お姫様と村人B
「ああ、なんて素敵なお姫様。どうか、この私と結婚してください。」
そんなよくある物語。これが、私たちの学芸会のワンシーン。
私は一国のお姫様。誰もが見惚れるお姫様。
そんなお姫様に王子様が結婚を申し込むところ。
運命の白馬に乗った王子様。女の子なら、誰でも一度は憧れる。
どうか どうか 王子様
私のことを 迎えに来て、と。
王子様の役の子は、クラスで人気の男の子。スポーツ万能、頭も良くって優しいし、顔も良いから、ずるいよね。
その人を好きだっていう女の子、クラスで5人は知ってるよ。
そんな男の子と、もし付き合えたら。まさか本当に結婚なんて出来たとしたら。
みんな、羨ましがるだろうね。だって、本当にモテモテなんだもの。
でも、でもね。私の好きな人は、その人じゃないの。
「お姫様と王子様は、とってもお似合いですね!」
そのセリフしかない村人B。私が好きなのは、村人Bの男の子。
スポーツは、苦手じゃないけど得意でもない。頭もそんなに良くないし。不細工じゃないけど、カッコイイとは言えないね。
周りの人にどんな人?ってもし聞いても、きっと真面目そうとしか言われないと思う。
でもね、ほんとはすごく優しいんだってこと、私ちゃんと知ってるよ。
それは、ある強い雨の日のこと。
朝、村人Bくんがちょっと壊れた傘を持って学校に来てる姿を見かけてた。
冴えない傘だなぁなんて思ったから、よく覚えてる。
その日の放課後、私が傘を差して家に帰っていたら、雨の中を傘も差さずに走ってる村人Bくんを見た。
あれ、朝は傘、ちゃんと持ってたはずなのに、おかしいなって思ったんだ。
そうしたら、どこかで見たことあるような、ちょっと壊れた傘が広げたまんまで、遠くの歩道に落ちているのに気がついた。
壊れたから捨てちゃったのかな?道に捨てるなんて、いけないんだ。
そう思って、その傘を拾おうとした時、私気付いちゃったんだ。その傘の中に、小さな猫がいたことを。
野良猫かな。ひどくずぶ濡れだった。ずぶ濡れなのに、壊れた傘が差してあるの。
予想外の出来事に驚いて、でもなんだかその姿を見ていると、すごくあたたかい気持ちになって、思わずキュンとしちゃって
「冴えない傘だね。」
なんて言って、思わず笑っちゃった。
次の日、村人Bくん風邪で学校休んじゃって。
ばっかだなぁ。あんな土砂降りの雨の中、傘も差さずに走って帰るからだよ。
でもそれから、ずっと村人Bくんのことが頭から離れない。
ねえ、誰か教えて?
一国のお姫様が、心の優しい村人に、恋することは許されないことですか?
「お姫様と王子様は、とってもよくお似合いですね!」
そんな言葉、聞きたくないよ。嘘でも言ってほしくない。
演技なのはわかってる。それでも、私の心は雨模様。
あーあ、人生って本当に思い通りにならないね。
この人を好きになろう!って、決めてなったわけじゃないのに。
好きな人すら、自分で決められないんだね。
どうか どうか 村人Bさん
私の心に 冴えない傘を。