異世界殺人鬼
目覚めると私は白一色の空間に立っていた。
肉体は半透明で少し浮遊している。
「ここは……」
不思議に思っていると、すぐそばに黒い煙が出現した。
煙は次第に輪郭を持ち始めて、やがて黒い角を持つスーツ姿の女に変貌する。
女は意気揚々と私に話しかけてきた。
「久津間歪!! 貴様には今から異世界に転生してもらう!!」
「あなたは誰ですか」
「吾輩はヴァレン! 最上級の悪魔である!」
スーツの女は腕を組んで名乗る。
何から何までふざけた話だが、ひとまず乗っていることにした。
「その偉い悪魔さんが僕に何の用でしょう」
「久々に芯まで腐り果てた禍々しい魂を見つけたのでな! 貴様のいた世界を管轄する神を脅し――否、穏便に交渉して魂の権利を譲ってもらったのだ!」
「つまり拉致したと」
「ブハハハ! 概ねそういうことであるな!」
悪魔は堂々と笑って肯定する。
会話をしているうちに、直前の記憶が徐々に蘇ってきた。
殺人鬼だった私は、末期癌で死んでしまったらしい。
なんとも情けない最期ではあるが、病ばかりはどうしようもなかった。
悪魔は私を指差して宣言する。
「久津間! 貴様には世界を滅ぼしてもらう! そのためのスキルも授けてやるぞ!」
私の手元が発光し、そこに一本の黒いナイフが現れた。
悪魔は自慢げに語る。
「スキル名は【殺人鬼】!! 貴様が標的として定めた存在の防御を無視して傷付けられるようになる! 単純だが強力なスキルだな! スキル名も貴様にピッタリだ!」
「あの、どうして世界を滅ぼさないといけないんですか?」
「ちょうど寿命を迎えそうでな! そのまま廃棄してもよかったが、せっかくなので派手に壊すことにした! 貴様は今日から吾輩の眷属だ! その無敵の力で世界に終止符を――」
「嫌です」
私はさりげなく踏み出し、ナイフを悪魔の首に刺した。
悪魔はきょとんとした顔になる。
「……え?」
「他人に指図されるのが、死ぬほど嫌いなんですよ。だからすみません、我慢できなかったんです」
「き、貴様……最上級悪魔である……吾輩を……」
倒れた悪魔の身体が砂のように崩れて端から消滅していく。
同時に白い空間に亀裂が走り、甲高い音を立てて砕け散った。
周囲が闇に染まり、私は浮遊感を覚える。
遥か先に惑星のような物体が見えた。
私の身体は、引き寄せられるようにしてそこに接近していく。




