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ここは本当に未来だろうか  作者: 言正日月
第二章 ここは本当に未来なのかも
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長老の家の中で

あと二話程で、終了したいと思います。

 長老の家では殆どの家事が自動制御の機械によって行われ、長老は紙の本が壁一面にぎっしりと積まれている書架にこもりきりだった。


 長老の家にきて数日。

 一度も外出せぬまま、おそらく二日が過ぎた。

 家の中を回って子供たちにイタズラされながらも機械を見て回っていた昨日は、この時代の技術の高さに驚いた。

 中には電気化が進みすぎていて、それは電気にしなくてもよかったのではないかと思えるほどだ。

 部屋は用途によって内装だけでなく素材が異なっていて、壁一面に機械が埋め込まれている場所もあった。

 紙の少なさにも驚いたが、この家はそれでも多い方なのだと知らされたときは、紙の本が懐かしくなったものだ。

 ベル、ロス、ケルは遊び相手がいなくて暇していたようで、長老の家の中でも遊びにつきあうこととなった。

 屋内での遊びは私たちのいた時代と相違がないものが多く、遊んでいると、今は無き施設の子供らのことを思いだした。


 今日は先ほどまで走り回っていたのだが、やはり長年のインドア派な私の体力は長くは持たず、疲れて部屋の隅に座っていると、


「ミズキ」


 ケルが声をかけてきた。

 相変わらず眠そうな顔で、片手には葉色の紙を、反対の手にはブランケットの端を持ち、床に引きずっていた。清掃も機械が行い、床に埃が溜まっているなどということはないから、引きずっていてもブランケットはきれいなままだ。


「泣いてる、どうして」


 ベルとロスは部屋の中央で本を開いてこうでもないあーでもないと言いながら折り紙をしていた。

 先ほどまではケルもその中にいたのだが、一人だけさっさと完成させて離れてきたのだ。

 俯いていた顔を上げると、膝のあたりが濡れていた。

 案外涙もろくなっていたのを忘れていた。

 袖で目元を拭い、笑ってみる。


「どうしてでしょう」


 あの子らは今、どうしているのだろうか。


「どこ、痛い」


 ちょうど、ケルほどの身長の子が多かった。


「どこも痛くありませんよ」


「こころ……?」


 ケルは首を傾げる。


「心でもありません」


 そんな仕草が、懐かしい。


「眠い……?」


 首を反対側に傾ける。


「いいえ。」


 私が首を左右に振ると、ケルは一歩踏みだし、私の隣に足を投げ出して座り、ブランケットを頭からかぶった。


「何かあったのですか?」


 寒いのだろうか。


「なに?」


「聞いてもいいですか?」


 急に、この子の過去が気になった。


「なにを?」


「昔のことです。」


「ぼくの?」


「はい。」


 会ったときからいつも眠そうで、ほかの二人と三人で行動しているところしか見ないが、いつも近いのに離れて行動しているように見えた。

 今も、ベルとロスは二人で何とかケルの作ったものを参考に折り紙を完成させようとしているが、ケルは離れて私の隣で小さくなり、隠れるようにブランケットをかぶっている。


「……いやだ。」


「そうですか。」


 訊かれたくないことは、訊かない方がいい。

 誰にでも、言いたくないことはあるものだ。

 あの人たちにも、あるのだろうか。

 共にこの時代にやってきた、同じ施設で育った三人を思い浮かべる。

 臆病で、兄に引け目を感じているアリサ。

 彼女はいつも、兄には昔のように笑ってほしいと言っていた。

 自分のせいで兄は女装をするようになり、性格まで変わってしまったと思っていて、兄に関することになると途端にネガティブになる。

 コスプレをしていたら性格も変わってしまったアリス。

 本名が嫌いで、呼ぶと不機嫌になり、この時代に来る少し前からはもっぱら女装をしている。

 元々は妹が好きだった、アリスというキャラクターのコスプレをしていたのだが、それが本当に彼の性格になってしまい、その名を名乗っている。少しシスコンのきらいがある気もする。

 施設ではいつも妹の影を追っていた。彼にとって一番大切な存在が、妹だった。

 姿が見えないと探し回り、いつでも、どこへ行くにもついていっていた。自分のことは二の次で、一回、アリサが熱を出したときには付きっきりで、自分はろくに食事もとらずに看病していて倒れたこともある。

 たまにふとしたことで落ち込む、普段は明るいが物静かなツカサ。

 彼は、経緯はよくわからないが怪我を負い、歩けない時期があった。現在も完治はしていないながらも違和感を感じさせない歩きができるようになっているが、足を隠している。足に傷があるのかもしれない。

 体力を付けるためと言って施設内を走り回って何かの大会にでて優勝していたこともあったな。

 三者三様だが、皆共に悩みを他者に相談しないタイプな気がする。

 会ったら訊いてみようか。

 思えばなぜ、自分も、アリサの助手などやっているのだろう。

 金ではない。やりたいことがたまたまそれだったわけではない。

 居場所がほしかった……のだろうか。


 そういえば、私は何のためにこの家へ……。

 ああ、そうだ。この時代の科学の発達具合や家庭の状況を確認しようと思ったのだ。数日で忘れてはいけない。


 ケルが足の上で折り紙を折ったり広げたり、苦戦していた。


「──何を折りたいのですか?」


「かめ」


 質問しておきながら、返答を全く聞いていなかった。

 ケルも助けを求めるわけでもなく、あくまでも自分の力で折っていき、皺がたくさん刻まれたかめができあがった。

 この家の機械は、カナデの家のものと同じ仕組みなのだろうか。


「ケル、ミズキ、何してるの?」


 俯いて、機械を触らせてもらう口実を考えていたら、ロスから声がかかった。


「……ごはん」


「うん。アシュラが呼びにきたけど、きいてなかった?」


「うん」


 三人につれられて食事スペースへ向かう。

 料理はすべて、長老の手作りらしい。


 食事を口に運びながら、何かいい口実がないかとない頭を振り絞る。

 だがいい案は何も思い浮かばず。


「長老様」


 直球しかない。


「なんじゃぁミズキぃ」


 長老は手を止め、ミズキの方をしっかりと見た。


「機械の操作方法など、お教え願えますか?」


「ん? 何がしたいんじゃぁ?」


「機械の仕組みを理解し、この国に慣れたいのです。」


 少し、言い方がおかしかっただろうか。


「昼が済んだら儂の部屋にでも来るといぃ。」


 そう了承してもらえ、機械についての指導を受けることとなった。


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