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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第一章 ここは本当は異世界だろう
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国王との面会

キルツ王国は世界でも有力の大国だ。隣の魔族の国の国王は代々魔王と呼ばれ、魔王を退治しにいく勇気ある者が頻繁にこの国を訪れていたのだが、今はめっきりみられなくなった。

ツルギの町はキルツ王国の中でも武器職人が多い為、戦争があると繁盛する。

最近は減ったが、魔の国との戦争も頻繁で、両国の国境線上に広くある明き森は、魔の国の軍勢を阻むために作られている。深き場所の小屋は、元は見張りのためだったが、今は久しく使われていない。

それが、この時代にきて初めて会った住人モノマーの話で解った。

そしてなにより、この世界は僕たちの生きていた世界とは全くの別物。

科学技術は僕たちの時代と殆ど同じだけど、魔法という能力があったり、亜人がいる。ここが本当に未来なのか疑わしく思うこともあるけど、今のところはそれで間違いはないはずだ。

言語は違うけど、ポリマーには通じたから、通訳してもらった。けど、翻訳機もあったんだよね。

僕たちの元の時代は古代って呼ばれて、発掘調査とかも行われてるらしい。

テレポートマシンのエネルギー源であるエミィはこの時代では回復するのに時間がかかることもわかった。

だから、それまでは何とかここで暮らそうって決めたんだ。



次はなにを作ろう?


「初めはどうなることかと思ったけど、何とかなったよね。ね、アリサ」


お兄ちゃんが、何かを言ってる。

この時代にないのは何だろう?

思いつかないや。また、同じ物でも高く売れるかな?


「……アリサ?」

「……え?」


お兄ちゃんが僕の名前を呼んだ。


「聞いてた?」


考え事してて、聞いてなかった。ごめん、お兄ちゃん。


「元気がないようですが、大丈夫ですか?」


ツカサが心配そうに顔をのぞき込んでくる。

あ、あんまり近寄らないで!!

僕がうつるから!


「ツカサにも心配かけちゃってるよ。」


えと、ごめん……。なんて言ったらいいんだろう……


「……え、と……ごめんなさい。」


つい、そう口にしてしまう。

いつもの癖だ。


「謝んないでよ、ただアリサが元気ないから心配しただけなのに。」

「えと、うん……。ありがとう」


お兄ちゃんが僕の額を小突いてくる。


「……。」


痛いよお兄ちゃん!

わかってる?

言いたいけど言ってもまた何か返されて負けてしまうのはわかっているので、黙って抗議の視線を送るだけにする。


「なによその顔~」


お兄ちゃんの手が伸びてきて、ほっぺに触りそうだ。


「……な、何でもない。」


いや~!やめて!冷たい手で抓らないで~!

少しずつ後ずさると、お兄ちゃんは手を引っ込めてため息をついた。

ため息つくと、幸せが逃げるんだよ。


「またなんか作ること考えてたの?」


うん。

何でわかったんだろう?

女のカン?


「──しばらくは昨日売れた分で生活できるから、無理に発明しなくてもいいんだよ?」


昨日、寒冷化の進んだ僕たちの時代で氷を溶かすために作った熱射装置を少し改造して、戦争がよくあるこの時代に使えるように機械とか、生き物以外を溶かすようにしたものをとある国の軍から敵国視察にきていた、硬そうなしっぽの生えた亜人に高く買ってもらえた。

もし戦果があがればもっと多く買ってくれるそうだ。

でも材料がないからな。この時代でも集めなきゃ。

そのお金でツカサが材料になりそうなものを探してくれている。


「……わかっ……てる。」


でも、何かを作りたくなるのは小さいときからの変わらない癖だった。

この時代にやってくる原因となったテレポートマシーンや、超小型特殊拡声器や、亜空間製造システムも、そのうちの一つである。


「すみません」


考え込んでいたら、外から声がした。


「あ、来たよ」


ポリマーの声だ。


「昨日ぶりー」

「はい、昨日ぶりです。」

「なのです」


お兄ちゃんがドアを開けて中へ招く。

ポリマーの後に、モノマーも続く。


「あ、許可取れた?」

「はい。」


応えたのはモノマー。

先日、モノマーがこのキルツ王国の国王と面識がある、それもかなり深い仲だと訊き、面会の許可を取ってもらえるよう頼んだのだ。

この時代で過去の人間である僕たちが暮らすためには、味方は多い方がいい。そうお兄ちゃんが言ったのだ。ミズキも賛成した。

今、ミズキはどこかへ出かけていた。


「今日の昼過ぎに訪れると、言ってきましたのです。」

「だれに?」


お兄ちゃんが訊ねる。


「ピクシーです。」


しばし沈黙。


「……誰?」

「王城の庭にすんでいる高位の精霊なのです。」

「精霊!?どんなの?」


この世界には、亜人だけでなく精霊もいたのか。

お兄ちゃんとツカサの声がきれいにハモった。

僕も驚いたけど、僕は驚くと声を出すんじゃなくて絶句してしまう方なので、声はでなかった。


「精霊は言語を持たないので、思念を伝えるのです。」


モノマーは、少し考えてからポリマーの方を窺い、そう言った。


「……どゆこと?」

「気持ちを直接伝えるのです。」

「……?」


僕もツカサもよくマンガとか本を読むから何となくわかったけど、お兄ちゃんには、よく理解できていないみたい。


「思念は受け取ったものの言語に訳されて伝わるのです。」


う~ん……。とお兄ちゃんは腕を組んで唸る。

スカートはいてるのにその格好はだめだよー!

まだ分かっていない様子のお兄ちゃんに、モノマーは具体的な例を示した。


「ポリマーも、精霊なのです。」

「「エ!!」」


ポリマーはなぜ注目されたのか分かっていない様子。


「……それで、言葉が……わかったんだ。」


納得である。


「皆様、国王様の元へおいでになるのではなかったのですか?」


注目から逃れたかったのか、ポリマーが話題を戻した。


「そうだった。

でも、すごいのかな?」

「ェ……なにが?」


急に戻されて、話についていけない。


「国王に面会できること。」


でも、モノマーには何となくわかったみたい。


「どうなのでしょうか。ボクは国王とは幼なじみなので、よく会うのです。」


首を傾げながらいった。

ポリマーが補足する。


「ですが、国王様は滅多に王城のお庭からでられないんですよ。」

「なら会えるのはラッキーなんだね。じゃ、早速いこうか。」


お兄ちゃんは準備を始める。


「え、いいんですか!?」


ツカサは慌てるが、ポリマーは気にしない。


「問題ないのです。」




キルツ王国王城の裏庭──花咲き乱れる場所


「ソフィア様。」


空気に溶けるようにして現れたのは、蒼の精霊リヴァイアサン。国王の背後に立ち、深々と頭を垂れる。体柔らかいなー。と、見る者がいたら思うだろう。


「どうしたーの?リヴァイアサン」


庭に座って花を編んでいる国王に、報告に来たのだった。

空はリヴァイアサンの心情を現したかのように、うすく曇っていた。


「魔王が軍を率いて動き出したようでございます。」


魔王とは、魔族の国の国王である。


「えっユウシャは?」

魔王は勇者と親友である。

だから魔王の目的は、間違いなく勇者である。

そして勇者は今、国王に無礼な行いをした罪でこの城の地下にある牢に投獄されているはずだった。


「未だ国王様との面会を望んでおられます。」


勇者が簡単に抜け出せるはずの地下牢からでてこないのは、ただ偏に、国王ソフィアに笑ってほしいからである。

庭に座って冠を編んでいる国王に、花の精霊ピクシーが報告に来た。普段の見た目は恰幅のいいおっさんである。


「ソフィア様。」

「どうしたーの?ピクシー」


いつも庭で好きかってしている、そのおかげできれいな庭ができあがるピクシーが、珍しく本来の姿──国王ソフィアを鏡写しにしたような容姿で国王の向かいにひざを突く。


「モノマーがきたようでございますよ。」

「え、モノがっ!?」

「はい。」

「いこー!」


編み終えた花冠をリヴァイアサンの頭にふわっと乗せ、ピクシーとともに王城の門までかけていった。

残されたリヴァイアサンは、乗せられた花冠に手を触れ、戸惑いの表情を浮かべていた。


モノマーは、ソフィアの親戚の中で、もっとも歳が近い。

親戚といっても母の従姉の主人の兄弟の孫だが。


「モノー!」


元気のいい少女の声が、門の前まで聞こえた。

ここはキルツ王国王城の正門前。

勢いのままお兄ちゃんとツカサ、僕と、ポリマーとモノマーでやってきたのだ。

ちなみに、初めにいたツルギの町の外れの明き森の深き場所からここまで、ポリマーの魔法で空を飛んできた。

僕の発明品の中に、エミィエネルギーを使わないテレポートマシーンはない。

ミズキはどこにいるのかわからないからいない。

僕は残るっていったのに、お兄ちゃんが無理矢理僕を抱えてここまで来てしまったため引くに引かれず、こうなっている。



「モノ!」


門の両脇に立っている衛兵の間を抜けてかけでてきた幼女は、モノマーに飛びついた。

モノマーも慣れているようで、動じない。


「久しぶりなのです、ソフィア」


幼女ソフィアの後ろからは、双子だろうか、とても背格好の似た幼女もついてきていた。


「うん!ポリマーもなかよし?」


モノマーの横に立っているポリマーをちらっとみて、訊いた。


「はいなのです」


衛兵がソフィアをモノマーから引きはがそうとするが、彼女は強くしがみついて離れようとしない。

が、軽く持ち上げられてしまった。


「モノ~!」


名残惜しそうに手を伸ばすソフィアを首の後ろをつかんで持ち上げているのは燕尾服を着込んだ人物。美形だ。

ソフィアは全く苦しがったりしていない。

魔法だろうか?


「ルシファー、ソフィア様をそんな風に扱っちゃだめじゃよー」

「ピクシーは甘やかし過ぎなのですよ」


ソフィアに似た幼女の注意など聞く耳も持たない美形。


「ソフィア様、中でごゆっくり。」

「ルシファーのイジワル~!」


そのままモノマーを筆頭に僕たちを王城の中へ招いた。



案内されたのは、裏庭の望める面会室。

奥にあるイスに座ったソフィアはモノマーを隣に座らせる。反対側の隣にはピクシーがすわる。

彼女の背後にはルシファーが控えた。


「なんのよ~う?」


完全にモノマーしか視界に入っていないよね、この子。


「えと、あのアリスさんがソフィアと話したいそうなのです。」


手でお兄ちゃんの方を示しながら用件を伝える。


「「え?」」


ソフィアとお兄ちゃんの声がかぶった。


「──あちらは、キルツ王国第六代国王、ソフィア・リョク・キルツ様です。」


ポリマーが紹介してくれた。

お兄ちゃんとツカサは驚いて声をもらし、何度もソフィアの方をみていた。


「あちらは、僕が最近知り合った古代の方達なのです。」


古代という表現は少し複雑な心境だが、実際そうらしいのでなにもいえない。


「え?」

「いろいろあって明き森の深き場所にある小屋に住んでるのです。」

「そーなんだ。」


ソフィアのほうもなんか納得できないみたい。


「ちなみに、後ろに控えておられるのは国王様をお守りする守護者のうちのおひとり、碧の精霊ルシファー様です。

兄者のお隣に座って居られますのは、花の精霊のピクシー様です。

ここには居られませんが、蒼の精霊のリヴァイアサン様もあわせて三銃士と呼ばれております。」

「たくさん……の、精霊?」


僕がつぶやくと、ポリマーが聞き取ってくれた。


「珍しいですか?」

「……ん。」


頷く。

この時代に来て少ししか立たないのに、もうこんなに多くの人間以外と会えるなんて。


「ここは、精霊の国キルツですから、ぼくにはアリサ様達精霊以外の方が珍しいです。」

「「エ!!!」」

「……!」


お兄ちゃんとツカサと、僕の驚きがかぶった。


「精霊の国!?」

「なら、外にいた衛兵さんも町を歩いていた皆さんもですか?!」


空を飛んでいる途中にすれちがったり地を歩いていた人々を思い返してツカサが訊くと、ポリマーは頷いた。


「はい。ツルギの町からきたので精霊以外の種族の方も少しはおりましたが、ほとんどはそうでしたよ」

「!!」

「精霊さんて、人と同じような見た目なんですね。」

「そう見えるのはあなたが人間だからですよ」

「そうなんだ。

 なんか、話しやすいですね、ポリマーさん」

賑やかな日々になりましたのです。

byモノマー

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