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『風の夜に』

とりあえず、読んでみてください。


Ⅰ 目覚め


夜半、ふと目を覚ます

窓の外を吹きすぎる風が

遠い記憶のように

胸の奥をかすかにかき乱す



Ⅱ 風の声


風は

誰かの名を呼ぶように

あるいは

何かを忘れさせようとするように



Ⅲ 耳を澄ます


私は

寝台に身を起こし

その音に耳を澄ませる

けれども

風はただ

夜の深さを際立たせるばかり



Ⅳ 窓辺へ


やがて

私はそっと立ち上がり

窓辺へと歩み寄る



Ⅴ 揺れる影


硝子越しに見る庭の木々は

風に煽られ

何かを訴えるように身をよじる

その姿が

ふと彼女の横顔に重なる



Ⅵ あの晩


あの晩も

こんな風の夜だった

彼女は黙って

私の言葉を聞いていた

いや

風の音に耳を傾けていたのかもしれない


私の声は

もう彼女の心には届いていなかったのだ



Ⅶ 記憶の襞


風は

記憶の襞を剥がすように

沈んでいたものを呼び起こす

それは痛みではなく

懐かしさだった



Ⅷ 輪郭


失われたものの輪郭が

夜の闇に

かすかに浮かび上がる



Ⅸ 梟の声


私は

風のなかに立ち尽くす

やがて、森の奥から梟の声が聞こえた

私は我に返る



Ⅹ 静けさ


夜はまだ深く

そして冷たい

けれども

風に包まれていると

心は不思議と静まっていった



Ⅺ 撫でるもの


まるで風が

私のなかの何かを

そっと撫でてくれているようだった



Ⅻ 月明かりの庭


窓を開ける

冷たい風が頬をかすめ

遠い山の気配を運んでくる

その冷たさが

かえって心を澄ませてくれる


月明かりの庭は

現実離れした静けさを湛え

木々の影が

水面に映る夢のように揺れている



ⅩⅢ 手紙


ふと

机の上の手紙に目がとまる

彼女が去ったあとに届いた

最後の便り


封は切られず

私は読むことなく

ただそこに置いていた



ⅩⅣ 終わりの予感


読むのが怖かったのではない

読めば

すべてが終わってしまう気がしていたのだ



ⅩⅤ 風の後押し


風がまた

ひときわ強く吹く

その音に背中を押され

私は手紙を手に取る



ⅩⅥ 筆跡


封を切ると

紙の匂いが

懐かしい記憶を呼び起こす


彼女の筆跡は

以前と変わらず

頼りなく

それでいて決然としていた



ⅩⅦ 風の祈り


「あなたがこの手紙を読むころ

私はもう、あの町にはいないでしょう

けれども、風の強い夜には

きっとあなたのそばにいるような気がするのです」



ⅩⅧ 気づき


私はその一節を

何度も読み返す

そして気づく


この夜の風は

彼女の声だったのだ


忘れようとしていた記憶ではなく

忘れずにいてほしいという

静かな祈りだったのだ



ⅩⅨ やさしい響き


私は手紙を胸に抱き

もう一度

夜の庭を見やる


風はまだ吹いていた

けれどもその音は

もはや私を眠りから引き離すものではなかった


それは

どこかで誰かが

そっと私の名を呼ぶような

やさしい響きに変わっていた




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読んでくださった方々、ありがとうございました♪

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