わからない
ありがとうございました。
部屋の隅に、昼と夜の区別がない。
空気はよどみ、時間だけが黙って通り過ぎていく。
与えられてきたものが多すぎて、手はずっと塞がっていた。
誰かの期待で満たされて、誰かの夢で飾られて、誰かの愛情で包まれた場所で、自分だけがどこにもいなかった。
光のない部屋にいると、ようやく自分の輪郭を思い出せる気がする。
何も求められず、何も答えず、ただ沈んでいく時間。
それが、たまらなく心地よかった。
けれど現実は、思い出したころにやってくる。
「今日は何かしたのか」「この先どうするのか」
言葉ではなく、空気の揺れとして、壁越しに染み込んでくる。
顔を上げれば、鏡の中の顔が何かを問うてくる。
ぼやけて見えない、それでも、「よく育った」という印だけははっきり見える
かつての温もりは、今では刃で、思い出すたびに胸の奥が静かに痛む。
優しかった声も、笑っていた顔も、今の自分にはただ鋭い。
「良かったはずなのに、どうして」と誰かが言うだろう。
そこには熱がありすぎて光が強すぎた。
焼かれた影が、心の奥にずっと残っている。
笑う誰か、手を差し伸べる誰か、その全てがまぶしすぎて。
だから音も光も届かない。
何も求められず、何も応えずに、ただ沈んでいける場所。
底のように静かで、冷たい。息を止めている方が、ずっと楽な場所。
ただひたすらに、静かで暗く、誰も何も語らない場所を望んでしまう。
ありがとうございました。