2.朽ちない肉体
透き通って底まで見える綺麗な川、生い茂る森林。小鳥の囀り。
そんな大自然の中を数々のモンスターが徘徊している。
まだ剣、槍、弓など原始的な武器しか存在していない。
そんなファンタジーのような時代が次の転生先だった。
別にどんな時代に転生しようが俺にはどうでもよかった。
助けを求めるものはどんな世界にも存在する。そんな人々のために生きて死ぬ。それでいい。
世界を征服しようとする魔王を倒すため、勇者になった俺は仲間を引き連れて旅に出た。
その旅の道中に体の異変を感じた。
毒に侵されても苦しいだけで死ぬことはなく、即死するはずの攻撃を受けても数ヶ月後には回復し、すぐに戦場へ復帰して戦えた。
その異常な治癒能力のおかげで、順調に旅は進み、魔王を討ち取ることに成功した。
ようやく世界に平和が訪れたのだ。
しかし、世界は俺を讃えるのではなく拒絶した。
魔王を倒した事を国王へ報告した瞬間、何百人もの兵士に包囲されたのだ。
兵士は皆、鬼と対峙したかのように震えながらも必死に刃をこちらに向けている。
旅を共にした仲間までもがその包囲網に加わっていた。
魔王と言う世界中の精鋭が束になっても敵わない脅威をほぼ一人で倒した化け物の矛先が今度はこの国に向くかもしれない。
そう考えるのは必然な事だろう。
俺はこうなる事はすでにわかっていた。その上でこの国に帰ってきたのだ。
この死をいつものように受け入れよう。
武器を捨て、自ら両手を縛り上げて投降する。
これでいい。
皆が救われるならそれで構わない。
*
次の日には俺は、国の裏切り者として処刑された。
憎悪に溢れた冷たい視線が俺に向けられる中、巨大な刃が振り下ろされ首を刎ねた。
その瞬間この世界に転生してからの違和感の正体に確信を持った。
首を刎ねられたと言うのにいつまで経っても俺の意識は飛ぶことはなかったのだ。
いつもなら神様のいるあの殺風景な世界に戻るはずの俺の魂は、この世界に留まり続けている。
数日間晒し首にされ民衆から石を投げつけられた。
その間、動くことはできなかったが、それでも意識が飛ぶことはなかった。
その後に火葬され、数年の月日がたったある日、骨だけになっていた俺の体は完全に再生した。
棺桶を破り土をかき分けて地上へ出るとそこは教会裏の墓地だった。
せめてもの慈悲からか、まともな墓を作ってくれたらしい。
俺の墓にはまだ新しい花束と手紙がそえらていた。手紙の送り主は共に魔王を倒した仲間の一人である魔法使いの「メディサ」のようだ。
メディサはエルフと言う長寿命の種族で、よく生まれ育った「森の国」の話をしてくれていた。
封筒の中に入れられた手紙にはただ「ごめんなさい」と書かれており、いくつもの雫が落ちた後があることから、この手紙を書きながら涙をながしていたのを見てとれた。
この「ごめんなさい」と言う言葉に嘘偽りのないことをこの涙の跡が証明している。
彼女は俺を処刑する事に反対していたのだろう。
だが従わざるおえなかった。
俺に味方すれば故郷を滅ぼすと脅されていたのだろう。
彼女には一切罪はない。今まで散々裏切られてきた俺にはそれがよく分かる。
ひとまず教会に入り、適当な衣服を身につけて、まだ爛れている顔に包帯を巻いた。
これでしばらくは身バレすることはないだろう。
だからと言って、この街に留まり続ければ、国中から命を狙われる。
最悪の場合かつての仲間達が俺を復活させたと疑われるかもしれない。
それだけは避けなければならない。
俺は行く宛てのない旅へ出た。
いくつもの山を越え森を抜け、川を渡りたどり着いた小さな村で身を隠す事にした。
村での生活に慣れてきた俺は、勇者時代の知識を生かして村専属の冒険者になり、誰もやりたがらない地味で危険な依頼をこなして日銭を稼いでいた。
「早かったですね!!」
依頼達成の報告をして薬草を提出するとこの村のギルドの受付嬢である「シーナ」が笑顔で対応してくれた。
それに対して俺をよく思わない他の冒険者達がいつものように俺を罵ってくる。
「気色悪い傷野郎が」
「低ランクの依頼しかこなせねぇくせによく堂々としてんな」
不気味な外見のせいからか、やたら目の敵にされている。
そんな俺を庇おうとシーナは顔を赤くして冒険者達を睨みつけた。
「この人はあなた達が嫌がる仕事を!!」
「いいんだ」
「でも!」
「いつもの書類を出してくれ」
「…わかりました」
シーナは何か言いたげだが、しばしば引き下がった。
長居していたらまた同業者から絡まれるだろう。
トラブルがおきるまえに早々に退散するとしよう。
「どうぞ。孤児院への寄付金関連の書類です」
「おいおい!孤児院に寄付だって?まさかシスターさんにまでお近づきになろうなんて考えてんのか!」
「お前みたいな切り傷だらけの偽善者があの美人と釣り合うわけねぇだろ?」
「…」
「あなた達!!いい加減に!」
「サインしたから提出頼む。いつも通りしっかり振り込んでおいてくれ。あと送り先は匿名にしとくのも忘れないように頼む。」
「…わかりましたけど…そろそろ自分のためにお金を使ったらどうですか?例えば顔の傷跡を少しでも治すとか」
「これでいいんだ。これ以上この村に迷惑をかけたくない」
「迷惑って?あなたのおかげでいつもこの村は助かってますよ?」
「…また来る」
そう言い残しギルドを後にするとすれ違いざまに修道服を着た女性がギルドへ入っていった。
修道服からはみ出ている綺麗な黄金色の髪、綺麗な青い瞳。この特徴を持つ人物はこの村でたった一人のシスター「アドレナ」の他にはいない。
彼女はたった一人で孤児院の子供達を育てている根っからの善人だ。
俺も彼女と孤児院の子供達の為に残りの余生を使うと決めた。
とは言ってもこの肉体に寿命の概念があるのかすらわからないのが。




