表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた令嬢はもう頑張らない!  作者: 九葉(くずは)
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

第16話 嫉妬の火花

 「……素晴らしい。これほどの生命力、これほどの意思。もはやただの魔法ではない、神の(わざ)だ」


 マクシミリアン皇子が、私の座る大王蔦(だいおうづた)の葉を見上げて感嘆の声を漏らしました。

 先ほどまでの高圧的な態度はどこへやら、その瞳には熱烈なまでの羨望が宿っています。


「フローラ・グリーンフィールド。改めて提案する。帝国へ来い。貴女を帝国筆頭魔導師として迎えよう」


「ひっとう……?」


「左様だ。我が帝国の全魔導師を統べる地位だ。望むままの魔導工房と、一生遊んで暮らせるだけの俸禄(ほうろく)を約束しよう。……どうだ、悪くない話だろう?」


 一生遊んで暮らせる、という言葉には少しだけ惹かれましたが、筆頭などという肩書きはいけません。

 そんな偉いものになったら、毎日会議と儀式で、お昼寝の時間がなくなってしまいますわ。


「お断りいたします。私はこの森で、静かに微睡(まどろ)んでいたいだけですから」


「断るだと!? この私が直々に――」


「――おい。気安く俺の主に触れようとするな」


 低く、地を()うような声。

 気づけばカイル様が、皇子と私の間に割り込んでいました。

 その全身からは、パチパチと青白い火花が散り、森の空気が焦げ付くような重圧に満たされています。


「マクシミリアン。彼女はオーレリア国王から自治区を認められた、この地の主だ。……貴様のような鉄の信奉者に、渡すわけがないだろう」


「カイルか。貴公のような野良犬に、彼女の価値は宝の持ち腐れだ。……彼女の力は、帝国という巨大な仕掛けの中でこそ輝くのだ」


「仕掛けだと? 彼女を道具扱いするつもりか。……これ以上その減らず口を叩くなら、貴様の鉄の玩具(おもちゃ)ごと、灰にしてやる」


「やってみるがいい。……我が国の全戦力をもってしても、彼女を手に入れる価値はある」


 火花が散る。

 いいえ、物理的にカイル様の雷鳴と、皇子が懐から取り出した魔導核(まどうかく)が共鳴して、空気がビリビリと震えています。

 

 ……あぁ、もう。


「…………うるさいですわ」


 私がぽつりと呟きましたが、意地を張り合う二人の耳には届きません。


「彼女は俺が見つけたんだ!」


「私の方が、彼女の力を有効に活用できる!」


 男の人というものは、どうしてこうも勝手なのでしょう。

 活用だの、所有だの。

 私は私のために、今この瞬間を快適に過ごしたいだけなのです。


 私は溜め息をつき、座っている大王蔦(だいおうづた)の茎を優しく叩きました。


「……お願い。少し静かにさせて」


 私の意思に応え、足元の地面が盛り上がりました。


 ズザザザザッ!!


「なっ、何だ!?」


「うわっ!?」


 叫び声を上げたのは二人同時でした。

 地面から噴き出した捕縛根(ほばくこん)が、カイル様とマクシミリアン皇子の足首を瞬く間に絡め取り、そのまま地面へと引き倒したのです。


「フローラ!? 何の真似だ!」


「離せ! 私は皇子だぞ!」


「いいえ。今の貴方たちは、お昼寝を妨げる喧騒(けんそう)の種ですわ」


 私は大王蔦(だいおうづた)の上に寝転び、上から二人を見下ろしました。

 

「カイル様も、皇子様も。そんなに元気が余っているなら、頭を冷やして三刻ほど寝ていなさい。……エルザさん、準備を」


「承知いたしました。……無理やり眠らせるための香草を焚きますわ」


 背後で控えていたエルザさんが、事も無げに香炉(こうろ)を用意しました。

 強力な鎮静作用のある紫色の煙が、地面に縫い付けられた二人を包み込みます。


「ま、待て……俺は、まだ……」


「フローラ……君……は……」


 どれほど強い武力や権力を持っていても、私の雑草の拘束と、エルザさんの手際からは逃れられません。

 二人の(まぶた)が、(あらが)いようもなく重くなっていきます。


 やがて。

 森の広場に、規則正しい二つの寝息が響き始めました。


「……ふぅ。やっと静かになりましたわ」


 私は満足げに目を閉じました。

 帝国からの勧誘も、カイル様の独占の情も、寝てしまえば同じことです。

 

 争う(いとま)があるなら、寝ればいいのです。

 私の森に、不毛な(いさか)いは必要ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ