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第18話 月白の初詣 後編

今回は紅玉、桃里それぞれの視点パートで分かれています。

この物語はフィクションのため、作中の団体、人物、旅館、神社、伝説、医療、体質などは現実とは一切関係ありません。

<紅玉(こうぎょく)語り>



ここに来る前からわかっていた。

けれど5年ぶりに訪れたこの地に近づくにつれてそれに気づき、足を踏み入れた時には確信に変わった。

私が待っていた「あの人」とは彼のことだったのだと。


5年前の元旦、私がこの神楽神社に参拝した時、私はなぜか「あの人」が私に会いに来てくれると感じていた。

「あの人」が誰かもわからない。誰かとそんな約束をした記憶もなかった。けれど私の心は「あの人」を待ち焦がれていた。



1年後、私たちは出会った。

それは奇跡のようなめぐり逢いだったのだと今ようやく気づいた。

何の記憶も残っていないけれど、私たち2人はかつて約束したのだと、そしてその約束が果たされたのだと涙が(こぼ)れた。

ずっと会いたかった彼は、現在私の隣にいてくれる。私を好きだと、愛していると伝えてくれて、これからの時を共に歩んでいくことを約束してくれた。



かつて私はこの場所で祈ったのだろう。「彼に再びめぐり逢いたい」と。

今こうして願いが叶い、私はこの地を守る神様にそっと思いを伝えた。



はらはらと降っていた雪が強くなり、客足は途切れ、私たちは神社の事務所である社務所にお邪魔させて頂いた。

5年前に祖母と訪れた時もそうだった。毎年、祖母はお参りの際にこの社務所に寄り、神主さんや巫女さんの話を伺っていた。

私は巫女さんのお仕事について興味深い話を色々と聞かせて頂いた。

彼はテーブルで何かを見ていた。


私の位置からだと、彼の背中しか見えなくて、彼の表情も何を見ているのかもわからなかった。

ある時、一瞬だけ彼の背中に何か強い感情が走るのを感じた。

でもその後の彼は静かにじっと何かを考えているようだった。

その様子が少し気になりながらも、私は巫女さんたちとの話に戻った。


少しして私の方を振り返った彼は、いつもと変わらない笑顔を向けてくれていた。


雪はいつの間にか止んでいた。雲間から射しこんだ光で神社も木々も地面もキラキラとして、まるで祝福をされているかのようだった。

彼はもう一度参拝して良いかと尋ねた。そう尋ねた彼は微笑んでいたけれど、とても真剣な目をしていた。


神社を後にする時、彼は、

「来年もまた2人で初詣に来よう」

と言った。

私は嬉しくて、

「はい」

と元気に答えた。

彼はそんな私を見てすごく愛おしそうに微笑んだので、私は自分の頬が赤くなるのを感じた。

私はいつでも彼に恋している。

だからわかる。

彼の目にほんの少し切なさが浮かんでいたことに。






<桃里語り>



神楽神社に向かうためコートに身を包み旅館を出た彼女はまるで天使の様な雰囲気だった。


昨日から再び詣でた神楽神社で厄払いの御祈願を受けた。

今朝は少し暖かくて、紅玉が神社の敷地内を散策したいと言った。

風邪を引かない様に心配したが、とても楽しそうに景色を眺めていたので、

「冷えない様に、少しだけなら」

そう言って、明るく太陽の光が差す暖かい場所を歩いた。

歩いた先に古い鳥居があった。

古いがこの神社は非常に管理が行き届いていて、鳥居は冬の太陽の光に淡くキラキラと反射していた。

鳥居の上に掲げられている「神楽神社」の文字を見ると、大らかで元気があり、少し大胆でユニークな性格が表れている、まるで現在の神楽家の様な雰囲気の文字だった。


戻ってから神主さんに聞くと、古い鳥居に書かれた「神楽神社」の文字は神楽一族のはじまりの人物である神楽(なにがし)が書いたものだという(いわ)れがあると言った。


神楽某の書いた字は、あの木簡(もっかん)の字とは違う印象を感じた。

あの木簡の文字は、何と言うかもう少し冷たいという訳ではないが、淡々として繊細な、そんな印象の文字であった。



帰りの新幹線の中、紅玉はよく眠っていた。

俺は彼女の手をずっと繋いでいて、その寝顔を眺めていた。


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