぬ仲だった。
ピクシーがレヴィアタンに何事か耳打ちした。
「え~……ポリマーは現在、明き森にて睡眠中とのこと。でもまあピクシーが映像おくってるそうだから、それでいいよね」
会場からは失笑が漏れた。
「ルール説明はこのくらいにして……、あ、その他細かいことは今までと同じで。
さぁ、始めようか、キチガイたちの祭典、武闘会を!!」
完全に役目を奪われた魔族の隣でのレヴィアタンの声を皮切りに、ざわめきが喧噪へ、徐々に濃度を増していった。
出場者たちは控え場から予選会場へと足を向け始める。
その波にはライ・シン、ツカサ、アリスらも紛れていた。
国王らは別の入場口より会場入りするため、その中にはいない。
観客席では、注目選手についてなどの話題で盛り上がる色とりどりの観戦者の中に、アリサと、付き添いのようなミズキが座っていた。
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大会のルールは、ざっと次のとおり。
・1日目、1次予選。
内容は毎回変わるが、今回は、参加手続き時に配られるバッジを自分のものも含めて5つ集めること。
集めた時点で強制的に2次予選参加者控え室兼休憩室へと転送される。
なお、バッジを奪われたとしても失格ではない。
試合時間は開始のベルから日暮れまで。
・2~4日目、2次予選。
5つの種目から3つを選び、好きなように組み合わせて実施する。
1日1種目ではなく、1日に3種目ともこなそうともかまわない。(種目内容は、後に記す)
・5日目、休憩・トーナメント表作成
・6、7日目、本戦トーナメント。
どちらかが負けを認めるか戦闘不能になった時点で勝敗を決めるため、試合時間は長いときも短いときもある。なるべく準々決勝までは6日目に行う。
予備日として8日目も設定してあるが、過去に使用したことは2度しかない。
各種目、試合の今回の審判は武闘会に参加しない国王の兄弟たちと、国王の側近たちである。
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「オレなんかがでてもいいのかな……」
気弱にそう漏らしたのは腰に長い布を巻いているツカサである。
「あんたが出ずして誰がでる」
半ば呆れ気味に相槌を打つのは、この時代にきてから久しぶりに男の格好をし、長い髪を無造作にまとめたアリスである。
「アリスさんも結構お強いですよね」
「あんたの足元にも及ばないけどね」
スイッチがオフの時はとことん謙虚というかネガティブで大人しいツカサだが、戦闘時にはそのスイッチがオンとなる。
本来いるべき時代のあの施設にいた頃は、あまりの食糧難から強盗が入るのは日常茶飯時だった。その撃退用とかこつけて武術の鍛錬にいそしんでいたツカサは、かなりの対人戦闘力を持つ。素手でに限り。
あの時代の少ない娯楽の一つとして行われていた、地下の箱状フィールドでの武術試合、通称殺し合いゲームでもツカサは幾度となく勝ち上がり、優勝していた。
そのゲーム、一般人には払えないような額の参加費が必要なのだが、決勝まで勝ちあがれば賞金から引かれるので、そこまで勝ち残ることができる者にとっては実質、参加費タダで結構な賞金が受け取れる力試し。くらいの認識であった。
観戦も有料で、富裕層にしかできなかったが、娯楽に飢えている彼らには格好の暇つぶしであったため、主催者らにはかなりの収入であっただろう。
通称のとおり、決勝までの試合で死者も多く出る。食料不足な時代、飢餓で死ぬのもそのゲームで死ぬのも大差ないと、淡い期待を込めて優勝候補の参加者の実力を知らずに参加する者は、初戦で見るも無惨な姿にされ、廃棄所へと送られるのだ。
そんな中、ツカサは初参加から決勝まで勝ちあがったのである。
そのエピソードを知るのはもちろんゲームの関係者のみだが。
そんな戦闘狂に勝てるものなど、あの時代にはそうそういなかった。
一時は怪我をして歩くことすら困難だったにも関わらず、完治せぬままゲームに出て優勝をしてしまうくらいなのだ。
ろくに運動すらしていないアリスに勝てるはずもなかった。
「じゃ、共闘も禁止じゃないし、僕の分まで集めて。4個になったら3個ちょうだい。」
「は……はい。」
決して嫌がっているわけではなく、申し訳なさそうに縮こまりながら、顔は楽しみなことを隠せていない。
それを見れば、
「1個くらい自力でとろうかな」
と、少し意地悪したい気持ちにもなるものだ。
「いえ、オレがとらせていただきます!
すぐに追わせていただくので、休憩室で少々お待ちを!!」
その迫力に押されたわけではなく、ただ単に自分の手を使うのが面倒だったので、アリスは全面的にツカサに任せることにした。
会場に着くと、端に移動する。
他の参加者たちも、思い思いの場所で待機している。
国王たちはこの中にはおらず、本戦(5日目)からの参加らしい。
これはあくまでも本戦への出場者を増やすための措置だとか。
開始のベルが鳴るまでは戦闘禁止がルールであり、鳴り始めた瞬間から戦闘開始。
「僕は基本何もしないつもりだから、殺さない程度に好きにやってね。」
「いいんでしょうか……」
「闘技場に来てるってことはみんな力自慢なんだから、その鼻へし折ってやればいいんだよ。」
声だけが非戦闘モードで満面の笑みのツカサの顔を一瞥し、
「……もちろん、比喩的な意味でね?」
と、付け加える。
開始のベルが鳴り始める。
「ほら、開始だ」
すぐそばにいた魔族が走ってくるのを見、ツカサはニヤリと笑って一歩前に出る。
・・・・・・数時間後。
そばを通り抜けようとした者の腕をとって背負い投げると、そのまま肩を外す。
左胸につけられていたバッジもしっかりと奪った。これで6つめ。3つはアリサに渡してある。
足の下での魔族の呻き声も気にせず、ツカサは長い前髪を右手でかきあげた。耳に装着してある翻訳機のおかげで言葉は理解できるが、今のツカサの耳には入っていない様子。
長い前髪の下から現れた瞳は、陽にあたって碧色に輝いている。
「……楽しくなってきた──ッ!」
これは、興奮してきた合図。
「もっと骨のあるヤツは……?」
辺りを見回すと、まだ日暮れまでは時間があるというのに、倒れている者が多く見られた。
「あっちにまだ立ってるのがいるけど」
すぐそばで、初っぱなにツカサに意識を刈り取られ、たった今意識を取り戻したばかりの魔族をいたぶっているアリスが指し示した方向では、数人が乱戦中だった。
「よし。いってくる」
「行ってらっしゃ~い。」
「ま、待て──!」
「あんたは僕の相手をして?」
首を外され生命の危機に陥る魔族を冷ややかに見つめ、アリスは後悔していた。
こんなにつまらないんなら、参加しなけりゃよかった。
そうすれば、アリサともっと一緒にいられたのに。
今、見てるかな。
観客席を見上げ、アリサの姿を探す。
ミズキと何かを話している姿を見つけた。
ツカサの方へ顔を向けている。
そのツカサは、魔族と、おそらくジンの住人であろう角の生えた者とを肩に乗せて持ってきた。
「こっちのバッジどうぞ」
「じゃ、遠慮なく。」
魔族の腕につけてあったバッジを奪うと、一瞬の浮遊感。エミィシステムの転移の時と同じ感じ。どこか変な場所にとばされないといいけど……
目を開けると、どこかの部屋に転移していた。
隣にはツカサも。
ほかにも数名いて、ここが2次予選参加者控え室兼休憩室なのだろうと推測された。
壁の大型モニターには、未だ続く1次予選のもようが中継されていた。
アリスたちが2次予選参加者控え室兼休憩所に転送されて暇を持て余していると、日が暮れた。
まだ物足りないといった落ち着かない表情をしているツカサに何事か耳打ちして落ち着かせ、アリスは目を閉じた。
だがすぐに目を開ける。
目の前に何者かの気配を感じたためだ。
そこにたった今転送されてきた様子のそれは、三角の耳が頭の上部にあり、細長い尾を持つ──獣人(?)だった。
イスに座っているアリスとたっている獣人との目線が同じほどなので、まだ子供なのかもしれない。
もしかしたら獣人が皆この大きさだという可能性も、無くはない。
まもなく部屋に姿を現した蒼き精霊──おそらくはじめからこの部屋で姿を隠していた──リヴァイアサンが部屋を見渡し、
「え~、では、以上で1次予選の通過者は全員ですね」
と言って腕を振った。
すると、周りの景色が溶けるように消え、現れたのは見覚えのある──1次予選の控え室と同じ場所だった。
「今日集めてもらったバッチは明日以降の2次予選で使用するので、それまでは各自で保管していてください。
明日はこの場所に今日と同じ時間にきていただければ結構ですが、参加種目の登録はそれ以前に済ませておいてください。
では、明日もご健闘を。」
そう言って去っていこうとし、わざとらしく半分振り向きながら付け加える。
「2次予選参加者同士でならバッチを奪っても奪われても構いませんが、明日の開始時に5枚より多く持っていても有利にはなりませんので。
不参加の方に奪われるような方は論外ですが。」
有利にはということは、5枚より少ないと不利になるのかもしれない。
それに、その言い方だと、何か意味がありそうに聞こえる。
「また意味ありげ~……」
小さな呟きに目を向けると、そこには小さな獣人の姿が。
誰かに似ている気がする。
ま、いっか。
僕とアリサには関係ないし。
そう割り切り、アリスはそれを意識の隅に追いやった。
「ツカサ」
「……な、なんですか?」
もうすっかり非戦闘モードに戻って挙動不審な動きを見せ始めたツカサに、アリスは声をかけた。
「僕の分のバッチも持っててくれる?」
「別に構いませんが……」
「なくさないでね?」
その笑顔の裏に隠された何かあったら殺されるという未来をしっかりと見て取り、ツカサの顔がひきつった。
「ハイ。」
これにて大会前の余興といわれる予選、1日目が終了した。
因みに、4日目までは予選であるため、まだ観客は少ない方である。




