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第1話 猫のぬいぐるみは語る

初投稿です。

拙い文章ですが、どうぞお付き合いください。

ワタクシは猫のぬいぐるみにございます。

……いえ、正確には、“猫のぬいぐるみに宿る精霊”にございますの。


黒い布地に淡く藤色に光る瞳、二足歩行の手足に尻尾、幼子ほどの背丈――見紛うことなき、猫のぬいぐるみでございましょう?


名を、セレーネと申します。

この名は、我が主がワタクシを召喚した夜につけてくださったもので――

ワタクシの瞳がその晩の月と同じ様に、美しく淡い藤色に輝き、月の女神の様だったからそうですわ。


月の女神の名をいただくなど、精霊の使い魔風情にはいささか大仰ではございますけれど……

ふふ、けれど我ながら気に入っておりますのよ。


そんな我が主、アーヴィング・クロフォード様は、

ワタクシの視線など意に介さぬ様子で、

黙々と車椅子の調整を続けておられました。


この様子だと、昨晩は碌にお休みになられておりませんわね……。

あれほど「車椅子弄りは程々に」と申し上げたのですけれど、ご理解いただけなかった、ということでしょうか。


はぁ……まぁ、いいですわ。今からでもお休みいただきましょう。


「マスター、そろそろ休憩されては如何ですか? お身体に障りますわよ?」


カチャカチャ、カチャカチャ――。


「……マスター? 聞こえております?」

「うーん、ここもうちょい魔道効率上げられないか……? でも、そうすると制御がシビアになるか……」

「マスター? ま、す、たー?」


呼びかけても返事はなく、工房の中には魔石の光と金属の擦れる音だけが響いております。


ワタクシは、散らばった工具を避けつつ、ぽふぽふと歩き、彼の背後へ。腰に手を当て、すぅ〜っと息を吸い込む”動作“を行い――ー


「我 が 主 !!!」


「うわあぁっっ!?」


突然の声に、我が主は見事なほどに跳ね上がりました。工房の奥で転がるスパナが、カラン、と軽やかに音を立てます。


まったくもう……。

このお方は魔道具の魔力回路は数ミリ先まで気を配るのに、ご自身の休息となると全く無頓着なのですから。


***


「ご、ごめん……つい、車椅子の調整に夢中になっちゃって。今日は休みだったし、ちょっと夜更かししても大丈夫かなって……」


「……我が主? 先日ワタクシが申し上げたことは、記憶にございまして?」


「もちろん覚えてるよ? 仕事や趣味に夢中になるのはいいけど、ほどほどにしろって話でしょ?

わかってはいるんだけどさ……こう、思いついた時に手を動かさないと感覚が逃げちゃう気がして……。

気づいたら、朝で」


「さもありなん、ですわね」


我が主は情けなく眉尻を下げ、苦笑いを浮かべます。

はぁ、仕方ないですわね。

この性分はいまに始まったことではありませんし、最近は学業とお仕事続きで趣味――つまり車椅子の調整――に手をかけられませんでしたもの。


「…わかってらっしゃるなら結構ですわ。さぁ、軽食を用意いたしました。召し上がったら一旦お休みなさいませ、我が主?」


「……え、えーと、セレーネ? その“我が主”って呼び方、“マスター”に戻してくれないかなぁ……?」


「あら? 可笑しいですわねぇ? 何度も“マスター”とお呼びしてもお返事がなかったものですから、

てーっきり“我が主”の方が良いのかと思いましたのよ?」


「ご、ごめんって! 悪かったから! お願いだから“マスター”に戻して!?またあの教授に聞かれたらなんて揶揄われるか……!次はちゃんと返事するよう努力はしてみるから!」


「……“努力”という曖昧な言葉を選ばれるあたり、どうかと思いますけれど。

ですが――“出来ない約束をしない誠実さ”と捉えておきますわ、マスター?」


「ありがとう、セレーネ……!」


ふふ、まったく。

このお方と過ごす毎日は、手がかかって仕方がありませんわ。

けれど……それでも、嫌ではないのです。


今日もまた、穏やかで――少し騒がしい朝の始まりですわ。


いかがでしょうか?

少しでも面白いと感じでいただければ幸いです。

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