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3話 戦闘準備

この度、こちらの小説に興味を示して下さりありがとうございます。

こちらの小説は、よくある弱小野球部が甲子園を目指す物語ではありますが、その様子が監督目線で描かれたものになります。また、決して交わる事のない監督とマネージャーという立場を合わせ持つヒロインが、監督として野球部員を引っ張っていったり、時にはマネージャーとして友に青春の日々を過ごしたりとその都度、変わる感情や態度などに注目して読んで頂けたら幸いです。


 打倒、監督という目標を掲げてから3日が経過した。

 今日もサインの実演練習をしていた。

 「次、ランナー3塁でキャッチャーのリターンをもらう(アウトになったらダメよ♡)のサインの練習。じゃーランナー猿吉、キャッチャー荒澤、バッターは俺、ピッチャーは木田で1回やってみよう」

 その平園が仕切ると、各々持ち場に行く。

 他の人は外からその様子を観察している。

 「じゃーはじめー」

 平園の掛け声に合わせて、木田が投球操作に入る。それに合わせて猿吉が気持ち大きめに第2リードを取り、ボールがキャッチャー荒澤の元に届く。

 「もうちょい、第2リード大きく取らないと投げる気にならないかな」

 そう荒澤が言うと、猿吉はわかったと言い、もう一度同じ行程を踏む。

 その際に猿吉はさっきより少し大きめに第2リードを取る。

 「うん、それぐらいなら投げると思う」

 荒澤がそういうと分かったとジェスチャーで返す猿吉。

 「実際に投げてみてくれるか?」

 そう猿吉が荒澤に提案する。

 「あー、じゃー俺サード入るわ。誰かバッター役頼む」

 そう平園が言うと、バッターボックスに土井が無言で入ってきた。木田の投球動作に合わせ、猿吉が第2リードをして、ボールが荒澤の元に届き、荒澤がサードに投げ、猿吉が急いで戻る。

 タイミングはギリギリセーフといったところだ。

 「これぐらいだな!藍然高校のキャッチャーの肩も荒澤と同じくらいだったからこれで良いと思うぜ」

 そう猿吉が得意げにそう言うと、平園が無言で頷き、他の見ていたメンバーに同じようにランナー役をやって見るよう指示を送る。

 とこんな感じでサインの実演練習を進めている。

 今は26個目の項目だ。数としては丁度半分で順調と言えるだろう。

 すると、野球はじめたての東川が近くにいた宮地に問いかけた。

 「あの、宮地先輩。さっき荒澤先輩が言っていた投げる気になるってどう言う意味ですか?」

 すると、宮地は中学校に先生から言われたことを思い出しながら解説を始めた。

 「キャッチャーから3塁に投げるという行為は、もちろん3塁ランナーをアウトにすることを目的に投げるんだけど、一回のミスで即刻点に繋がるから、よほどアウトにできる自信がないと投げてこないんだよ。だから荒澤の投げる気になるっていうのはキャッチャーにこれはアウトにできると思わせるほど3塁ランナーがベースから離れているってことだな」

 宮地は我ながら分かりやすく説明出来たと思い、ドヤ顔をかましていた。

 しかし、東川はどこか腑に落ちない表情を浮かべた。

 「えーと、じゃーこれって何のためにやるプレーなんですか?わざとキャッチャーに投げさせることによって何になるんですか?」

 そう聞かれるとなんでだろうと自問自答を始める宮地。

 しかし、このままでは先輩の威厳が損なわれると感じ、頭をフル回転させた後に

 「キャッチャーのミスを誘って一点を取りにいく作戦だよ!」

 とさぞ合ってるかのように答えた。

 「なるほど!さすが宮地先輩!」

 東川は納得し関心を示した。

 宮地は少し心が痛くなった。

 しかし、宮地の意見も間違ってはいない。相手のミスを誘うというのは立派な作戦だ。

 それでも、サイン表を見ると、他にもいつ使うのか分からないサインが半分ほどあった。

 あの人のことだから何かもっと深い考えがあるのだろうと思いサインを見返す宮地。

 「おー、やってるねー!」

 噂をすれば、3日ぶりにグラウンドに青山が姿を現した。

 手にはタッパーのようなものを抱えている。

 「そんな頑張っているみんなに差し入れがあります!」

 そう言いながらタッパーを開けるとそこには蜂蜜レモンがぎっしりと詰まっていた。

 9月とはいえ、まだまだ暑い。そんな時に持ってこいの差し入れだ。

 「おー!うまそー!いただきます!」

 東川が真っ先に食いついた。

 誰よりも早く用意された爪楊枝を取り、レモンを口の中に放り込む。

 「もしかして、手作りっすか?」

 猿吉が興味津々に聞いてみる。

 「えー、昨日から準備してつけておいたから味も十分に染みているはずよ!」

 その言葉にテンションが爆上がりする球児たち。

 東川に続いて爪楊枝を取り、レモンを頬張り始める。

 念願の女性の手料理に歓喜する猿吉。

 他の球児たちも食べる手が止まらない。

 しかし、荒澤だけは爪楊枝すら持たずにいた。

 「レモンは嫌い?」

 すかさず青山が爪楊枝にレモンを刺した状態で荒澤に差し出す。

 もちろん、荒澤もレモンが嫌いだから食べないのではない。

 「うちの祖父から送られてきた新鮮なレモンで美味しいよ?」

 さらに追い打ちをかける青山。

 すると、たまらず荒澤は青山に聞いた。

 「なんで、こんなことするんだ?こんなの監督になるのに関係ねーだろ!」

 すると、青山はおかしかったのか少し笑みがこぼれた。

 その表情がバカにされたのかと思った荒澤は少し声を荒げて、なんだよと言った。

 「言ったでしょ?私はマネージャー兼監督だって。これはマネージャーとしてやってるの」

 それを聞くと、マネージャーとしてなら良いと判断したのかその爪楊枝を受け取りレモンを口の中に放り込んだ荒澤。

 「美味しい?」

 そう冗談混じりで荒澤に聞く青山。

 それに荒澤はまぁまぁと強気に答えた。


 タッパーは空っぽとなり、球児たちは一休みをしていた。

 「じゃーこの後も引き続き自分たちで練習するように!」

 そう青山が声を張り上げると、再度サインの実演を始めた。

 「あ、それからバッテリーは別メニューするから肩を作ってちょうだい」

 そう青山が言うと、荒澤と木田が反応する。

 「メニューは俺たちに任せるんじゃないんですか?」

 とまた荒澤がまた突っかかるような言い方をする。

 「3日後は試合よ?それまで木田くんに一球も投げさせないつもり?」

 そう言われ、しゃーなしにキャッチボールの準備を始める荒澤。

 木田もついていくかのように準備を始める。

 青山が2人のキャッチボールの様子を見ていると、平園が話しかけてきた。

 「あの、ちょっと質問いいですか?」

 すると、青山は気持ちよくその質問を聞き入れる。

 「どうやって藍然高校ともう一度練習試合を組んだんですか?」

 平園は前から引っかかっていたことを青山に聞いた。

 青山は少し沈黙の後に口を開く。

 「藍然高校の監督はね、選手の想いを尊重する人なの。選手がもう一度練習試合がしたいと言えば監督は相手校にお願いするし、したくないと言えば向こうから試合の誘いが来ても断るわ」

 そう青山が説明した。

 平園は冷静に話を聞く中でさらに訳が分からなくなった。

 「え、でもその話が本当なら今回の練習試合は組めないと思うのですが?」

 平園の言う通りである。だって、やっても意味ないと選手たち本人の口から聞いているのだから。

 「・・・」

 しばらく沈黙が続く。

 「おい、肩作り終えたぞ!」

 そんな中、荒澤が木田と共に青山の元にやってきた。

 「おー、じゃー早速ブルペンに行きましょうか!」

 そう言うと青山は無理やり荒澤と木田をブルペンに向かわせた。

 平園は逃げられると思い、引き留めようとする。

 しかし、その前に青山が止まって振り返りこう告げた。

 「平園くん、大人には大人のやり方があるんだよ」

 そう言い残すと、青山は再び振り返りブルペンへと向かった。

 残された平園はしばらくその場で考え込んだ。

 そして、考え抜いた結果こう呟いた。

 「え、、、まじで親、総理大臣・・・?」


 バシッ!

 その頃ブルペンでは木田が荒澤のミット目掛けて投げ込んでいた。

 初めの5球は何も言わずに荒澤の横でただ見ていた青山。

 「木田くんってストレート、カーブ、スライダーの3球種よね?」

 6球目に差し掛かろうと言うところで荒澤に小声で確認した。

 「、、そうだけど?」

 荒澤はなんで知ってんだと言わんばかりの感じで答えた。

 「ちょっと変化球1球ずつ投げさせてみてよ!」

 青山はテンション高めに荒澤に要求する。

 荒澤はそのテンションが気に入らないのか、いやいや木田にカーブを要求しミットを構える。

 要求通りにカーブを投げ込む木田。

 その様子を見守る青山。

 「じゃー、次スライダーね!」

 荒澤はさらに声を荒げてスライダーと言い、再びミットを構える。

 その声に少しビビる木田。

 だが要求通りミットにスライダーを投げ込む。

 それを見終わると青山は何かを決めた様子で頷いた。

 何か嫌な予感を察した荒澤はなんだよと青山に釘を刺した。

 「別にー、あ、あとこれ荒澤くんに渡そうと思って」

 そういうと、青山は荒澤に3枚程度の紙の束を渡した。

 いやいや受け取る荒澤。

 すると、そこにはピッチャーへのサインがびっしりと書かれていた。

 これを見て全てを察した荒澤は急に怒り始めた。

 「はぁ?お前まさかピッチャーへのサインも指示する気か⁉︎」

 この声には木田だけではなく、他の球児たちも驚いた。

 「そうだけど、何か問題でもあるの?」

 青山がまたも当たり前かのように聞き返す。

 「ふざけんな!なんで俺が打撃だけでなく、ピッチャーのリードまでもお前の指示に従わなきゃいけない  

 んだ!!」

 そういうとサインの書かれた紙の束を青山に突き返した。

 すると、青山が得意げに話始める。

 「えー、でもあなたのリードで結果的には11失点もしてるじゃない。私なら5失点くらいには抑えられるけど?」

 荒澤がカチンッときて言い返す。

 「言ったな!じゃーやってみろよ!!その代わり、その点数超えたら今後一切、俺のリードに口出しさせないからな!!」

 「じゃー、交渉成立ということで」

 そう言うと、青山は返された紙の束を再び差し出した。

 そして、荒澤はその紙の束を勢いよく受け取った。

 その様子を遠目から見ていた球児たちは荒澤の学習能力の無さに呆れていた。

 すると、青山が追い打ちをかけるように口を開く。

 「そういえば、私が監督を続ける条件覚えてるよね?」

 荒澤は訳もわからず条件?と聞き返す。

 「サインミスを一回でもしたら問答無用で監督を続けるってやつ」

 そう青山が言うと、荒澤の顔面は蒼白となった。

 50個のサインに加え、荒澤にはピッチャーに対するサイン30個が追加された。

 もちろん、このサインも荒澤が間違えてピッチャーに要求すればサインミスとなる。

 荒澤は発狂しながら、ピッチャーへのサインを覚えるため、その場から逃げるように立ち去った。

 嵐のような時間が過ぎ、ほっと一息つく木田。

 その様子を見るなり、青山は木田に歩み寄って優しく聞いた。

 「ねぇ、木田くんってもしかして元はサイドだったんじゃない?」

 木田は驚いた表情をした後に軽く頷いた。

 「元々サイドだったんですけど、荒澤くんにお前の身長を活かすならオーバーにした方が良いって言われ 

 て高校から変更しました。」

 木田の身長は181cmとチームで2番目の高身長だ。

 だから、オーバーの方が角度のついた投球ができ、身長を活かすことができるという荒澤の言い分も間違ってはいない。

 しかし、青山はそのことを確かめるなりニヤリと笑い、木田にこう告げた。

 「木田くん、日曜日はサイドで投げなさい」

 その言葉に木田の顔面は蒼白になった。

 「そそっそ、、そんなことしたら荒澤くんに怒られます!!」

 「大丈夫!荒澤くんも初めは少し怒るかもだけど、打たれなければ文句のつけようがないから」

 「でも最初は怒られるんじゃないですか!」

 「大丈夫!ちゃんと木田くんに対して怒らないっていうサインも書いてあるから」

 「本当ですか⁉︎」

 「うそ♡」

 「じゃー嫌ですよ!!」

 「でも、本当はサイドで投げたいんでしょ?」

 「・・・!」

 その問いに木田は言葉を詰まらせた。

 「藍然高校の試合の時、木田くん全然楽しそうじゃなかったわよ?木田くんのように、おどおどして弱気なピッチャーも別に居なくはないわ。でも、投げるのが嫌いなピッチャーはこの世に1人も居ないわよ」

 そう言うと青山は、木田の左肩を強めに叩いた。

 そして、青山は他の球児たちの元に向かった。

 残された木田は青山の言葉を思い出しながら、叩かれた左肩ではなく、左胸を押さえながらこう呟いた。

 「いってぇ〜、、、」

初めまして!かすたむと申します。

高校まで野球小僧だったものです。野球部時代、こういうマネージャーがいたら良かったななどの妄想がこの作品の原点です。さらに、そこに監督というスパイスが加わればストーリーにも厚みが出て、新規制もあり面白いかなと思い書き始めた作品になります。野球を知っている人も知らない人も楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。ぜひ今度ともよろしくお願い致します!

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