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独白-夕暮れ刻の風景(詠み人知らず)

歴史や時代・言語設定、文化背景、SF要素などはふんわりした設定です。ご了承の上、お読みください。

この物語はフィクションであり、作中に登場する国、歴史、神社、宗教、言語、人物などは全て架空のものであり現実は一切関係ありません。


我が父は、我が母を愛し、それゆえに命を分け与えた。

私はそれを生まれる前から知っていた。

父がその命を分け与えなくば、私は生まれてはこぬ運命であった。

いやその命を宿されることすらなかったであろう。




不思議と故郷と似ている夕暮れの空を見ながら、私は遠い日の事に思いを馳せていた。



「またこちらにいらしたのですね」

そう明るい声がした方向を見ると、妻がゆっくりと歩きながら石段に座る私の前にやって来た。

「そなたは、また供の者も連れぬで」

私がそう苦言を呈すると、

「大丈夫ですよ。あなた様が下さったこちらが守って下さいますから」

そう言って、妻は彫刻の施された腕輪をこちらに見せた。

それは私が職人に造らせたもので守護の念を込めたものであった。


「すまぬな。そのような飾り気の無い彩色の石で」

そう伝えると、

「あなた様と同じ名の石ですもの。なによりも愛おしいものです」

そう言って大事そうに黒石で施された腕輪に触れた。


「あなた様は本当に毎日このお宮に参りますのね」

妻は宮を眺めながらそう言って、私を見た。

「あぁ」

この宮は我が守り神であり、我が母であった。

私はこの宮を見捨てることが出来ず、共にこの地にやって来た。


「不思議なお姿ですけれど、どこか暖かい心地がいたしますね」

妻は私を見て微笑んだ。

「そうだな。だがそろそろ、この姿を変えなくてはならぬ」

周りを森林が囲み、今は私が結界を張っているので外の人間からは見えぬ様になっている。

だが、一族が迫害されぬためにも、この地に合わせた姿に変えねばならぬ時がきたようだ。

「よろしいのですか?」

妻が気遣ってそう尋ねてきた。

「構わぬ。我が母も、日女神様も、それで私を罰したりはせぬはずだ」

私が我が一族が生きるため、きっと許して下さるだろう。



我が妻とは、この地に降り立った時に出会った。

この辺一帯のムラを治める主の娘だった。

この娘が私を恐れるでもなく一族に招き入れてくれたおかげで、迫害されることもなく今日まで生き延びることが出来た。

娘は不思議と我が母を思い出させるような穏やかな微笑みと、未知のものを恐れない豪胆さを持ち、共にいると私の心は安らいだ。


私はその一族の中で暮らし、ある時、娘の父から一族の名づけを乞われた。

私は祖国の名の一部を取り、「シガラキ」と名乗るよう伝えた。

一族には他所から目をつけられぬ様に、ゆっくりと発展していくことを伝えた。


また秘術に長けた一族を仲間にしたことで、”根の者”、”草の者”を周囲のムラや国に放ち、この地と一族が荒らされぬ様に目を配った。


「この宮が姿を変えた時には、この子も言葉を話すようになっているだろう」

私はそう言って、妻の大きくなった腹にそっと触れた。

妻は微笑んだ。


「その時には、この宮の創設はこの子の名で。私の名は残してはならぬ」

私がそう伝えると、妻は悲しそうな顔で、だがそれでも、

「はい」

と頷いた。

そして、

「なにかお書きになられていたのですか」

と私が横に置いていた木簡を見た。

「相も変わらず、難しい言葉ですこと」

妻はそう驚く様な声で言った。


木簡に書かれた言葉は我が祖国の王族の言葉であった。

常の時には国の民と同じ言葉を使っていたが、王宮での祝辞や儀式、宮への奉納の際にはこの言葉を使ってきた。


遠い異国から来た己の名を残してはならぬ。

そう伝えながらも何かを留め残しておきたい心を捨て去れなかった。

私は病に侵され、もう長くはなかった。


「さあ帰りましょう」

妻がそう言って私に帰ることを促した。

そして、

「また、あなた様の故郷の話を聞かせてください」

そう微笑みながら言った。

「あぁ」

私も妻へ微笑み、語り始めた。



私は幼い頃に母を亡くしたが、不思議とその姿をよく覚えている。


我が父は私たちに母の話をよく語り聞かせた。


我が国の女王であった母がまだ姫君であった頃、王宮に入り込んだ猛獣がいた。

母は守られていた場所から猛獣のそばに行き、止めようとした父はその身を呈して庇い、よもやという所で母はその優しさと愛で猛獣を手懐けたのだそうだ。

これには父も従者も腰を抜かす程であったと言う。


父はその従者を若い頃は嫌っていたそうだが、母亡き後、少しの間その従者は私たちと共に遊んでくれていた。

だがその従者はまもなく亡くなってしまった。母の墓前であった。

父は泣いていた。……おそらく父も同じことをしたかったに違いない。だが私たちがいたから生きてくれたのだ。


父は母に贈ったと言う髪飾りを後生大事に手にしていた。あれは父の墓に共に埋葬した。


そなたにも、あの髪飾りに似た装飾を贈りたい。


我が国は、いまも何処かにおるのだろうか。兄上は息災にして楽の国を守り続けておられるのだろうか。















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