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 ギルドを訪ねたシスターは、ナンパしてくる冒険者達を無視してまっすぐ受付カウンターの元へ向かった。


「あの!いつもうちの孤児院に寄付してくださっている冒険者の方を教えていただきたいのですが…」

「すみません。本人の希望で匿名としている為、お答えできません」

「でも!このままお礼も言えないのは!」

「すみません。規則ですので」


 受付嬢は、断固として応えようとしない。

 シスターは肩を落として目に見えて落ち込んだ。


「…ですよね…これでわかるならわざわざ匿名にしませんよね。でしたらせめてこれを渡してもらってよろしいでしょうか。」


 シスターは、分厚い封筒を差し出した。


「これは?」

「子供達からの手紙です。せめて私達が感謝している事を伝えてもらいたいのです。」

「了解です!これなら彼も喜ぶと思いますよ!」

「彼と言うことは男性の方なのですね」

「あ?!いや今のは!」

「性別がわかっても特定できませんから安心してください」


 そう言って微笑んだシスターの顔はどこか寂しげに見えた。

 

 *

 

 村専属の冒険者だからとはとは言え、こんな傷だらけの顔を子供達に見せれば怖がらせてしまうだろう。だから俺は村から少し離れた場所で野宿している。

 村付近には魔物よけの結界が敷かれているため、魔物に寝込みを襲われる心配はない。

 この辺りの気候からして、寒暖差はほとんどなく、キャンプするには最適な場所だった。

 いつものように川に仕掛けた罠で取れた魚に串を突き刺さして焚き火に当てながら焼けるのを待っていると珍しく客人が訪れた。


「ハァ…ハァ…何でこんなとこに住んでるんですか!!…水をください…」


 シーナが柄にもなく大汗をながし、息を切らしながらやって来た。

 緊急時用に寝泊まりしている場所を伝えてはいたが、まさか受付嬢自ら来るとは思わなかった。

 客人が来ることなんて想定していなかったため出せる茶はない。

 仕方なくろ過した水を差し出すと普段の上品な姿からは想像できない勢いで豪快にコップ一杯の水を飲み干した。


「ここに住んでるのは金を出来るだけ残しておきたいからだ」


 ようやく落ち着きを取り戻したシーナが呆れ気味に応える。


「だからってこんなとこで野宿なんてしませんよ!」

「要件は?」


質問された事で、シーナは本題を思い出して慌てた様子で答えた。


「大変なんです!!村の孤児院が!」

 


 急いで孤児院へ向かうと、胡散臭い茶色く薄汚れたフードで顔を隠す男達が子供達の手を縛り、馬車へ放り込んでいた。


「おい!何で奴隷商人が孤児院をの子供を?」


 男達を問いただすとリーダーと思われる腰の曲がった男がニヤニヤと笑いながら答えた。


「この孤児院は売られたのですよ。この建物もガキ共も全て我々が買い取った大切な売り物だ。」

「…誰があんたらを寄越したんだ?」

「ベトナップ卿ですよ」


 確かこの村を統治している貴族だ。

 前々から無茶な政策で村人達を苦しめていた貴族だったが、ついに村人を売りはじめるなんていよいよクズさにも拍車がかかってきたらしい。


「旦那は確かこの孤児院に多額の寄付金を入れていらしたそうですな。おかげでガキ共は元気いっぱいで高く売れそうだ」

 

 皮肉を言って煽られるも貴族がバックにいるとなれば下手に手ができない。

 仕方なく奴隷商人の手に金貨が入った袋を握らせる事にした、


「子供達全員を買い取らせてくれないか?」

「あと三枚つけてくれたら考えるんですけどねぇ」


 何の迷いもなく三枚の金貨を追加で握らせるとおとこはニンマリと笑って命じた。


「よし!お前ら!仕事は終わりだ!帰る前に美味い酒飲んで帰るぞ!」

「そりゃありがてぇ!!」


 奴隷商人達は嬉しそうに撤収して行った。

 拘束を解かれた子供達は皆、自分達を買い取った傷だらけで不気味な男に恐怖していた。

 俺に向けられる表情はまるで初めて魔物を目にしたように青ざめており、中には泣き始める子もいる。

 そんな中、一番年長者であろう少年が他の子供達を庇うように前に出た。

 この場で唯一俺を恐れていない。

 むしろ勇敢にもこちらを睨みつけている。


「あんたが俺たちを買い取ったのか?」

「そうだ。」

「俺たちをこれからどうするつもりなんだ?」

「安心してくれ。君達はすぐにシスターの元へ返す」


 少年は思いもよらぬ答えに拍子抜けしたように表情を歪めた。


「なっ?!あんたは俺たちをただ救うために大金叩いて買い取ったってのか?」

「心配なら契約書も領収書も全部この場で燃やすが?」

「そんなことしていったいあんたに何の特が?」


 まだ完全には、信用しきれていないようだ。

 当然下心なんてものは微塵もない。

 ただの良心だと言えば聞こえはいいが実際は人助けに生きがいを見出しているだけだ。

 これまで何度も転生して来ていろんな時代の人々と話して来たが、この価値観は誰も理解してくれなかった。

 俺自身にもなぜこんな価値観なのかの答えは分からない。


「そうだな…理由か…何で俺は他人を助けるんだろうな…」

「あんたもしかしてバカなのか?」

「そうだ!それだ!俺はこの上なくイカれてるんだ!だからお前らを俺は助けた!…ってのは流石に無理だよな」

「…」


 少年からの疑いの目はさらに鋭くなった。

 小さな何かに袖を引っ張られたため反射的にそちらをみると、そこには袖を掴みながら不思議まそうな目でこちらを見上げる幼女の姿が会った。


「パパ?」

「パパ?俺がか?」

「こら!違うぞ!そいつは!」


 すると子供達は少年の袖を掴んで宥め始めた。


「ミリア姉!この人そんなに悪い人には見えないよ!もういいじゃん!素直に感謝しようよ!」


 青ざめていた子供達の表情が少しだけ和らいでいく。


「でもよぉ!」

「根っからの悪人ならこの子がこんなになつくわけないじゃん!」

「……それもそうか…」


 何だかよくわからないが納得してくれたようだ。


「なぁ君。シスターはどこへ行ったんだ?」


 子供達は皆再び暗い顔になり、その中で少年が答えた。


「シスターは孤児院を買い取った貴族のとこに行ったよ」

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