明き森
ミズキはジンから帰還すると、ジンの科学技術についてアリサに伝えていた。
それを興味深げに聞きながら何かを(5個同時進行で)作る手を止めないアリサと、それを興味深げに眺めているツカサを睨んでいる男服姿のアリス。
4人は、本来の時代にいたころと何一つ変わらない光景を作っていた。
部品は引き出しの中の亜空間に入っていたものと、エミィシステムがいらないものから生成したものを用いている。
ついでに、この光景はエミィイシステムによって録画、録音されている。
エミィシステムはけっこう万能なのだ。
「──それで、結局カナデ様がサテライトキヤノンを放ったのをライ・シン様が蹴りかえしたそうです。」
「……人──たい……
できた」
手を止めてそう呟き、アリサは何か操作をした。
「なにができたの?」
「……翻訳機」
アリスの問いに、そう呟いた。
「ん? 無かったっけ、四角いの」
「ある──、…………できない、──……」
アリサの小さな声をしっかり聞き取って、新たな疑問を投げる。
「それは小さいけど、機能は四角いのと同じなの?」
「そ──、いい」
アリスは頬をゆるませ、自慢の妹を誇っているような、ノロケているような雰囲気を醸し出し始めた。
「使い方は?」
それを無視して、ツカサが興味津々で尋ねる。
「ここのスイッチを入れて、耳に付ける。
これをひっかければ、落ちにくい。」
やや粗雑ではあるがはっきりとした声で説明した。
ツカサはさっそくアリサに渡された機械を耳にひっかける。
タイミング良く声がした。
ポリマーのものだ。
「すみません。どなたかいらっしゃるのですか?」
その声に反応し、壁面には
──ポリマーとモノマーが来た──
の文字が映し出された。
エミィシステムが自分で判断し、投影したものである。
「ちょうどいいからツカサ、応答してみなよ」
アリスがそう言い、そうだね。と、アリサも同意した。
「お願い……します」
アリサの言葉に弱いツカサは、頷くしかなかった。
入り口の扉を開ける。
「……こんにちは」
「お久しぶりなのです。」
ポリマーは一礼した。
その背後には、やはり瓜二つのモノマーが控えていた。
「──本日は、大陸統一武闘大会の開催を、お知らせに参りましたのです。」
「大陸統一、舞踏大会?」
「踊るのではなく、戦う大会なのです。」
ツカサが歓喜しているのが、背後の2人には感じ取れた。
「このキジマ大陸にいる者なら誰でも参加権を有し、力こそが絶対と信じる王族方が開催しておられるのです。
観戦も参加も無料なのです。
もし参加される御意志があるのでしたら、開催当日、必要なものを持参し、会場の受付に寄るのです。
もし観戦される御意志があるのでしたら、開催当日、観戦希望者入場口へと集まるのです。
死にたくなければ、お早めに。そして、強き方と共に。」
その言い方だと、むしろ観戦者の方が危険なのでは……?
「観戦者も、何か、あるんですか?」
「場所取りで、毎年行方不明者がでるのです。」
「行方不明……? 死者は?」
「ほとんど出ないのです。
数年前に、参加選手が投げ飛ばされた先が観戦席だったため、2人出たくらいなのです。」
なぜ死者は出ないのか?
行方不明者が出るのか?
派手に争えば、死者が出るものではないのか?
「行方不明者は、どれくらい、でるの?」
「毎年二桁ほどはいるのです。」
ポリマーは、ニッコリを崩さない。
「どうして、行方不明……?」
それが逆に、怖かった。
「顔は人相がわからないほどで、何も身につけていない姿で廃棄物処理場から見つかるためなのです。」
「……」
「その殆どが評判の悪い魔族だと聞きますが、体格から判断いたしますと、魔族だけではなく、人間も含まれていると思われるのです。」
「……」
「くれぐれも、気を付けるのです。」
「……あの──」
ツカサの背後によっていたアリサが、ツカサの背に隠れながら声を発した。
アリサの長身では、ツカサの後ろに隠れるのは無理であったが。
「なんでございますか?」
「機械の持ち込みは、可能……?」
「周りの方に迷惑がかからない程度……身につけられるものや、持ち運びが簡単なものでしたら、可能なのです。」
「……ありが、と……」
それだけ聞くと、そそくさと部屋の奥へ引っ込んでしまった。
なのでツカサは、自分の興味のあることを尋ねる。
「参加する場合、服装や持ち物に制限はあるんですか?」
「どちらも特にはないのです。
動きにくいものは論外ですが、持ち物については、自力で運搬可能で、破損した場合にも主催側は一切責任を取らないということを考慮に入れていらっしゃれば、どのようなものでも可能だというように聞いているのです。
ただし、そちらも周りの参加者様にはご迷惑のかからぬように、と。」
「会場は、どこですか?」
「最近新しく建造された闘技場なのです。
──勇者の牢屋、と言った方が分かりやすいのでしょうか。」
あれか……。という呆れたような呟きは、果たして誰のものか。
「実物を見たことがないんですが、会場を破損させても退場とかにはなりませんよね……?」
「それは心配いりません。
──毎年闘技場は少なからず破損するため、修復費も込みでスポンサーから徴収しておりますのです。
全壊を招いたとしても、ぼくの知るところではございませんので、構いませんのですよ。
ただし、観戦者の保護を目的とした結界が、キルツ王国軍魔法士部隊により観戦席とフィールドの間に張られるのですが、ソレを破壊すること事態は構わないのですが、ソレを張っている精霊を消滅、もしくは殺害してしまうと、厳重注意となるのです。気絶は想定内なので、代替要員がついておりますので構わないのですよ。」
「参加資格は、オレたちにもありますか?」
「もちろんなのです。
開催当日に受付をすませることができれば、どんな方でも資格を有していますのです。」
ツカサは微笑んだ。
アリスは邪悪な笑みをうかべた。
ミズキは呆れた眼差しを、彼らに送った。
アリサはそれらに気付かず、何事か考え込んでいる。
「質問などは、以上でよろしいのですか?」
背後を振り向き、アリサ以外の2人が頷くのを確認し、ツカサは頷いた。
「はい。」
「──では、最後に一つ、注意事項を。」
今までも注意事項を並べていたと思うのだが、最後に、どんなものを用意していたのか。
「キルツ王家におります、ピクシーという精霊を、ご存じですね?」
アリサとアリスは頷く。
ミズキはあの時不在だったなー。と、数日前を思いだしたアリサは、必死にミズキに説明を試みている。
「あの精霊は、自身が手入れをしている生物と、その周辺に住み着く生物に並々ならぬ愛情を注いでおられるのです。
──そして、新設闘技場の外周、また、通路脇などにある花たちは、ピクシーが世話をしているのです。
なので、くれぐれも、それらを傷つけることがないよう、注意するのですよ」
「傷つけたら……?」
「勇者ですら半殺しだったので、皆様でしたら息があればよい方だと思うのです。」
その時、モノマーの口が動いた。
ツカサは耳に付けた翻訳機からモノマーそっくりの声が流れるのを聞いた。
『絶対に、踏んではいけません。
軽く蹴ってしまうのも、ダメです。
後ろにピクシーが世話をしているものしかなくなった場合、人生を諦めるべきなのです。』
「……ちなみに、勇者って、どれくらい、強いの?」
『ポリマーよりは弱いのです』
「兄者、それは当たり前なのです。」
この会話から、目の前にいる子供のような精霊がかなり強いことを予測したツカサたちであった。
「勇者は正面から戦うとキルツ国王よりは弱く、ルシファーよりは強いのです。
……そういえば、先代キルツ国王とは互角でしたのです。
ピクシーは怒っていないときは弱いのですが、魔力保有量が膨大なので、持久戦に持ち込むと不利なのです。勇者は一瞬で半殺しでしたのですが、正面から戦うと、おそらく勇者が勝つと思うのです。」
個々の強さを知らないのに比較を出されても理解できないのだが、とりあえず目の前の精霊が最強であろうことだけは、感じた。
「では、これで失礼するのです。」
『またくるのです』
2人の背を見送り、扉を閉めた。
とりあえず、翻訳機を耳に付けているのはツカサだけな様なので、
「エミィ、翻訳機から聞き取れたやつ、流して」
そうツカサが言うと、スピーカーから流れ出した。
『絶対に、踏んではいけません。
軽く蹴ってしまうのも、ダメです。
後ろにピクシーが世話をしているものしかなくなった場合、人生を諦めるべきなのです。』
「これはピクシーの手入れしているものに触れるなとの話の時。」
『ポリマーよりは弱いのです』
「これはピクシーの強さの件。」
『またくるのです』
「これは最後。」
「これって、モノマーの言葉だよね?」
「そうです。」
「成功したみたいだよ、アリサ♪」
「……そう──だね」
「と、ゆーことで。
大陸統一武闘大会、行かない?
しばらく暇でしょ?」
「楽しそうですしね」
アリスの提案に、ツカサは満面の笑みで乗る。
「私はでませんよ」
「僕も……」
ミズキの辞退に、アリサは乗った。
「オレは出たい」
「とりあえず、行くってことでOK?」
「……」
「じゃ、決を採ろうか。
行きたい人ー」
ツカサとアリス。
「行きたくない人ー。」
ミズキ。
「どちらでもいいから多数派でって人ー」
アリサ。
「よって、行くことに決定。
エミィ、会場近くに飛ぶことは可能?」
壁には
──可能ですが……──
の文字が。
「それをすると、元の時に、戻るのが……」
「……遅くなるか。
じゃ、歩いてこっか。」
こうして過去から来た一行は、大陸統一武闘大会の会場、新設闘技場であり勇者の新しい住居(?)でもある場所へと向かうことになった。
そのころポリマーは、過去に勤めていた先から仕事の知らせが舞い込んできたのだが、モノマーと共にいる時間を削られたくないとの理由でそれを断ろうとしていた。
拒否を受け取るような職場ではなかったのだが。
またしばらく間が空くと思います。
読んでくださっている方がいらっしゃいましたら、ここでお詫び申し上げておきます。




