シンのちから
半端に次へ続きます。
サテライトキヤノンが発射されよとしていることを知らないジンの国の住民たちは、普段どうりに生活していた。
小指立ちのライ・シンとその付き人代わりの妹、ライ・メイも例外ではない。
機械が不得手なこの二人こそ、この国でもっとも知るのが遅いであろうと思われる。
その二人は今、長老の家へ向かっていた。
カナデがミズキを呼んでこいと速達で伝えたからであり、ついでに次キルツにいくときに持っていってもらう服を渡すため、メイがついている。メイは方向音痴で、シンに道案内をしてもらっているのだ。
しかし、カナデが何の用があってミズキを呼ぶのか、理由は知らされていなかった。
「ん?」
「どうしたの」
シンが少し目を細めた。
「何か、あっちで光ったよな」
「知らない」
シンの示す方を見たが、いつもどうりの空と薄い雲以外、何も見えなかった。
「急ぐか。」
シンが走り出そうとした。もちろん両手の小指で。
「走らないで」
シンが走ると、メイはついていけない。それでは道案内の意味はなく、メイは家に帰ることも、長老の家にたどり着くこともできなくなってしまう。
「ああ、悪い悪い」
──サテライトキヤノン 発射 まで あと 3分
──サテライトキヤノン 発射 準備 開始
上空では、いよいよ発射されようとしていた。
「シンの奴なら、打ち返してくれないかぁ?」
一面赤い部屋の中で記号の羅列を眺めてパネルに指を滑らせていた男は、そう呟いた。額に大量の汗をにじませ、床に塩辛そうな雨を降らせながら。
シンならばレーザーを打ち返せると、本気で思っている。
その脚は、歩くだけで地面を陥没させ、軽く振り上げるだけで周りに突風を生む。その指は、軽くつつくだけで大木をへし折る。その力の加減がうまくできないため、普段は両手の小指で歩いているのだ。逆に言えば、両手の小指だけで体重を支えられる。
だが都合よく、シンが出歩いている訳はない。
──サテライトキヤノン 発射 まで あと 1分
──サテライトキヤノン 発射 準備 完了
そうこう考えているうちに無情にも、発射準備が完了したことを、モニターは知らせていた。
そのころミズキはやっと立ち上がり、その画像データとの接続を切っていた。
「これ──めだ」
直視していられない。
解除したセキュリティをかけ直すこともせず、サテライトキヤノンが発射されることは、最後まで知ることはないだろうと思われた。
「やっぱりなんか光ってないか?」
「この時間に、星は見えない、はず」
長老の家のすぐ近くまできていた二人の見上げた先には、確かに何か光っていた。
──サテライトキヤノン 発射 まで あと 0分
──サテライトキヤノン 発射 します
その光が徐々に大きくなっていることに、
「ん?やっぱりなんか光ったよな」
気付いたときには、
「こっちきてるのか?」
そう言って空を見上げるシンのすぐ上──足の届く位置にまで、サテライトキヤノンの端は届こうとしていた。
とっさに勢いをつけて蹴りとばす。
加減を忘れたその蹴りによって空気さえも圧縮されて飛んでいき、その周辺の空気が吹き込んできて強い上昇気流が生まれた。
メイはとばされそうになり、とっさにシンに掴まれた。
蹴られて方向を変えたレーザーは、指令を終えて元の軌道へ戻ろうとしていた人工衛星へ直撃、大破した。
空には放射状に広がった薄い雲しかなく、昼間だというのに、流れ星が多く見えたという。
「何だったんだ?あれ」
風がやみ、メイが地に足を着いた。
「知らない。
けど、やりすぎ」
周りには舞い上がっていた植木鉢や衣類などが散乱している。
シンがいなければ辺り一面抉れて消滅していただろうから、それに比べれば軽いものだ。
「あ、ごめん、つい」
長老の家で共に夕飯を食べ、ミズキとケルベロスと二人の計六人でカナデの家についた。
道中、
「レーザーみたいなのが落ちてきたんだけど、理由とか知らない?」
というシンの問いに、皆そろって首を振った。
「お~いカナデ、ミズキ連れてきたぞ」
反応がない。
少し待って、再び呼びかける。
「お~い、カ~ナ~デ~……」
返事も反応もない。
丘の斜面を覆っている木々の間から、角が立派な大型の獣がでてきた。のそりのそり。
メイの隣で足を止め、大きな角でシンを脇にどける。エルクのようにも見えるが、この時代にも生存しているのだろうか。
「うおっ」
バランスを崩したが、転けずに体勢を立て直した。二本の小指でよくやるものだ。
そのエルクに似た獣はメイの隣に座り込んだ。
メイは手を耳に当て、角の方へ首を傾ける。
音を聞く仕草だ。
「そう」
何を聞き取ったのか、メイがそう呟くと、獣は立ち上がり、シンに土くれを蹴り被せてから木々の方へ戻っていった。またのそりのそり。
「どうしたんだ?なんかあいつ不機嫌だな」
「カナデは地下にいる
あの光は、カナデの仕業だって。
それと、あのこは不機嫌じゃない」
あのエルクに似た獣から聞き取ったのだろうか。不思議な力を持つ者がいるものだ。
「やっぱ?」
それは何に対する納得なのか。
「地下行こ。」
そう言うと、シンは片手を地面からはなし、軽く握ってこつんと地を打った。その間、片手の小指と中指で体重を支えていた。
強い振動が駆け抜け、木々が揺れ、木の葉が舞い落ち、鳥たちが舞い上がった。
その揺れに反応したのかどうかはわからないが、焼却炉のようなものが地面からはえてきた。
何かの仕掛けが作動したのだろう。
今の揺れでしりもちをついたベルは恥ずかしそうに立ち上がり、同じく転んでいたロスを起こした。
シンが焼却炉のようなものへ向かっていくので、その後に続く。
そこは、階段だった。
「どこへ繋がっているのですか?」
「地下」
「カナデの部屋」
「つまらないとこ」
「機械ばっかだよ」
私の問いに、思い思いに答えてくれたシンとメイ、ロスにベル。
階段の先は、殺風景な四角い廊下。
途中いくつかの扉の横を素通りしながら突き当たりの部屋へ入ると、暗いそこの中にカナデがいた。
「カナデ、ミズキ、つれてきたよ」
そのメイの言葉を聞いていたのかいないのか、
「す、すまなかったッ」
スライディング土下座。
それを見て何かに合点がいったのか、
「一発いい?」
にっこりとシンが言う。
たぶん、普段からこのように笑うわけではないだろう。
「よね。」
「でしょ」
メイとロスが同感と言った感じで続く。
顔はいつもどうりなのが、怖いところだ。
観念したのか、軽くつつくだけなら「オーケイ」と。ひきつった顔で、脂汗を流しながら許可した。
あの部屋には重要な機器が多いそうで移動し、円錐型の部屋。数日前にシンが乗っていたマットもあり、カナデはその上に座った。
「本気でいい?」
「死なない程度にたのむぅ」
「じゃ、ほんとにいくね。冗談だったんだけど。」
シンは片腕を持ち上げ、そのまま小指をカナデの額にちょこんとあてた。
「グアァッ」
それほど強くも見えなかったのだが、そう声を上げ、後ろ向きに倒れた。近寄ってみると、白目をむき、口のはしには泡が……コレ生きてますか?
「やりすぎ」
「しかたないよ」
「トウゼンのムクイだ」
メイ、ロス、ベルの順である。
「加減したつもりなんだが……」
「力、また、強くなった」
「かもしれない」
ケルの発言に、同意するシン。
誰も驚いていないが、これは、日常的な光景なのだろうか。
これは、力が強いの一言で片付けてもよい問題なのだろうか。
その後、しばらく待ち、カナデが起きあがらないため、メイとロスがキッチンを勝手に借り、夕食を作って持ってきてくれたものを6人で食しながらカナデを観察していた。
一向に動く気配がない。
顔を近づけると、息はしていることがわかる。
ベルが肩を揺すってみるも、反応はない。
このまま放っておくか。とシンが言った。
そうしよう。と、メイが言った。
ケルが真っ先に部屋から出ようとするのに続き、ロス、ベル、メイ、シンの順に扉へ向かった。
「ミズキは来ないのか?」
「ぁ、行きます」
最後にシンが振り向いて、カナデと皆を見比べていた私を呼んだ。
シンは私がでると部屋の扉を閉め、下の方にあった操作盤をいじって扉が外から開かないことを確認し、ニシシと笑って歩いていった。
地上にでると、日が傾きかけていて、辺り一面橙に染まっていた。
今日はこの後どうしよう。
ふとそう思った。
この世界に私の家はない。今までは偶然泊らせてもらっていた訳だし、今から明き森の深き場所にある小屋へ行くこともできない。第一場所がわからない。
その気持ちを読んだわけではないだろうが、
「今日はカナデん家に泊まってくか」
シンが言った。
「森、そろそろ危ない」
メイも同調する。
なぜ、森が危ないのだろう。
「また~?」
ベルが不満を漏らす。
「ベルは、帰る?」
ロスが尋ねると、ベルは首を振った。
ケルはそれでいいようで、何も言わない。
カナデの家は広く、部屋はおそらく有り余っているだろうが、勝手に泊まってもよいのだろうか。
次こそ終わる予定です。




