タイトル未定2026/02/04 08:20
子供達を守るためシスターは孤児院を買収した貴族の元へ向かった。
貴族を買収できるだけの金なんて持ち合わせていないが、それでも何か出かかるはずだ。
今まで神に祈りを捧げてきたのだ。救いの手が必ずあるはずだ。
藁にもすがる思いで、門番に頼み込むと意外にもすんなりとバトナップ卿の元まで案内された。
何も持たない田舎の人間を貴族が迎え入れた理由をシスターは何となく理解していた。
怖くて震えが止まらなかったが、それでも子供達を救うには手段を選んではいられない。
覚悟を決めてバトナップ卿に深々と頭を下げる。
「お願いします!何でもしますからあの孤児院を返してください!」
「シスターさん。あんたに俺たちが出した額以上の物を出せるのか?」
「それは…」
やらしい目線を向けながら、バトナップ卿は脂ぎったその手をシスターの肩に回した。
「あんたに払えるのはせいぜいその綺麗な体だけだ。そうだな…今夜俺を満足させられたら孤児院は返してやるよ」
「…私は聖職者です。そんな事をすればもう…」
「なら別に構わないぜ?あんたんとこのガキ全員奴隷市場に売り捌けば高級娼婦と何度でもやれるからよ!」
「そんな事をしたら神があなた達を!」
「悪いな!俺達は神を信じないからよぉ〜!まぁ俺達はただチャンスを与えてやろうって言ってんだ。身を汚したくないなら別にそれでもかまわねぇからよ!」
背に腹は変えられない。
体を売ることでしか子供達を守れないというならばそうするしか道はない。
それに、こうなる事は分かっていた。
理解した上で、覚悟してここへ来たのだ。
「…わかりました。この身を好きに使いなさい。」
「そうこなくっちゃな!!」
汚れた私を神は受け入れてくれるだろうか?
子供達にどんな顔を向ければいい?
そんな罪悪感と不安を抱くシスターの表情をバトナップ卿はスパイスとして楽しむように笑いながら、その手を伸ばした時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「待て!」
「!?」
そこに現れたのは傷顔の冒険者だった。
傷顔の冒険者はパンパンに金貨が詰められた袋を困惑するバトナップ卿の前に差し出す。
「何のまねだ?」
「これで孤児院に関係するもの全てを買い取らせてくれないか?」
金貨を確認したバトナップ卿は「…いいだろう。」と金を懐に収めると金庫から複数の書類を取り出し、足元に散らした。
「ほらよ。拾え」
ひらひらと地面に落ちた書類を傷顔の冒険者は文句一つ言わずに拾い上げ、一枚一枚を確認すると「交渉成立だ」と書類をまとめた。
「子供達は自分が買い取りました。これがその時の権利書です。子供達の元に帰ってあげてください。シスター」
「…あなたはどうしてそこまでしてくれるんですか?」
その問いに対して傷顔の冒険者は、下心のない純粋でまっすぐな目で答えた。
「この理不尽な状況を金で解決できるなら喜んで全財産払いますよ。なぜならあの孤児院は俺にとっての希望ですから」
顔傷の冒険者がなぜ、私達のためにこんな大金を払ってくれたのか疑問が残るが、少なくとも彼からは悪意を感じなかった。
幸運にも何も失う事なく全てを取り戻し、子供達の元へ戻れると喜んだ矢先にバトナップ卿はその空気を破壊した。
「いやいや待て待て誰がこの金だけでシスターも買い取れるっていったよ?」
「…彼女は聖職者だ。どんな理由があっても売り物にはならないはずだぞ?」
「いやーなにせ違法だからよぉ〜高かったんだぜ?欲しけりゃ今払った倍寄越しな!」
「そんな!じゃあどのみち孤児院は!?」
「そうさ!シスターは俺たちの所有物だからよぉ〜あんたが俺たちに股を開こうが開くまいがガキ共もあの孤児院も、売っぱらっちまう予定だったんだよ。性奴隷が、売り飛ばされたガキのこと思って必死に腰を振る姿を見てみたかったが、そこの顔面ぐちゃぐちゃの正義の味方のおかげでガキ共は助かるんだ。よかったなぁ!」
部屋の中へ武装した集団が展開し、シスターと傷顔の冒険者を囲った。
屋敷に入る際、武器や凶器になり得る物全てを取り上げられているため、この状態で対抗する術がない。
「…」
「おい!どうした?流石にそんな額払えないってか?ならとっとと帰りな!これからお楽しみだからよぉ〜」
フル装備の兵士に対し、丸腰の冒険者と戦とは無縁な聖職者。
どう考えても勝機はなかった。
「…冒険者様。子供達を助けていただき本当にありがとうございました。私は大丈夫です。だから…助けていただいてばかりで大変もうしわけありませんが子供達をお願いします。」
「お!覚悟を決めたみたいだな!まぁそんな怖がらなくても気持ち良くしてやるから安心しろよシスター!!」
「…私は好きにすればいい。その代わり、冒険者様は無事に返してください」
「いいだろう。その覚悟に免じて見逃してやる。おい!傷野郎。とっとと帰りな!そんなに諦められないなら俺たちが飽きて捨てる時に半額の値で売ってやらよ」
無数の刃を向けられ、助けようとしたシスターが諦めたこの状況でも、傷顔の冒険者は冷静だった。
バトナップ卿の元へ行こうとするシスターの手を掴んで引き止めると屋敷の外にまで聞こえるほど大きな声で問う。
「あんたは聖職者を奴隷として買い取り奴隷として売ろうとしている。これに間違いはないな?」
「うるせぇな。その通りだよ。だからかなり金がかかったっていっただろう?」
傷顔の冒険者は、バトナップ卿からの言質をとるとニヤリと笑い、再び大声を出した。
「聞いたか?ジーク!!」
「ああ。俺の部下全員がしっかりと耳に入れたぜ!!」
「なに?!」
次の瞬間、扉と窓全てを蹴破り、白い鎧に身を包んだ騎士達が突入して来た。
「なんだお前!?くそっ!!」
「聖騎士団だ!大人しく投降しろ!」
騎士達は圧倒的な実力で抵抗する兵隊達を斬り殺し、バトナップ卿を捩じ伏せて拘束した。
「お前らは違法な取引の常習犯だそうだな?今までは上手く逃げ回っていたらしいが、ここがお前らの終点だ。一生牢屋でけつでも堀あってろ」
「貴様ら!!俺を誰だと思ってやがる!!」
貴族の立場を盾にするもの騎士達は一切怯む事なく、乱雑に馬車へ押し込んで行った。
「身分と金だけのクソ野郎だろ?残念だな。俺達には上級のものも捌ける権限がある。証拠があるなら尚更だ。」
「クソッ!!傷野郎!テメェぶっ殺してやる!!」
その脅迫に対し、傷顔の冒険者は不敵な笑みで答えた。
「あいにく死ぬのには慣れてるよ」




